報酬には時折副産物が付いてくることもある
電球生活、電球に明かりを灯し続ける魔力制御の特訓が始まって日が経つにつれて電球の数も増えていた。
順調に魔力制御が身に付いて来てるのを感じていたのだが次に出された課題がそんな自信をすぐにへし折ってくる。
「4つの電球を15分以上維持できるようになったね!ここで、次のステップに移ろう!」
白衣の男はこの前の気ダル気な様子とは打って変わって意気揚々とし2つの電球を渡してくる。
新しいステップと言うからどんな物かと身構えたがまた、電球かと少し気が抜けた俺に指摘するように白衣の男はニヒルな笑みを浮かべ新しい特訓の説明を進める。
「この電球に明かりを灯すのに必要な出力が違うんだ。つまり同時に違う出力をそれぞれの電球に維持して供給するそれを10分間これが新しい課題だよ」
いくら、出力が同じとはいえ今では4つの電球の明かりを10分維持できるようになっているのだ。それが半分のふたつで時間も短くなっているのでこのステップは意外とすんなりクリアできるだろう。
しかし、そんな思い込みはものの数分で砕け散る。
電球をつけるのに必要な出力を左右の手で別々に魔力を流さないと行けないのだが出力が多く必要な方に気が取られると片方が出力に耐えきれず壊れてしまいその逆も然りで片方はうんともすんとも反応を示さないのだ。
先生は苦戦する俺にそれじゃがんばってね〜と軽い感じで沢山の電球が入った袋を残してその場を去っていった。
その日は寮の門限まで粘ったのだが進行状況はなかなか芳しくなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ふわぁぁ」
「おいおい、随分なあくびだな。ここ最近ずっとじゃないか」
午前の授業が終わりいつものように仁と一緒に学食で昼飯を取っている。
俺は、仁に魔力制御の特訓をしている事を話す。
「頑張ってるのはなりよりだがあまり根を詰めすぎるなよ。それに最近夜になると出るらしいんだよ……」
「出るって何が?」
「放課後の運動場で複数の光が消えたり点いたりするのを寮で目撃した奴が何人もいるんだってさ…過去の亡霊なんじゃないかって噂されてるんだよ」
「……へぇ〜…」
「幽霊に出くわすとか想像もしたくないわ…お前も特訓は程々にしとけよ!気づいたらお前に霊が取り付いてましたとか俺は嫌だからな!!」
少し心当たりがある気がするが少し言い出しづらい状況だしあの見た目で幽霊が怖いってのもなかなかに面白いし黙っていよ……まぁ、人は見た目じゃないのね。
そして、噂は後日亡霊や精霊などの様々な憶測が飛び交いあわよくば正体が精霊だったらその力にあやかろうと捜索する奴らまで出てきたのはまた別のお話。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「思ったよりも早かったね。花丸をあげちゃお〜」
「あ、ありがと、うございまs…」
「まぁ、まだギリギリなようだけど今は充分だと思うよ。それじゃアレに向かってなるべくリラックスした状態で雷撃を打ってご覧」
先生に言われるがまま訓練用の人形に向かって雷撃を放つ。
「え…」
それは以前の最大威力をも上回る程のもので人形に大きなダメージを与えていた。まぁすぐに修復されるのだが
「魔力制御を鍛えたことで以前よりも少量の魔力でより強い雷撃を放てるようになったんだよ。コスパが良くなったってことだね。それに特訓の副産物で君の魔力量もかなり増えてるはずさ」
確かに以前はせいぜい数発打てればぐらいのものだった。だが以前よりも強力な雷撃を放ったというのに魔力の減りは以前よりも少なくなっているようだ。
薄々は感づいてはいたがこうして目に見えて結果に表れるとやはり嬉しさが違うな
「ははは、にやにやが顔に出てるよ」
「あ、ほんとですか…」
どうやら、これまでの地味な努力が形に出て自然と顔に出ていたみたいだがまぁ、嬉しいものは仕方ない。
「まぁ、魔力制御の特訓に終わりはないからねこれからもただ何となく使うんじゃなくて日頃からどうすれば効率が良くなるとか考えながら自分なりに試行錯誤するのが大事になるから気を抜いちゃダメだよ」
「はい!これからも頑張ります!」
先生はどこか嬉しそうに
「じゃ、来週からは実戦を想定した特訓に移るから!そのつもりで!」
そう言って先生はじゃ〜ね〜と右手を空に上げてヒラヒラとさせながらいつもの場所へと戻っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
太陽がギラギラと照りカラッとした空気が連日続いていよいよ蓮双学園にも夏が訪れていた。
「いよいよ明日から新星杯だ!これまで各々が独自に努力してきた成果をここにぶつけてくれ!それでは今日はここまで」
乾いた教室に立花先生の声が響き渡り生徒達はおぉー!っと歓声を上げる者や面には出さないがしっかりと全員が強い熱を持っているのが伝わるのはきっと夏の暑さのせいではないだろう。
新星杯…1年生が入学してまず最初に行われるイベントであり己の力を発揮し実力を高め会うために切磋琢磨する大事な機会でもある。
この大会での結果は成績にも大きく関わることは勿論学年最強並びにこの学年の実力者を決めるものでもある為生徒のやる気はすごいものだ。
その中でも、多くの生徒の最大の目標は上位4名に入り9月の学年別で行われる全国規模の大会(超星杯)出場権を得ることだ。
皆、これまで自分が積み上げできた努力に確かな自身を心の内に燃やしている。
「この独特な空気感が明日から3日間か…」
誰にも聞こえない声量で俺はボソッっと呟くが例外なく俺も明日からの大会に胸が高鳴っていた。