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小澤麻来のシュールな日常  作者: 大柳 律
1/4

【普通】は絶滅危惧種

心理テストの話です。


作中に2つ心理テストが出てきます。

1つは絶対に良くあるやつでは無いので、家族や友人との話題のネタにオススメです。

皆様もやってみて下さい。


《登場人物》


小澤(おざわ) 麻来(あさき):30歳未婚の双子の姉。一人称は「うち」。あだ名は「あーち」。東京都在住。自称常識人。



一色(いっしき) 実々(みみ):30歳既婚の双子の妹。一人称は「私」。あだ名は「みーち」。広島県在住。末っ子気質な腹黒。



一色 (りょう):31歳。実々の夫。一人称は「俺」。あだ名は「いっさん」←麻来しか呼ばない。義姉の麻来との仲も良好。妻と娘ラヴな社会の歯車。



一色 花奏(かなで):3歳の幼稚園児。実々と亮の一人娘。一人称は「かな」。あだ名は「花奏ちゃん」・「かなちゃん」と、ひねりなし。可愛いとは何たるかを知っている。





*****



 広島の一色家の所に遊びに来て、はや数日。

 今は休日の昼下がり。


 先程から花奏ちゃんがお昼寝を開始し、出張太郎のいっさんとも久しぶりにゆっくり話も出来そうな状況になった。



 現在は4人掛けのダイニングテーブルにうち、うちの向かいにみーち、みーちの左隣にいっさんと、三角形の布陣でお茶を飲んでいる。うち的には丁度良い位置取りになった。




 約10年もの間、ずっと心にしがみ付いて離れない、()()()()()について言及する時が遂に来たのだと悟る。

 多分、時は満ちたってやつだと思う。



 水出しの紅茶を一口飲み、口内と脳内を冷やしてから向かいの2人に対して口を開く。




 「あのさー……うちの事を2人が【サイコパス】って言うようになった、そもそもの原因はみーちが大学の時に出した心理テストだよねー?」




 うちからの魂の問いかけに対し、

「え?そうだっけ?」と首を傾げながら女は言い、「普段の行いだろ」と男は鼻先でフッと笑いながら失礼な事を言って来た。




 ……特に男の方、許さん。




 何だ、普段の行いって。

 うちが何時なんどき国家転覆を企んだり、爆弾を自作したりしてたよ?

 留置所や女性刑務所にご厄介になったよ?

 手始めの交番のお巡りさんにでさえ、道を聞く時しか関わった事無いわ。



 おのれ……精々深夜の就寝中、人影に気を付けるんだな……。




 「そうだよ!みーちが教養の授業だかで心理テストを仕入れて来たんだからっ!」


 「えー…全く覚えてなーい」



 おいおい、冗談はよし子さんだよ。

 あんなに当時騒ぎ立ててくれたのに当事者が覚えて無いんかい。



 「あれだね…言った方は覚えてなくて、言われた方はずっと覚えてるぞって典型だね」



 「そうなるね。全くどんな心理テストだったかも覚えて無いけど」


 「心理テスト?俺はそれ知らない」




 なんだろう…この2人とうちとの温度差は。

 サイコパスって呼称されて喜ぶ奴なんて、本物のサイコパスですら該当するか分からないのに。●八先生がこの場に居たら、確実にビンタされちゃってるぞ。●八先生は加害者だけでなく、何もしない傍観者に対してもちゃんと怒るんだからな!いっさんよ。



 ま、実際は全く微塵も1アトムも気にして無いけど。


 ※【アトム】はそれ以上分割出来ない原子のこと。




 兎に角、今のお茶請け代わりの話題として提供してあげよう。

 座り直して、改めて2人に向き直り、人差し指を立てて切り出す。




 「仕方がない。忘れているようだし、件の心理テストを出してあげよう」



 「あー…はい」

 「おう…」



 時間も充分経過したし、環境も学生時代からガラっと変わったしで、もしかしたら2人こそがサイコパスになっているかもだしね。そしたらちゃんと、「よっ!サイコパス」って呼んであげよう。





〔問:あなたは自宅マンションのベランダから、隣のビルの一室の殺人事件を目撃してしまいました。犯人はあなたに気付き、指を差しながらあなたに何かを言っています。


さて、何と言っていたでしょうか?〕





 さぁ!考えろ~考えろ~



 あ、どうでも良いけど、指を差しながら何か言ってるって、第一次世界大戦の時のアメリカの徴兵ポスターみたいだな。アンクル・サムが“I want you”って言ってるやつ。


 これを言ったらまた、「戦争したいの?」や「特殊な思想」とか何とか言われる事必至だから黙っておこう。うちは平和主義者です。




 2人の顔を見ながら思考を飛ばしていたら、両者ともに答えが出たような顔をしたので、シンキングタイム終了の合図を出す。




 「ちっちっちっちっちっちっちっちっち……チャーン!」



 答えが先に浮かんだであろう、妹のみーちから答えを聞く。レディファースト。



 「じゃ、みーちどうぞ」



 1つ頷いてから彼女は言葉を紡いだ。


 「私は、『ちっ!見られたか……次はお前を消すしかないな』かな」



 「ほうほう」



 己の犯罪を隠蔽するために目撃者も殺める、典型的な2時間ドラマのような回答ですね。

 声も表情もご丁寧に変えて言うから、隣の旦那の肩がフルフル震えてるよ。



 「いっさんは?」


 まだ妻の変わりように、笑いが止まらない夫に話を振る。ツボ浅すぎやろ。



 「俺は、『そっち行くから待ってろよ~!』だな」



 「ほう」

 瞬き1つで理解を表現しておく。



 「で、この一言で何が分かるの?」



 本当にみーちは忘れちゃっているんだね。瞳を輝かせながらフレッシュな気持ちでうちに聞いてくるなんて…。



 「これは、過去のみーちが言うには[犯罪者的な思考の有無]が分かるテストらしいよ」




〔答:「そっちに行くからな」や「次はお前を殺す」や、これに近しいものは一般的な思考。

「○階の○番目の部屋だな」とか、ピンポイントであなたの場所を言うのはサイコパスに近しい思考。指を差しながら言っているのは部屋の場所を数えているから……らしい。〕




 この解説を話した今、みーちはうちと全く同じ事を思ったに違いない。みーちは温度を感じさせない曇った瞳で隣のいっさんを見ているし。




 何を心に思い浮かべたかと言うと……




 『『うわー…いっさん(亮)普通過ぎー。教科書通りだわー』』である。




 いや、でも逆に模範解答から一切逸脱せずに答える人物は貴重かもしれない。みーちは良く、こんなマンガで描かれる友人C的な普通人を見付けたな。こう言う人材は社会に必ず必要だから大事にしないといけない。みーちグッジョブ。



 いっさんから視線をみーちに戻し、小刻みに頷いて褒め称えていたら、功労者から好奇心に溢れた声を掛けられた。




 「おー成る程ね。それで当時のあーちは何て答えたの?」



 「ん………『そこの部屋だな!覚えたぞ!』的な事を言った気がする」



 「………ひぃっ!」

 「ヤベェな……」



 二人して驚愕と愕然とが入り雑じった表情をこっちに向けるな!

 うちの回答がサイコパス的なアンサーとは結構ズレているって気付いてよ。それに、自分達とは違うわーって思っている、勘違いさん夫婦に是非物申しておきたい事がある。



 「犯人は指差しているって問題で言っているんだから、そこからちょっと推理しなよ」



 言い終わった後に口を引き結んで、遺憾であることをアピールするのを忘れなかった。




 「いやいやいや…」

 「やっぱあーちは違うな…」



 この場の3人で遺伝子が違うのは、いっさんだぞってみーちも思ってくれたかな?

 ……いや、彼女の頭は今うちの事でいっぱいだ。



 さらなる親睦も特に深められず、何とも言えない濁った空気で、皆お茶を飲むしかないってなったところで、奥さんが換気をしてくれた。




 「あーちが言う心理テストって湖のヤツだと思ってたよー」



 「逆にそっちを知らない」

 「なんだそれ?」



 うちらの前に新たな心理テストが出てきた。



 「えー…あーちに前出したよー」



 片方の頬を膨らませて、むぅ~って自分と同じ顔の三十路の人妻にやられても困る。みーちも同じ事をうちがやったら困るでしょ。



 第一、

「人生で数多の心理テストと向き合って来たから忘れたわ」



 小4~小5あたりに図書館で心理テストの本を借りまくったり、友達に出されたりで、それはそれはやりまくった。今の小学生にも例に漏れず流行っているのだろうか。




 「しょうがないなー。じゃあ出すねっ!」



 「あぁ…うん」

 「お、おぅ」



 いっさんとは一切血が繋がっていないわけだけど、きっと今だけ同じ気持ちだと思う。




 『『別に頼んでないよ』』と。



 でも、ちょっと上から言ったみーちが楽しそうなので、何も言うまい。うちもいっさんも、みーちの健やかな生活を願っていますから。




 で、その問題がコレ。



 ジャンッ!



〔問:あなたは湖のほとりに住んでいます。ある日、朝から出掛けて、帰って来たのは夕方でした。


帰って来た時に湖を見て一言、なんと言いますか?〕




 あぁー何かこんな心理テスト出された記憶があるな。肝心の、一言で何が分かるのかってのは綺麗に忘れているけど。



 うーん…何て言うかなぁ。「ただいま」とかは家に言うのであって、所有していない湖に向かっては言わないな。折角ならうちらしさも出したい。




 お、思い付いた!



 もうお茶が残り少ないコップを考えながら見つめていた視線をみーちに移す。視界に少し入ってきたいっさんはまだ悩んでいるようだった。




 では、お先に。



 「うちはねー『やっぱ湖だから1日弱じゃ水位は変わらないな』だね」



 「えっ……私と一緒なんだけどっ!」

 「まじか……」



 こんなので双子被りしたくない。てか、渾身の回答だったのに先達が身近に居たなんて…。うちもまだまだだなと思う。



 2人で目を見開いてアワアワ驚き合っている間もいっさんは答えようとしない。心理テストはインスピレーションで答えるって知らないのかしら?


 答えが気になるから、サラリーマンの発言は待たないことにする。



 「この一言はなんなの?」



 「これはねー…」




〔答:あなたが人生最後に言う言葉〕




 「ふむふむ」



 てか、妻よ……「亮は?」とか一切聞かないで教えてくれたね。



 で、最期にうちら双子は「変わらないね」って、意味深な事を言ってこの世を去るんだね。それはいったいどんなシチュエーションなんだろうか…。



 そして、答えを自分が言うより先に知ってしまったいっさんは、明らかに挙動不審になった。折角の休日なんだから、そんなに激しく目を泳がせなさんな。疲れちゃうよ。



 うちはとてつもなく空気が読める義姉なので、口をいっこうに開こうとしない義弟に話し掛ける。



 「んで、いっさんは何て思い付いたの?」



 日曜大工はしない、自分はシティ派だと思っていそうな男性は一瞬肩をビクッとさせてから、観念したかのように目を閉じ俯いたまま話してくれた。




 「はぁ……俺は『誰だ!ここにゴミを捨てた奴はっ!』って思った」



 「「……うわぁ」」




 誰だ……いっさんを普通過ぎてつまらない男って言った奴は。

 そして湖にゴミを捨てた奴は。




 ……いっさんは隣の湖を自己所有してる気分になっちゃうタイプの人だったんだな。ついでに駐輪場で自転車の前籠にゴミを入れられちゃう人なんだろうな。




 それにしても最期にゴミって死んでも死にきれないよ……。



 病室で意識が戻らないいっさんを皆で囲んで、目覚めるのを待ってる時に、お腹を空かせた花奏ちゃんがコンビニおにぎりのフィルムをゴミ箱が見付からないからっていっさんのお腹の上に置いたところで目覚めて、「誰だ…ゴミ置いた奴は……」って言って事切れるのを想像してしまった。



 それを差し引いても、みーちの配偶者は……なんて可哀想な人間なんだろう。

 うちもみーちも思わず眉毛をハの字にして、瞳は憐れみを湛え、口元は笑い出さないようにグっと引き絞って見つめてしまったよ。対するいっさんに至っては、うちらの顔を交互に見てから、両手で顔を隠して再び俯いてしまった。



 ここは、ちゃんと慰めてあげよう。



 席を立ち、テーブルの対角線に座っているいっさんの元へ向かう。みーちもうちがこれから何をするかを察し、隣のいっさんの方へと身体ごと向いた。



 そして、うちがいっさんの真横に到着したのを合図に、2人でいっさんの手を顔から引き剥がし、みーちが右手を、うちが左手を両手でギュっと包み込んであげた。『ドンマイ』と心で囁きながら。



 「うわっ!冷た!てか、やめろぉぉっ…!」



 おっと……万年末端冷え症の効果は抜群だった。

 冷たさに思わず吃驚したいっさんは、自分が双子に馬鹿にされていると気付いてしまったのか、悲哀に満ちた声を上げながら雑に手を払ってきた。


 

 「折角特別に慰めてあげたのに。ねぇー?」


 「そうだよ!亮には両手に双子ってレアな体験をさせてあげたのにっ!」



 「頼んでねぇっ!」



 あぁ…何も自分から進んで惨めになっていかなくても…と思いつつ、両サイドからヤンヤヤンヤとブーイングをお見舞いしていたら、後ろから可愛い声が聞こえてきた。



 「なにちてんのー?」



 寝起きで髪の毛が思いっきりグッシャァとなっていても、目をあざとく腕でこしこし擦りながら言うのはとても可愛い。


 大人3人でその様子をデレデレ見つめていたら、花奏ちゃんは「よいちょ」と立ち上がり、ちょっと覚束無い足取りでこっちまで来た。



 この姪っ子がいっさんの弱点であるのは知っているので、少し腰を落として努めて優しく呼び掛ける。


 

 「今ね、うちとママでパパ元気だしてーってしてあげてたの。花奏ちゃんもギューってしてあげて」



 さぁ、あなたの手でパパを更にドン底に突き落としてあげなさいっ!と、思いつつ期待に満ちた目で園児を見つめる。ワクワク。



 「えーーっ!やだー!ママをギューってしゅるー!ママ、ギューっ☆」

 「かなちゃんギューっ!」



 あ、いっさんのHPがたった今、遂にゼロになった気がする。



 自分の真横で妻と子が自分をスルーしてハグからの頬っぺたスリスリでキャッキャウフフしているのは辛いよね。

うちも笑いを堪えるのが良い加減もう疲れたよ……パ⚫ラッシュ。



 お手隙なのは、うちだけになってしまったので、最後とばかりに呆然と家族2人を見つめたまま微動だにしないお父さんの肩に指先だけを軽く乗せる。勿論、仏のような慈愛に満ちたアルカイックスマイルで。




 「もう…触るな……」



 気力が既に残ってないから、可哀想な人は手を退かしもしなくなり、とうとうテーブルに突っ伏してしまった。



 なんだかんだでまた1段階仲良くなれた気がするので、夜中にいっさんの布団をひっぺがすのは止めてあげようと思った。

 そしてこれから先、【ゴミはゴミ箱へ】って、いっさんに会う度に思ってしまうと悟った。


 

 うん、今日も平和だな。



『双子は神隠しから逃れたい!』では、名前と実々の小話くらいでしかヌルっと登場しない、実々の夫とのやり取りでした。



これからも神隠しの作品の中では出せそうに無い、個人的に面白いかなって話(例えば幼少期や学生時代)を書けたらと思います。


ただ、妹に「子供の時の麻来と実々の姉妹喧嘩の話は?」と概要を伝えつつ提案したところ、「残酷な描写で、R指定入っちゃうからダメ」と言われました。よって次は何が良いか未定です。

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