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うちのメイドは1歩前をゆく  作者: おしぼり
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「大山吉乃と申します」

 奥からやってきた、メイド服姿の女性に俺は言葉を失った。

 

「どうなされたのですか? ご主人様。お上がりにならないのですか?」


 メイド女は、不思議そうな表情を浮かべている。

 いや、俺からしたら、ここにアナタがいることが不思議でしか無いのだが。

 メイド女は何かに気づいたかのように、小さく手を叩く。


「申し訳ございません。ご主人様。お荷物と上着を預かりますね」

「いや、そこじゃなくて」


 やっと俺の口が仕事をした。


「君は誰? メイド? 父さんが雇ったのか?」

「なんだ、その事でしたか」


 ん? 今「なんだ」って言ったか?


「申し遅れました。わたくし、本日より両真様の身の回りのお世話をさせて頂きます、大山吉乃と申します。よろしくお願いします」

「大山さん、、、」

「ヨシノとお呼び下さい」

「大山さん」

「ヨ・シ・ノとお呼び下さい」

「わかったよ。ヨシノさん」

「では、お荷物を預かりますね」

「いいよ。このくらい大した荷物じゃないから」


 俺はそう言いながら玄関に座り、靴を脱いだ。


「で、やっぱり父さんに言われて来たわけだ」


 俺は、不機嫌そうに、少し強めの口調で言う。

 しかし、返事はなかった。

 振り返ると、もうそこにはヨシノはおらず、家の奥の方へと戻っていく。

 

「えっ、ちょっと待って」

「まだ何か? お荷物を預からなくても良いとおっしゃられたと思ったのですが」

「いやだからって、俺のこと放置する?」

「申し訳ございません。わたくしも本日こちらに着いたばかりでして、まだリョウマ様のお荷物の片付けが済んでいませんでしたので。何か、優先すべきことがありましたら、おっしゃって下さい」

「あー、わかったよ。続けて下さい」

「かしこまりました」


 ヨシノはそう言って、家の奥へと消えていく。

 俺は一つため息をついて、その後を追った。

 玄関を入ってすぐの場所に大きな階段がある。

 そしてその横には、いくつかの扉。恐らく、トイレとか浴室とかだろう。

 廊下の置くには、広いリビングがあった。

 まず視界に飛び込んできたのは大きな窓だ。広い庭が見える。門を入ってすぐのところにも庭があったが、家の奥側にも庭があるのか。どんだけ広いんだこの家は。

 そして大きなテレビ、その向かいにはソファが置かれている。

 その奥には、六人がけのテーブル。そしてアイランドキッチンがある。

 一人暮らしするって言っているのに、こんなに大きなテーブルはいらないだろ。そう思いながら、またため息をつくと、ソファにカバンとジャケットを置き、その横に腰掛けた。

 

「リョウマ様、お茶を入れますね。紅茶でよろしいでしょうか?」

「あぁ、ありがとう。片付けはいいの?」

「ついでですから」


 えっ? 主人にお茶を出すのがついで? なんかさらりとひどいこと言ってないか?


「あの? ヨシノさん」

「なんでしょう?」

「父さんに言われて来たんですよね?」

「そうですね」

「ひょっとして、ここに住み込みでとかじゃないですよね?」

「住み込みですよ」

「えっ? おかしくない? 俺は父さんに一人暮らししたいって言ってここに来たんだよ。住み込みのメイドがいたら、一人暮らしじゃないじゃん」

「そうおっしゃられましても。わたくしはこちらで、住み込みで、リョウマ様のお世話をするようにと、仰せつかってまいりましたので」


 マジか。父さんは何を考えているだ。俺の一人暮らしが不安だからって、メイドを送りつけるにしても、こんな年齢も近そうな女性を一つ屋根の下で一緒に住まわせるなんて。


「ヨシノさんは、嫌じゃないんですか?」

「嫌? なぜです?」

「だって、その、こんな年の近い男女が一緒に住むなんて」

「別に、嫌なら断ってますから」

「あっ、そうですか。でも、嫌じゃないってことは、、、」

「何を心配されているのかわかりませんが、わたくし、リョウマ様の身の回りのお世話を指示されただけで、リョウマ様にそれほど興味はございませんから」

「あっ、さようですか」


 ヨシノは、俺の下へとやってくると、ソファの前に置かれたローテーブルにティーポットを置き、カップに紅茶を注ぐと、それを俺に差し出した。

 俺はそれをひとくち飲むと、テーブルの上に置いた。

 その頃には、もうすでにヨシノは立ち上がり、キッチンへと戻っていっていた。


「でも、、、」


 キッチンからヨシノの声が聞こえる。


「もし、リョウマ様が、わたくしの気の進まないようなお世話を望まれるのでしたら、、、考えなくもないです」

「えっ?」


 俺は思わず振り返る。


「もちろん。本家の方、またメイド長に確認の連絡はとらせて頂きますが。契約金の再交渉もございますので」

「あっ、いえ、大丈夫でーす」


 俺は、もう一度、紅茶に手を伸ばした。


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