戦争の最中で ―ハイリンダの青春録―
瓦礫の山を越え、戦火の残り香が漂う町で私は不思議な物を目にした。
「ごめん……そこの貴女」
私に掛けられた声の主の姿が見えぬが、どこからともなく私を呼ぶ声が聞こえる。まさか……神では!?
「こっちこっち……下よ、下!」
声に導かれるままに下を見ると、そこには瓦礫に埋もれた生首があった。
「埋もれて動けないのよ、助けて頂戴な」
「……!!」
生首と目が合い、驚き戸惑う。そして人語を話す生首に恐る恐る声を掛けた。
「あなたは何者なのですか?」
「しがない不老不死よ。悪いことはしないから早く助けて頂戴」
私は不思議な感覚を放つ生首を押さえつける瓦礫を除かし、様子を伺った。
「もしかしてあなたは神の使いでは……?」
「ハハハ……どちらかと言うと邪神の使いね。でも悪いことはしないわよ?」
私は急にその生首が恐ろしくなり、逃げ出すようにその場を去ってしまった……!!
「助けてくれてありがとねー」
生首の声が耳に残り暫くはうなされる日々を送った―――
「久し振りね……」
塔に幽閉された私の前に、再び生首が姿を現した。今回は首もちゃんと有り、完全に人の姿をしている。
「あの時の…………」
「あなたはきっとこれから殺されるわ……だからあの時の御礼をさせて欲しいのよ」
彼女が指を鳴らすとお互いの姿が入れ替わり、私は彼女の姿へと変身してしまった!
「安心して。私は死んでも死ねないから。だからせめて貴女らしく死んでみせるわ♪」
身代わりを願い出た彼女を信じて、私は塔から逃げ出した。
その後火炙りとなりセーヌ川へと流されたらしいが、それ以降彼女の姿は見ていない…………
「何笑ってるの? ジャンヌおばあちゃん……?」
「あ、ああ。少し昔を思い出して……ね」
「ふぅん……」
きっと彼女は何処かでまた埋もれていることだろう。神よ、彼女に幸多からん事を…………