選択肢一択の青春 後編
後編です。
ようやく部活が決まります。
☆笑われた翌日☆
(水) 放課後
部活見学には行かずに、花粉症の薬を病院で貰うためにダッシュで帰宅。
※麻来は『このまま寝たら、そのまま永遠に眠ってしまいそう…』と、毎晩考えながら詰まった鼻で就寝する程の重度の花粉症です。花粉症≫≫≫≫>部活のため。
***
(木) 放課後 仮入部最終日
「う゛~~っ…!」
昇降口の下駄箱の影から、すぐ向かいのオープンスペースで楽しそうに筋トレをしている団体をコソコソ見つめる。断じて世間に牙を剥いている訳では無い。
「行きたいなら行けば良いじゃん。今、ただの変態だぞ」
「でも~…だって見るからに凄い体育会系な明るさなんだもん…。こんな地味子が行ったら絶対空気壊しちゃうよ~」
うちに付き合ってくれている、友人の伊東さんがバッサリと切り捨ててくるも、中々足が前に進まずウジウジしてしまう。
照明の効果か、はたまた先輩達の持ち前の明るさなのか、目的の団体だけやけにキラキラと眩しく見える。
【水泳部】うちが唯一、人並みに出来るスポーツをする部活。
そもそも中学には水泳部が無かった。入学したら廃部になった。
よって、生涯スポーツとして水泳を老後にやりたいと言う人生設計のためにも、高校では泳いでおきたいと第3希望で考えていた部活。
第1希望の茶道部は○、第2の吹奏楽部は×となったので、『やっぱ水泳部も行っておけば良かった~』と、後悔しないように仮入最終日に伊東さんに「お願いっ!一緒に来て~」と懇願して来たわけである。
でも、スイマー特有のガタイの良さに見事に怯んでいる。おまけに皆、地味高なのに髪の色がやけに明るい……不良さんなのだろうか?なら関わらない方が身のため…?
このまま行かないでも済むように理由を頑張って考えていたら、隣の伊東さんが痺れを切らして動いた。
「ほらっ!話だけ聞いて帰れば良いでしょ!行くぞ!」
「えっ!待ってよーっ!心の準備がー…」
ズンズンとマネージャーさんらしき金髪ショートの女の人の方に行ってしまったので、慌てて追いかける。
男気溢れる伊東さんの背中を追う小走りの中、(行くにしても、何でよりによって金髪の人の方に行くの!?うち、伊東さんに何かしたっけ!?)と、心はしっかり大荒れなう。
目的地からほんの数mの距離に居たので、無情にもあっという間に薄暗い昇降口から明るい世界に着いてしまった。眩しい。
「すみません、仮入で話だけ良いですか?」
「もちろんもちろんっ!このノートにクラスと名前書いて~」
「ほら書け」
「…えっ?そっちの子なの?」
「私はただの付き添いです」
伊東さんと金パ先輩でどんどん話が進んでいってしまい、オロオロしながら言われるままに仮入希望者の名前が列記されているノートに自分の名前も癖のある丸文字で足した。
それと同時に、興味本意でどれくらいの新入生が水泳部に来ているのか見てみると、自分のクラスの女子半分程の名前を見つけた。他のクラスの女子も結構来ているし、友達作りには苦労しなさそうだと気持ちが前向きになった。
「書きました」
「ありがと~。麻来ちゃんって言うんだー。選手?マネージャー?どっちが良いとか考えてる?あたしは今怪我してて筋トレ休んでるけど選手なんだー」
「そうなんですね。まだ決めてないです」
「どっちで入ってきてくれても嬉しいな~♪」
金パ先輩めっちゃ気さくで良い人だった。
人懐っこい笑顔でうちの右手を両手でずっとシェイクしながら話してくれた。
練習は週5で、夏や大会前は週6になったりするらしい。中には兼部もしている人が居るそうだから、茶道部との兼部もイケる!
終始好感触で、染髪している人への怖いと言う偏見も綺麗に薄れて会話が無事に終わった。
※麻来は金髪=カナリの不良と、とても古風な考えの持ち主です。
去り際に金パ先輩が両手を大きく振りながら素敵なスマイルで「明日(の一斉部会)、待ってるから~!」と言ってくれ、単純なうちは『行かなくちゃ!』となったのは自然の理だった。
もちろん、伊東さんへの感謝も忘れません。さんきゅー。
***
(金) 放課後 一斉部会
茶道部の方は週1の活動だし、仲の良い友達が行くので後で詳しい話を聞かせてとお願いをした。
よって、1人で活動日の日数的にもメインの部活となる水泳部の所へと向かう。場所は前日のオープンスペースなので迷わず行けた。
「あっ!麻来ちゃんっ!本当に来てくれたんだ~。ようこそ水泳部へ♪」
「はいっ。来ました」
金パ先輩がハグで歓迎してくれた。それだけで来た甲斐があったと思う。小澤は理不尽なもので無ければ、基本的には約束を守る人間です。
少し早めに来たので、まだ新入生は男子数人とうちしか居なかった。
自分も選手だと言うお姉さま達と何処に住んでいるとか、泳ぎは何が得意だとかを床に車座になって話し、緊張しながら部会の開始を待った。
待った。
待った。
待っている。
……無情にも始まってしまった。
途中何回も話し半分でキョロキョロとまわりを見渡しても、遅れて来る者は居なかった。
な、なんと言うことでしょうっ……。
新入生の女子は小澤麻来、唯1人だったのです。
メジャーなスポーツのはずなのに何故?
生涯スポーツにオススメなのに何故?
子どもに習わせたい習い事1位なのに何故?
仮入に女の子沢山来ていたのに何故?
先輩は男子より女子の方が人数多いのに何故?
ひょっとして今日休んだから、この場に来られていないだけなの?
トモダチホシイ……。
お先真っ暗状態の中、無情にもあれよあれよと新入生の自己紹介タイムが始まってしまった。
「名前・クラス・希望する泳法・何か一言を言って下さい」だとっ……!?
うちは新入生の列の1番端っこに座っていたし、なんなら女子1人だしってことで、1番遠いところに座っている男子から自己紹介は始まった。男子の人数は7人!
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようーっ!
両手が勝手に頭を抱えに動いた。
希望する泳法?……うちが希望するのは女の子です。
それに失礼だけどパッと見た感じ、新入生の男子達と仲良くなれなそう。皆各々、心に闇を抱えていそうな顔をしている。←あくまで個人の意見です。
ここにもし女の子が居たら『一緒に頑張ろーねっ♪』と、手を取り合い、大好きな背泳ぎを希望したと思う。
しかし現実は男子しか居ない。
中学時代、1回も男子とまともに話したこと無いのにである。……男子に混ざってちっさい女子が泳ぐ…?いやいや、いきなりハードルが高過ぎやないかい?
くっ…!ここはプラン変更をしよう。
女の子との憩いと華やかな時間は茶道部で補給すれば良いし、体育の授業で水泳があるし問題なし!
さらば、ハイスクールスイマー麻来。
葛藤と諦めを繰り広げた頭から手を離し、前を向いたら丁度自分の番になったところだった。
一斉に沢山の好奇の目に晒されたので、一瞬で顔に熱が集まった。……皆さん雑談してくれて結構ですよ。
床に直に座ったまま姿勢を正して、恐る恐る声を出す。
「えっと…1組の小澤麻来です。希望は……マネージャーです。(女子が1人だけですが)頑張ります」
パチパチパチー…[拍手の音]
『え?それだけ?』とか声が聞こえた気がしたけど、なんとか終わったー…。嫌な汗かいちゃったよ。
そんなドキドキな自己紹介が終わると、これからの活動についての諸々の説明と、部員はファーストネームで呼び合うようにと衝撃的な発言をされたところで部会は終了した。
……名前呼び捨てとな!?無理無理無理無理っ!
そんな困惑が残された中、部会が終わるやいなやお姉さま達とメアド交換になり、そこで初めてマネージャーのお姉さん方と話すことになった。3年1人に2年が2人だった。
「マネさん今年は居ないかと思ったから本当に良かった~」
「最低でも3人は居ないと大変だから、麻来ちゃんが選手って言わないでくれてホッとしたの~」
「よろしくね~」
ん…?最低でも3人?
3年生は夏で引退だから、秋からはうちを入れて3人。
ちなみに水泳部は茶道部と活動日が被っている……。
一抹の不安が過ったので、心を一旦落ち着かせてから口を開くことにする。
確認は早いに越したことは無いっ!
まだ名前とメアドしか分からないマネの先輩方に、ブレる視界と震える声で聞く。
「あ、あの……茶道部と兼部したいんですけど、大丈夫です…か?」
「んー…選手なら居なくても練習メニューはまわせるけど、マネージャーが抜けるのは無理かな?兼部してるのだって選手だけだし、実質違う部活の方は幽霊部員だよ」
「で、ですよねー…」
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!
美味しい和菓子と、女の子の癒しの空間がっ……。
こうなったらお姉さま達にこれから頑張って可愛がって貰おう。くすん。
同期になった男子とは……まぁおいおい頑張ろう。
そこから雑談を暫し重ねて別れ、少し……いや、かなりしょっぱい気分のまま帰りの電車に乗った。
また日が少し延びてきた、まだ少し明るい空を車窓から見ながらふと思う。
【最初からこうなるって決まっていたのかな】と。
入学式の日に自分に割り当てられたロッカーを開けると、1枚の部活の勧誘チラシが入っていた。
暗黙の了解で1つのロッカーには1部活の勧誘チラシしか入れてはいけないとなっていた中で、入っていたのは水泳部だった。
『水泳部で一緒に泳ごう☆マネージャーも大募集!』
自分の意思で入部を決めたし、これから水泳部でちゃんと3年間頑張ろう。
まぁ女子1人でも何とかなるでしょう。
あっ…!ヤバヤバ……電車乗り換えしなきゃ。
完
*****
後日談
実際、本当になんとかなった。
○5月
1度、顔と名前をインプットしたらもう知り合いなので、校内で水泳部の男子と会う度に積極的に挨拶をした。挨拶大事。
○6月
だいぶ打ち解けてきた。
同期の男子の1人が突然『地声で話してみて』と、言って来たので急いで誤解を解いた。
アニメ声だと良く言われるけど、まさか声を作っていると思われていたとは驚きだった。声をこれから3年間も変えて話し続けようとしている気違いだと思われていたなんて心外だった。
○7月
本格的にプールでの練習が始まった。
慣れないストップウォッチに悪戦苦闘しながら、練習メニューを出したり、タイムを計ったりして、自然と信頼関係を築けた。
本格的に夏になる前に、同期とも先輩達とも仲良くなれたし、女子1人で不安問題は杞憂に終わった。
なんなら男子には変な気を遣わなくて良いから楽かも!と感じるまでになった。慣れって怖いですね☆
***
ボーイズサイド
●一斉部会
やけに小さく、やけに独特な声の1人の女子が同期のマネージャーになった。
見た感じぶりっ子みたいだし、部活の時間だけの付き合いになるだろう。
●5月
廊下で会う度に『あっ!おはよー』や『やっほー』と、かなり低い位置から笑顔で見上げ、とてつもなくフレンドリーに話しかけてくる。
1人で居る時の挨拶は別に良いが、男友達と一緒に居る時は正直やめて欲しい。麻来とすれ違った後に必ず『あのちっちゃいの誰?彼女?声高くない?』と質問攻めにされるのは、思春期の男子にはキツいっ…!
●6月
同期の男子全員でジャンケンをして代表者を決めた。麻来にある確認をするためである。
部活後のミーティングが始まる前の時間に、着替えが女子なのにいつも激早で、女子の先輩を待ち惚けしている麻来に話し掛ける。
ある程度仲良くなったし、『地声で話してみて』と頼んだら、麻来は普段のボケっとした顔から一変、いや二変した。
『ハァァ?それ本気で言ってんの?いつも(地声)聞いてんだろ。………あぁっ!言葉遣い気を付けてたのにやっちゃった!うわーっ!』
『………』
下から舐めるように大きく見開いた目を上げ、眉間には深い渓谷を作り、ご丁寧にも男子全員にメンチ切って来た。
しかし、一瞬で一気に慌てた表情になり、頬を両手で挟みながらガバッとしゃがみこんだ。……情緒が不安定過ぎる。
声は本当に地声だったし、ぶりっ子では無かった。ただ、二重人格疑惑が思いきり浮上した。
●7月
水泳部らしくプールでの活動が本格的に始まった。
麻来はとてつもない不器用なりに、マネージャーの仕事を頑張っていた。その点は好印象。
だが、一度制限タイムをオーバーすると話は変わった。
なんとかヘロヘロで泳ぎ切ると、スタート台に乗った麻来が困ったような笑顔で『おつかれ~よーいスタート』と、休憩0秒スタートを促してくるのだ。他のマネージャーの先輩方は優しく融通を利かせて、10秒20秒と休みをくれるのだが、麻来は違った。
少しでも休みたいがためにスタートを拒否すると、『あれ?なんで行かないの?スタートって言ったよ?どんどん他の人に遅れちゃうよ?ほら、行きなよ』と、本当に心底不思議そうに首を傾げながら見下ろしてくる。……この女には優しさの心が無いようだ。
夏本番が来る前に同期の男子全員が満遍なく同じ恐怖体験をし、麻来は二重人格では無く、天然のドSでサイコ気味の悪魔と共通認識を持った。
また女の子らしさ皆無であったので、男子と同じ扱いで良いと全員一致で判断した。
俺たちの同期に癒しは居ない。
完!
近日中にもう1話、残念な高1編を投稿します。
この水泳部に入る話は、『双子は神隠しから逃れたい!』の【『過去』を生かす】の後半部分にある《小話 人選》と地味に繋がっています。
『双子は神隠しから逃れたい!』と『一色実々の多色な出来事』も、どうぞ宜しくお願い致します☆