特訓開始
科学実験室の横の科学準備室と書かれた部屋をノックする。
確かに中から人の気配がするのだが全くこちらへの反応が伺えない。
悪いと思いつつも反応が無いので仕方が無い。
俺はゆっくりと扉を開ける。
「あのー、すいません…」
部屋の中には白衣を着た1人の男性がブツブツと言いながらパソコンをカタカタと弄っている。
「あのー…」
何度か声をかけるがすごい集中力なのかこちらにはお構い無しと言った感じでブツブツとパソコンを弄り続けるそのボサボサ髪の男に少しの苛立ちを覚え、耳元で思い切り叫ぶ。
「あの!!」
「うわぁ!! な、何だよ急に…ノックでもしてくれればいいじゃないか!」
「しましたよ!何度も!」
「あれ?またやってしまったか…
いやー、集中し過ぎると周りの音が全く聞こえなくなっちゃってね」
男は頭をボリボリとかきながらあっけらかんとした顔で謝ってきた。
そのヘラヘラした態度にまたもやイラつきを覚える。
この人は多分人をイラつかせる天才なんだなと謎の結論に至る。
「そう言えば、僕に何か用かな?」
そうだ、俺は、何もイライラしに来たのではないのだ。
本来の目的を思い出しデュアルの特訓の指導をして欲しいという旨を伝える。
話を聞くと難しい表情をする男
「うーん、悪いけど僕はそういうのはやってないんだよね」
なんだと…教師という立場にありながら生徒の指導をやっていないだと…
単にこの男が面倒でやりたくないだけなんじゃないか。
有り得る大いに有り得るこの男ならそんな理由で断りそうだ。
しかし、このままだと俺の特訓が進まない。それは不味い。
そこで、立花先生にこれを渡せば良いと言われていた手紙のようなものを思い出す。
「あっ、これ立花先生から渡して欲しいって言われてたものです。」
「えっ…立花先生が?…」
男は嫌な顔をしながらその手紙を読みだす。その顔を次第に青ざめていた。
手紙を読み終え数刻固まっていたかと思ったら大きな溜息をつく
「はぁ…君の面倒を見ることにするよ」
よく分からんが、どうやら特訓の指導をして貰えるようだ。それは喜ばしいことだがこの男で大丈夫なのかと少し不安だ。
「ありがとうございます!上村です。お願いします」
「あぁ、僕は千堂。やると決めたからにはみっちりとやるから覚悟してね」
これまでのへらへらした雰囲気が一変真剣な顔付きになる。千堂先生のギャップに驚きつつもまずは実力を見せて欲しいとの事で俺たちは外の運動場へと移動した。
ーーーーーーーーーー
「まずは、最大威力であの人形に放ってみてくれ」
先生に言われ、訓練用の人形に向かって雷撃を放つ。
右手から放たれた黒い雷撃はジグザグの線のような軌道を描き人形に放たれた。
雷撃が当たった人形の胸が焦げて煙があがったのは一瞬ですぐに人形は元通りに修復した。
あれも学園の最新技術の1つなのだがいつ見てもすごいな。
どういう仕組みなのかは分からないが訓練にはとても便利だ。
「じゃあ、次は右手の上で電撃を維持してみて」
言われるがままに電撃を発生させそれをキープする
バチバチと音を立てる雷撃、しかしそれもすぐに消えてしまう
雷撃を維持するだけだかこれが意外と難しい。発生さても数秒で消えてしまうのだ。
苦戦している俺に先生が説明を始める。
「力を発生させそれを放出するより一定の力で維持し続ける事の方が難しいのは理解出来たと思う。
発生させて放出の流れは言ってしまえば魔力は発生させる時しかほぼ必要としていない。
発生させて放つ時には君の魔力制御の管轄からは外れるんだ。
つまり、発生して君の魔力制御から外れ行き場のなくなった力を対象に放出するだけの作業で済むのに対してそれを維持するのは発生後も魔力制御を行わないといけない分難易度がグッと上がるんだ。」
先生は説明を終えると右手に青い雷撃を纏わせて人形を殴る
先生はそんなに力を入れたよう見えなかったが想像よりも激しく揺れる人形
「おぉ…」
思わず声が出てしまうほどの威力だ。
「これは、言ってしまえば基礎中の基礎だよ。戦闘時にこれが出来ないと話にならないだろうね。だからまずは体に雷撃を纏うのを目標としよう。」
そう言って先生にこれを使ってと電球を渡される。
「電球ですか?」
「そうだね、その電球を5分間つけ続けるのが最初の課題だよ。普通の電球だからさっきのような威力じゃすぐに壊れるから最低限の電気を維持するように頑張ってね」
先生は俺に電球が数十個入ったダンボールを渡すとじゃっ!と言って自分の部屋の方へ行ってしまった。
少し無責任な気はするが言っていることは理解出来る。つまりは微細な魔力制御が出来るようにとの事なんだろう。
それに、最初はあの先生で大丈夫か不安ではあったが信用はできそうだ。立花先生が紹介してくれたのも同じ電撃使いだからだろう。
少し無責任だかな…
そして俺は、その日から黙々と電球で明かりを灯し続ける日々が始まったのだった。