「一人暮らしがしたいんです」
「俺、一人暮らしがしたいんだ」
数ヶ月前の朝食時。
食卓を囲む中、俺はそう両親へと告げた。
俺の言葉に、父と母は驚き、食事の手を止めた。
母は、飲んでいたスープをこぼしたみたいで、側にいたメイドが慌てて拭きに来る。
「どういうことだ、リョウマ。一人暮らしをしたいというのは」
父のその言葉に、母も同じ思いなのだろう、不安そうな目でこちらを見てくる。
そんな思いに、俺も真剣に答えなければいけないと、震える気持ちを抑え、必死に訴えかける。
「俺、このままではダメだと思うんだ。この家じゃ、ダメになると思う」
「それはどういうことだ? この家の何が不満なんだ」
「そうよ、リョウマちゃん。何かいけないのかお母さんにわかるように言って」
「いや、この家では本当によくしてくれていると思っているよ。でも、逆になんでもしてもらえすぎだと思うんだ。身の回りの世話はすべて、執事やメイドがやってくれる。欲しいものもなんでも与えてもらえる。こんな環境じゃ、俺はダメになってしまう気がするんだ」
「そうか」
父はナイフとフォークを置くと、少し考え、口を開いた。
「前にも話をしたが、お前は私たちの本当の子ではない。だが、私たちはお前を本当の子のように愛し、育ててきたつもりだ」
「うん。わかってる」
そう、確かに俺、鳳両真は、この人たちの本当の息子ではない。
ここ、鳳家は、日本有数の資産家で、父は鳳グループという巨大企業がいくつも連なるグループのトップなのだ。
そんな父に子供が出来なかった為、俺は親戚筋から養子として引き取られた。
しかし、その後すぐに弟が生まれる。
弟の和馬が生まれたことで、俺はもう用済みだと思っていたのだが、どうやら父は俺のことをかなり気に入っているみたいで、今だに俺を自分の後継に置きたいと思っているようだ。
俺自身は、和馬が継ぐべきだと思うが、実際、まだ起きてこないくらいズボラな性格の和真に鳳グループの経営が出来るのか、確かに俺も不安ではあるし、自分が継ぐことに抵抗もない。
でも一度、外の世界を知りたい。そんな思いも俺にはあった。
「カズマのこと、遠慮しているわけでは無いのだな?」
「それはないよ」
「そうか。お前には、本当に、この鳳グループを継いで貰いたいと思っていた。そんな思いが、この広い家の中でも、お前を窮屈にしてしまっていたのかもしれないな」
「あなた、、、」
「わかった。考えておく。とはいえお前もまだ、来年から高校生だ。高校生の息子を一人暮らしさせる親もそうはいないだろう。あまり期待はするなよ」
「わかりました、お父様。よろしくお願いします」
俺はそう言って、頭を下げた。父に頭を下げたのは、これが初めてだったかもしれない。
そして先日、その許可がやっと下りた。
一人暮らしの条件は、父が用意した家に住むこと。父が用意した高校に通うこと。そして将来は鳳グループを継ぐこと。
俺はそれを呑み、ついに念願の一人暮らしが決定した。
そのはずだったのだが、、、