「おかえりなさいませ。ご主人様」
見慣れないホームへと降り立つ。
一緒に降りた他の乗客たちが足早に改札へと向かう中、俺は、先ほどまで乗っていた電車が駅から去っていくのを見送る。
電車が去ったことで、街の景色が視界に飛び込んできた。
緑の多い静かな街並みだ。
駅ホームの柱には「カミセキレイ」と書かれている。
そんな柱の横を通り、改札へと向かう。
改札を抜けると、バスのロータリーへと出る。
カバンから地図を取り出す。
荷物のほとんどは、送り届けたから、カバンの中に大したものは入っていない。
バスに乗らなくても徒歩で向かえる距離だ。
駅前ならどこにでもあるファーストフード店を横目に通り、住宅街へと向かっていく。
石嶺市は、都会からも離れた小さな街だ。大きな建物も、タワーマンションもない。
似たような家がいくつも並ぶ住宅地。はじめのうちは迷子になりそうだ。
手に持った地図と、スマホの地図アプリを見比べながら向かう。住所を教えてくれれば、地図アプリで検索しながら向かえたのにと、小さく愚痴をこぼしていると、目的地へとたどり着いた。
そこは、大きな門と大きな庭のある、小さな一軒家だった。
それを見て、俺は大きくため息をついた。
「これからここで、一人で暮らすんだぞ。こんな家、管理出来ないだろ」
鉄柵の門を開け、中に入ると、庭を抜け、玄関へとたどり着く。庭には、池まである。さすがに錦鯉はいないだろうが。
玄関の鍵穴に、渡されていた鍵を差し込み回す。
扉が開かない。
閉まった?
開いていたのか?
俺はもう一度、鍵を回すと、今度は扉が開いた。
誰かいるのか?
恐る恐る中へと入ると、奥から人影が現れる。
同じ年くらいか? それとも少し上か。
短い黒髪にメガネをかけた、メイド服姿の女性は、俺を見て深々と頭を下げこう言った。
「おかえりなさいませ。ご主人様」