「とりあえず、洗濯しておきましょうか?」
「なんだ、これは」
約、三時間前にも同じことを言った気がする。
校舎近くの広場には、バラ園がある。
まだ春先なので、あまり花は見当たらない。
そこに、いくつもの白い丸テーブルが並べられ、バラのように美しい? 生徒たちが午後のティータイムを楽しんでいる。
「この学校は3時のティータイムもあるのか」
「ほら、リョウマ君も早く座って」
見ると、すでに春日さんは椅子に座り、もう一個の椅子をバンバンと叩いている。
ヨシノさんは、また無言で紅茶をカップに注ぐと、春日さんに差し出していた。
俺も、ヨシノさんに俺のメイドになって欲しいと頼んだわけではないので、彼女の好きにしてくれればいいのだが、主人である俺より先に、春日さんに紅茶を出すというのは。
まぁ、主人の友人である女性に、先にお茶を出すというのも、レディーファーストという意味では正しいのかもしれない。
「デル校では、ティータイムがあるって聞いてたから、私もお菓子を持ってきてるんだぁ」
そう言って彼女が取り出したのはひとつの箱である。
パッケージには『えのきの丘陵』と書かれている。
「わたし、これ子供のころから好きなんだよねぇ」
そう言いながら、春日さんは、ヨシノさんが焼いたであろうスコーンの並べられた皿の上に、スコーンを少しずらしてスペースを作ると、バラバラと転がした。
細長いクッキーの先に、丸く小さなチョコレートが付いている。
チョコとクッキーの割合おかしくないか? と思いながら、1本頂き食べてみる。
チョコの部分は美味しいが、あとは思ったとおり、ただの細長いクッキーだ。
「こんなのあるんだね」
「リョウマ君、知らないの? やっぱりお金持ちの家では食べないのかな」
「うーん。どうなんだろ。まぁおやつとかはメイドさんが作ってくれたりするしね。わざわざ買わないのかも」
そう言いながら今度はスコーンも頂く。とても美味しい。焼きたてなのだろうか。それだと、昼食の準備をして、スコーンも焼いて、メイドもかなり忙しい。大変な仕事だ。
「美味しいですよ、このスコーン」
「ええ、当然です。美味しくないスコーンはお出ししませんから」
片方の髪をかき揚げながら言う、ぶっきらぼうな返事に、可愛くないメイドだと感じる。
「あっ、今、ヨシノさん照れたよね? 耳、赤かったよ?」
「そっ、そんなことありませんよ」
ヨシノさんは、慌てて髪を整えるような仕草で、耳を隠す。
照れると耳が赤くなるのか。紅茶を口につけながら、心の中で反芻する。
「あら、また貧乏くさいモノをお口に召してますのね」
「また君か」
「また、とは失礼ね」
また燐堂サツキが現れる。
どんだけ暇なんだ彼女は、、、
「失礼な発言を先にしたのは燐堂さんの方だろ?」
「この名門、デル・フィオーレ学院にて、駄菓子を口になさっている方に、そのことを伝えて、何がいけないのかしら」
「駄菓子だって、美味しいよ」
「何をおっしゃるのかしら。駄菓子より、高級ショコラの方が美味しいに決まってますわよ」
春日さんの反論に、燐堂さんはホッホッホッと高笑いを返す。
「じゃあ、大人しく自分の席で、その高級ショコラを食べてなよ」
「あら、せっかく鳳両真様をわたくしのテーブルに招待差し上げようと思っておりましたのに。残念ですわ」
「いいよ別に。俺は、このスコーンとこのえのきの丘陵で十分だから」
「ここまで言って、わたくしの誘いを断るなんて。いいですわ。本物というモノがどれほどすごいのか。教えて差し上げます」
そう言って、純白の手袋を片方外すと、テーブルの上に置いた。
「決闘をしましょう。今週末の土曜日の午後3時、ここにいらしてください。わたくしにここまでさせて、この誘いを断るのは、さすがにありえませんことよ」
「ちょっと、コレ」
俺はその手袋をとり、慌てて返そうとするも、燐堂さんはこちらを見向きもせずに去っていった。
「ごめんね、リョウマ君。また私のせいで。今度は、なんか大変なことになっちゃって」
「いいよ、春日さんは悪くない。それよりどうしよ。決闘って何よ。それにこの手袋、どうしたらいいんだよ」
「とりあえず、洗濯しておきましょうか?」
「そうだね。よろしく、ヨシノさん」
そう言って、燐堂さんの手袋をヨシノさんに手渡した。