「みんなお待ちかねだよ」
なんだ、コレはとはもう言わない。
流石に天丼も2回までだ。
というか、驚きのあまり何も言葉を発することが出来なかったというのが正解か。
先日、燐堂さんに叩きつけられた片手袋の入った袋を、思わず握り潰してしまい、慌てて、シワがないことを確認し、そっと胸をなで下ろした。
決闘するから来いと言われたので、学校も休みである土曜日の午後3時に、先日お茶会をしたバラ園までやってくると、そこは様変わりしていた。
なんなら昨日もここで3時のお茶を楽しんだのだが、一日にしてまったく違った様相である。
多くの生徒達がギャラリーとして集まり、円を作っている。
その中央には、二つのテーブルが並べられ、そこに、燐堂サツキとメイドのアヤメさんの姿がある。
ちなみに、あれほどしつこく絡んできていた燐堂さんだったが、あれ以来、今日までいっさい話しかけてこなかった。
もしかしたら、人知れず、決闘とやらの訓練でもしていたのかもしれない。
というか、決闘の内容すら知らされていないんだが。
さすがに、剣持って闘うとかはないよな。
「あっ、リョウマ君、待ってたよ」
ギャラリーの中から、見知った顔が現れる。
春日晴子だ。
こういう状況で知り合いに会うと、少し落ち着く。
「さぁ、リョウマ君もヨシノさんも、みんなお待ちかねだよ」
そう言って春日さんは、俺の手を引っ張り、中央へと連れて行く。
それに合わせて歓声が上がる。
ヨシノさんは、その歓声の輪の中へ、いつもと変わらぬ足取りで後から入ってくる。そこで、更なる大きな歓声へと変わる。
「待ちかねたわよ、鳳両真。レディを待たせるなんて、ずいぶんですわね」
「ごめん。時間通りには来たつもりなんだけど。あとこれ、先日の手袋。一応洗濯しておいたから」
燐堂さんは、それをひったくると、プイっと目を背け、側に置いてあった椅子へと座った。
「リョウマ様もこちらへ」
声をかけられ振り向くと、ヨシノさんが椅子の背もたれを持って待っていた。
あっ、うん。と返事をしながら、その椅子へと座った。
そこで初めて正面を見る。ギャラリーの影になっていて気付かなかったが、そこにはこちらと向かい合うように、テーブルが置かれ並んで椅子に座る面々がいた。
そして、その横に置かれたスピーカーから声が流れる。
『では、両者揃いましたね? みなさん、お待たせいたしました。これより、メイドバトルを始めたいと思います!』
「はあっ? メイドバトル?」
俺の更なる混乱が、ギャラリーの歓声によって押しつぶされてしまった。