「メイド持参可?」
デル・フィオーレ学院高等学校。
知る人ぞ知る、お嬢様お坊ちゃま学校である。
地元、石嶺市の住民からは、デル校という名で親しまれている。
俺は、その正門をくぐると、早くも少し後悔をした。
恐らく父の計らいだろう、家から学院まではかなり近かったため、徒歩でやってきたのだが、正門から、校舎までめちゃくちゃ距離があるのだ。
遠くにそびえ立つ校舎を見て、うんざりする。
そして、横を見ると、大量の高級車が列を成していた。
付き人による送迎の車だ。
車は無理にしても、せめて自転車でくれば良かった。
そう、大きくため息をつく。その時、
「あぶなーい!」
後ろから叫び声が聞こえ、振り向くと、少女の乗った自転車がこちらへと突っ込んできていた。
「うわっ!」
とっさに避けようとするが、間に合いそうもない。
衝突を覚悟した瞬間、俺の身体が宙へと浮く。
「へっ?」
見ると、ヨシノさんが、俺の身体をだき抱えていた。
そして、俺のいた場所を通過して、暴走自転車は止まった。
ヨシノさんの力強さにドキっとしている俺を、ヨシノさんは地面へと下ろした。
「ごめんなさーい。大丈夫でしたか?」
「あぁ、大丈夫だよ」
「よかったぁ。登校初日から事故なんて起こしたら、どうなっていたことか。綺麗な学校だなぁって、よそ見して走っていて、、、」
そう言いながら、少女はペコペコと頭を下げる。
「うん。まぁ次から気をつけてくれたらいいよ。それより、同じ一年生みたいだから、仲良くしよう」
「えっ、同じ一年生なんですか?」
「だって、シャツの襟の刺繍、色が一緒でしょ?」
「ほんとだ。同じ黄色ですね」
デル校の制服は、スーツタイプだ。社会に出て、すぐにスーツに慣れて働けるようにという考えらしい。女生徒も、プリーツスカート、タイトスカート、パンツから選べる。
さらに言うと、フォーマルな格好なら私服でも登校できる。その場合、服のどこかに学院の校章バッジをつける必要がある。
そして、彼女はパンツスーツ姿だ。自転車で登校するのに、その方が都合が良いからかもしれない。
そして、お互いのシャツの左側の襟に、黄色い糸で校章の刺繍が施されている。
俺たちの学年は黄色で、三年間同じだ。二年生が青で、三年生が赤である。そして三年生が来年卒業すると、新一年生が赤色になる。
「初めまして、春日晴子って言います。ハルハルって呼ばれていました」
「そうなんだ、俺は、鳳両真。よろしくね、ハル、、、春日さん」
「よろしくお願いします。で、そちらがリョウマくんのメイドさんですか?」
「そうなんだ。ヨシノさん」
ヨシノさんが、丁寧にお辞儀する。
「いいなぁ。リョウマくんもお金持ちさんなんだね。車じゃなくて徒歩だったから、不思議に思ったけど。私もメイドさん連れてきたいけど、うちの実家、ただの町工場で、無理してこの学院に入れてくれただけだがら、メイドさんなんて雇う余裕ないし」
「連れてきたい?」
「えっ、知らないんですか? この学院は、メイド又は執事を連れての登校が許可されているんですよ? ほら」
そう、春日さんに促され見た先には、高級車から生徒とメイドや執事が降り、校舎に入っていくのが見える。
「メイド持参可? 知ってたの? ヨシノさん」
ヨシノさんは、コクッと小さく頷いた。