不安定な未来
薄暗い部屋、今にも消えてしまいそうな明かりを手がかりに青年に一方的な実験が繰り返されていた。
「………」
青年の目は黒く汚れ、何をしても反応がなく感情を失ったかに思われていた。
この国で最も治安の悪い町からたったのコイン一枚で買われた実験素材。
人としてではなくただの物として使う人間、意図的に作ったカースト制度でこの世界を自分達の色で染めようとする人間を青年は憎み、呪ったけどもそんなことで世界は変わるはずがない。
能力者、魔法使い、人間、このカースト制度の底辺にいる人間が何かしたところでピラミッドは崩壊しない。
それを知っているから青年の憎悪は今も拡大し続けていた。
常に静かな部屋が今日は少しざわめいていた。
時間が経過すると共に増していく会話に耳を傾けながら青年はその時を待っていた。
「これで……完成だ!」
「おぉーーー」と拍手と歓喜の声が飛び交う中、謎の力に溢れた体を実感した青年はこのチャンスを逃さなかった。
「クソがぁぁぁぁぁ!!!」
久しぶりに放った叫び声は部屋を静寂に戻した。
大勢の視線を浴びる青年は嫌な予感がした。
そこにいる人間が驚き、慌てる様子を想像していたのに、こんなにも悪意のこもった笑顔を向けられては自分がみっともなく見えてしまった。
「おい! そのガキを黙らせろ」
その数秒後、青年は意識を失った。
腹部に痛みを感じ目が覚めた。
何度も蹴られたのか血の気が混じった紫色をしている。
「行くぞ」
青年は首輪を付けられ昨日の件で声帯が完全に潰されていた。
「、!!」
声を出そうとするもこの度喉に激痛が走る
青年はただ歩くことしかできなかった。
やがて大きな門にたどり着いた。
ここが王国への入り口だと青年は感じた。
今から何が始まるのか実験の時とは違う未知という恐怖が青年の心を煽る。
昨日感じた体の違和感、謎の力をあのとき確かに手にいれ今も実感している青年は少し期待していた。
「遅せぇよ!!」
後ろから蹴られ青年は地面に膝まずく。
考えていたせいで前の男と距離をあけてしまったようだ。
そして今、決心した。
溢れてくる力に頼り、この世界をひっくり返そうと
青年は立ち上がり謎の力を信じて拳を振るった
「まさか、自分が強い力を手にいれたと思ったのか??」
簡単に弾き返された拳を見て青年は何も言うことができない
「確かに実験は成功し巨大な力を手にいれた、だがそれはお前ではない、この王国、私たちが手にいれたのだと」
青年は彼らが何を言っているのか分からなかったが自分が大きな勘違いをしていることはハッキリと分かった。
「お前はただの道具、意見することも歯向かうこともしないただ使われる道具だ。そもそも実験で手にいれた力は世界初の魔力を発生する力、お前は魔法使いでも能力者でもないただの人間。そんな力があってもお前は何もできない、その力に干渉できるツールを持っていないからな」
青年は初めて期待し今それが壊された
自分が底辺の人間であり、この力が全く意味がないことに気づいた。
悔しかった、力を持っているのに使えないことが
悔しかった、自分が道具に成り下がっている今が
気づいたら涙がこぼれ王宮の前で立ち止まっていた。
寄ってくる兵士とあの男たち、次は目を潰されるのか耳を潰されるのか、もしそうなったら自分は本当に道具だ……青年はそれが嫌だった。
流血した歯茎を噛みしめ青年はまた決断した。
今までよりも強い意思で「ここで死んでしまおうと」
「お前……」
「!?」
次々と倒れていく男たちに青年は目を疑った。
あんなに強気だった兵士も手に持っていた武器を落とし左右交互に揺れ、あっという間に男たち共々全滅した。
目から血を流し口からは泡を吐いてまるで毒殺されたように死んでいた。
「(この力は魔力を生成する…)」
青年はさっきの言葉を思い出す。
もし自分の力が発動していたのなら男たちは魔力を吸収してむしろ強化するはずなのに……
そう考えるとこの現象を起こすことができる一つの説は……
「キャパオーバー」
男たちが吸収できる要領を超え魔力が体内で暴走し自爆した。
そしてこの力に自分は干渉されないという特典付き。
青年は薄々感ずいていた、この力は使えるかもしれないと。
すると青年は王宮へと走り出した。
「まずは王を殺してやる」