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うちのメイドは1歩前をゆく  作者: おしぼり
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「こんなの初めて見たよ」

「なっ、何なんだ、これは、、、」


 テーブルに並べられた絢爛豪華な食事を見て、俺は言葉を失う。


「わぁー、こんなの初めて見たよ」


 俺の横では、春日さんがノンキな声を上げている。


 今はお昼休み。

 俺と春日さんは食堂へとやってきた。

 デル・フィオーレ学院には食堂がたくさんある。

 食堂で食事をするものもいれば、家から持ってきたお弁当を教室で食べる者もいるだろう。にも関わらず、多くの食堂がある理由がわかった。

 

「これ、ヨシノさんが作ったの?」

「もちろんです」

「なんで?」

「そりゃあ、主人の食事の用意はメイドさんの仕事だからだよ。ね、ヨシノさん」

「ええ」


 春日さんの言葉に、ヨシノさんが頷いた。

 どうやら、俺たちの授業中に、昼食の用意をしていたようだ。

 周りを見ると、他のテーブルにも、この料理に引けを取らない豪華な食事が並んでいる。

 そして、さっそく生徒たちはそれらを口にしていた。


「リョウマ様。どうぞこちらへ」


 ヨシノさんが椅子を引いてくれる。そこに腰掛けると、ヨシノさんは、お茶をカップへと注いでいる。


「さぁ、冷めないうちにお召し上り下さい」

「う、うん。ありがと」

「じゃあ、私はこれで」


 振り返ると、春日さんがそう言って食堂を出ようとしていた。


「ちょっとまって、どうしたの?」

「私、お弁当あるから。リョウマ君と食堂で一緒に食べようかと思ったんだけど、お邪魔になるし」

「そんなことないよ。一緒に食べようよ」

「でも、こんな料理の前じゃ、、、」

「気にすることないよ。一緒に食べよ。いいでしょ? ヨシノさん」

「私は、構いませんが」

「ほら、ね? みんなで食べたほうが美味しいしさ」

「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて」


 春日さんはそう言うと、こちらへやってくる。それを見て、ヨシノさんは、どこからかもう一脚、椅子を持ってくると、俺の向かいに用意した。

 春日さんはそこに座ると、持ってきたお弁当を広げる。

 黄色い生地に茶色い猫の絵が描かれた巾着から、小ぶりの、ピンクのお弁当箱が姿を見せる。お弁当箱には、黒い猫の絵が描かれている。


「可愛らしいお弁当箱だね」

「ありがとう」

「ねこ、好きなの?」

「うん。ウチでも飼ってるんだ。黒色で、お腹が白いの。おはぎって言うんだぁ」

「へぇ今度、見に行ってもいい?」

「うん。いいよ」


 弁当を開けると、ウインナーに玉子焼きとオーソドックスであり、かつ、ハズレのないラインナップが並んでいた。

 

「美味しそうだね」

「うん。お母さんが作ってくれたんだ。あ、でも、玉子焼きは自分で作ったんだよ」

「へぇ、綺麗に焼けてるね」

「そうかなぁ。ありがとう」

「あら、どうも食堂から貧乏臭い匂いが漂ってくると思ったら、アナタでしたの」


 見ると、燐堂サツキがこちらを見下すように視線を向けていた。

 まぁ、こちらは座っていて、向こうは立っているんだから、見下ろす形になるのは仕方がないが。

 

「ごめんね。リョウマ君。やっぱり私、教室で食べるね」

 

 そう言って立とうとする春日さんの手を握って止める。

 そして、俺は春日さんが作った玉子焼きをひと切れつまむと口の中に放り込んだ。


「春日さん。美味しいよ、この玉子焼き」

「ちょっ、リョウマさん?」

「あっ、ごめんね。美味しそうだから思わず食べちゃった。代わりに春日さんも、好きなの食べていいからね」

  

 春日さんと燐堂さんは、目を丸くして言葉を失っている。

 ヨシノさんは、何も言わず、表情も変えないまま、こちらに布巾を差し出してきた。

 俺はそれを受け取ると、手を拭いた。


「おっ、鳳家の嫡男が、庶民の料理を口にするなんて。それも、手づかみで。鳳家も地に堕ちたものね」

「そうかい? 彼女の玉子焼きは絶品だったよ。もちろん、うちのヨシノさんの料理も絶品だけどね」

「フンッ、美味しい料理の作れないメイドなんて必要ありませんわ。行くわよ、アヤメ」


 そう言って、燐堂さんは去っていった。


「なんだったんだアイツ。てか、いいのかよこんなにのんびりしていて。お昼休みなくなるだろ」

「ごめんね、リョウマ君。私のせいで、せっかくのお昼休みが、、、」

「気にしなくていいよ。それより、そのウインナーも貰っていい?」

「いいけど、ヨシノさんの料理も食べないと、、、」

「そうですね。そんなに春日様の料理がお気に召したのでしたら、明日からは春日様に作って貰えばいいんじゃないですか?」

「ご、ごめんヨシノさん。食べるよ料理。うん、美味しいよ」


 そう言ってローストビーフを口に入れると、必死に笑顔を作った。


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