プロローグ
荒れ果てた大地。ふたつの刃が、そこには在った。煌めく光の大剣と、禍々しい闇の大剣。向き合ったそれらは先ほどまでかき散らしていた火花が嘘のように静寂している。
光の大剣を持つ金髪の男はうつむきながら口を開く。
「思い止まる事だって出来たはずだ……! こうなる前に!!」
闇の大剣を持つ黒髪の男は自らの左手を見つめながら、ため息を吐く。
「俺は自分が間違っているなんて思っちゃいない。むしろ、間違っているのはお前のほうだ」
二人の男は互いに疲弊しきっていた。もう何度、剣を重ねただろう。辺りは焦土と化して、その壮絶さを物語る。
「恐怖ではなにも生まれない!」
「王国の犬に成り下がったお前が言えた事かよ!」
怒りのままに、黒髪の男は剣を叩き下ろす。音も置き去りにするそれを金髪の男は苦もなく上段で受け止め、そのまま眼前でつばぜり合いが始まる。両の手でしっかりと構える金髪に対して、黒髪は右手一つ。それでも二人の剣は互いに均衡し、時折火花を伴う。
「確かに王国は腐っている! 大なる為に小を切り捨ててきた! その間違いを正す為に僕は此処此処にに居るんだ!」
「いつか……いつか護れるようになるから、今は黙って死んでくれって言うのかよ。切り捨ててきたやつらに! お前はそうやって言うのかよ!!」
金髪の男にはその言葉が深く突き刺さる。それでも正義とはそういうものだ。必ずしも全てを護ることなどない。わかっていながらも、少しでも多くを救ってきた。一つでも多くを拾ってきた。現実に全てを護ることなんて不可能で、この国の法律はそれほど万能ではない。
強く、強く弾かれた剣。身体が大きく後ろに仰け反るも、その勢いのままに金髪の男は距離を取った。
「気の毒だと思う。申し訳ないとも思う! 救えなかったのは単に僕の力不足でしかない! その救えなかった者を救う為に法を正すんだ!」
「それじゃあ遅いんだよ。それじゃあ救えねぇんだよ。だから俺が法に替わって断罪してやるって言ってんだ! 法で裁くことの出来ないあいつらを!」
「人が人を裁くなんて傲慢なことが許されるわけがない! その為に斬り殺していい道理などない! その行いだって罪でしかないだろ!」
互いに互いの言葉を受け入れることなど出来なかった。そもそも出来るのならば、剣を握ることなんてない。二人の意見はいつまでも平行線だろう。黒髪の言う断罪は弱きを救う為の罪である。金髪の言う法に乗っ取って裁くことの出来ない者への断罪。しかしながらそれは言い訳の出来ない真っ当な罪でしかない。律する為に罪を犯すならその者達と変わりはしない。




