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帰還志望の受難生  作者: シロクマスキー
三章 珍獣街パラ=ティクウ
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7話 神曲


 決闘終了から僅か。レオンとジェドは倒れた姿勢で文句を言い合う。


 「顔面ばっかり殴りやがって。」


 「文句言うな。ルール通りにやっただけだろ。」


 「あぁ、もう、先輩には敬語を使え! ちょっとは敬えッ!!」


 ―――ギキィ、突如として中庭の扉が開いた。


 「あ゛あ゛?」「え?」


 そこから然るべき男が現れた。


 トップドッグだ。ついに参上。ジェドと別れた後で自警団が工事の手伝いをするにあたって必要な指示や話を行い、すぐに帰ってきた次第である。

 中庭を呆気にとられた様子で辺りを見回す。

 するとどうだ。散らばって倒れる二人と挙動不審なガリ・レコン。


 「......何をしているんだ?」


 ご尤もです。


 「トップドッグさん、これは、その。あっ。」


 レオンは慌てて直立不動の体勢を取るも、堪え切れずに鼻血を垂らして説明すら出来ずにまたもやぶっ倒れてしまった。

 これを見て、ガリは「マジか」とレオンの下に駆け付ける。


 「ガリはアッシュを呼んできてくれ!」


 「はいッ!!!」


 トップドッグも後に続いて彼の介抱に乗り出した。


 一方でジェドはトップドッグを眺めていた。この状況、自分が原因であっても悪かったとは思えないのはそうとして、どうなるか知ってみたかった。

 立ち上がってレオンの近くに歩み寄ってみる。

 それから事態が動くまで待った。頭を掻く。溜息を吐く。



 パラ=ティクウ市民の間で起こる対立は例を挙げるにいとまがない。

 ほら、そこらの路地で耳をすましてみれば。


 「東に山と聞けば東には山しかないと受け取る馬鹿ばっか。」


 「頭の良さなんかよりも大事なことがある。おまえ、友達いないでしょ。」


 「頭の悪い奴がなに結論を急いでいるんだ??」


 「おまえは承認欲求の塊なんだ。構って欲しくてやっている。だから、こんな路地で喧嘩を売るようなことをしているのは家に居場所がないからだ。会話からして協調性もないからだ。あーあ、バカに関わって損した。」


 「もしかして、昔言われて傷付いた言葉をそっくりそのまま言ってるの?」


 「ほら、レッテルを張ってきた。やっぱり、そうなんだ。」


 「...???????」


 なんて不毛な言い争いだろう。だが、これでも比較的マシな部類でしょう。

 いやはや、流血の有無で図るのは既に世も末か。


 自由都市以前には上層や下層の区別すら無かったというのに。


 本来、調停役として働く行政が機能していないのも問題ではあるが。

 元から住んでた牧畜民、彼らを支える商人や職人、ここまでは良かったが、ある時期より無法に惹きつけられて流入してきた奴ら。行動からして牢屋暮らしが似合う輩共。あるいは人生をやり直したかった者共。そいつらが今日のパラ=ティクウに下層を持ちこんだと言ってもいいだろう。

 お陰で人の場所でありながら弱肉強食が跋扈している始末。

 うむ、弱肉強食は獣の定めであるぞ。やぁ、しかし、人間社会が隅々まで素晴らしいかといえば言い淀むところでありますが。

 ともあれ、この町にはそういう歴史がある。



 トップドッグがこれまでの経緯をガリから聞いて頷いた。人の子、決闘、怪我は怪我、ロマンを理解する人ではあるが結構な大人でもある。

 とは言え、張本人の意思を蔑ろにするほどなのか。


 「しかし、軽い貧血でよかった。」


 自警団本拠地の医務室にて(くだん)の続き。


 「自分はこれで...。」


 「ありがとう。すまないが、昼食を奢るから少しだけ待っていてほしい。」


 レオンの調子を見ていた聖職者が部屋から退場。因みに、ガリ・レコンは既に家に帰ったのでこの場にはいません。


 「...それで、互いに結果には満足しているのだろう?」


 トップドッグに言われて二人は視線を交わす。


 「そうです。」「そうだな。」


 「では、決闘に関してはこれで終わりにしよう。」


 ジェドが普段のしかめっ面に戻った。


 「本題に移る。レオン班にジェドを入れたい。」


 自警団は治安維持部隊と特定の業務を持たない幾つかの班で構成されている。

 班の内情について箇条書きすると。自警団と治安維持部隊の現代表者はトップドッグだが、自警団の存在意義に沿う限り、班は班長の意思によって自由に活動することが可能。それは町の掃除でもいいし、魔物退治でもいい。ある程度の怪我ならば医務室で対応。アットホームな環境です。以上です。

 レオン班の班長はレオン、隊員はガリとナルドとパン屋のボブの息子のマイク。


 「構わないか?」


 「まぁ、構わないが。」


 「レオンはどうだ?」


 「大丈夫です。頑張ります。」


 そしてトップドッグは言った。


 「建物を案内しよう。ついてきてくれ。」


 ジェドは彼の後ろを歩いていった。思い出せない記憶になった。気が付いたら無駄に長い通路を歩き終えて、部屋の前で一人で立っていた。

 なんてことのない、ただの日常。なんでもない。


 そこからほんのちょっと移動する。


 何処からか声が聞こえてきた。


 「親も子も同じように人間だ。心がある。間違いをする。血縁という特別な繋がりに縋っても分かってもらえないことも多いだろう。」


 「大抵の場合、先に折れるのは子の方だ。」


 「その後には悲しくなる。そうやって知らない心の傷というものに、いつかは乗り越えるとしても、理由も分からず苦しむ顔を私はさせたくない。」


 「耐えてくれとは言えないが、どうしたものかな。」


 「しかし、悪いな。昼食を奢ると言ってこんな話を――――――。」


 ジェドは壁から耳を離す。


 (...。)


 それから彼は町の外を散策してみた。


 だけど、来た時から代り映えのしない光景が広がっているだけ。

 やっぱり町の人達が俺の知らない所で生きている。

 本当ならもっと予定があったと思う。やるべきこと。すべきこと。俺とガリと出会って町の案内をされたり、どっかのお偉いさんが愚痴をこぼして、内心嘲笑って、でも、何故だ。


 「ふざけんなよ...。」


 目を閉じる瞬間に声を出してしまう。



 パラ=ティクウ上層にはオオド神話に属する修道院が建っている。

 赤、青、黄色の鮮やかな屋根と白いレンガが特徴的だ。

 オオド神話自体は多神教ということもあって他文化圏の神に対して融和的であり、出身の違う神様が祭壇の上で肩を並べるなど、やりたい放題やってます。お陰で宗教問題がそんなにない。これは絶対的な教義がないのも起因しているが。

 なんと、修道院についてもお隣から拝借した制度である。


 そもそも宗教とは何か。さてはて、人類史の最初辺りに生みだされたものなのだから、少なくとも人間の根幹に関わっているのだろう。

 となると、無宗教者であっても逃れられない何かでもあるのか。


 薄暗い修道院で誰かは歌う。


 「理由のある芯なき暴力のなんと歯止めの効かないことか。」


 これは通り過ぎる場所の話、不完全燃焼の意のままに。


 「信じられるものがない内は人はまだ地獄のなか。」


 この世で最も崇高で無粋な知恵である。


 「皆、無垢に産まれて混沌に住まう。なるようにしてなった大多数、神の愛を知らず。翻って正義に殉じる者、訳を知らず。果てには己を疑い始めて人は死ぬ。」


 「最古の呪術王メルコ―ルの手記より抜粋。」


 呪術師の気付き。修道院長ブライアン・アッシュが声高らかに歌っていた。

 燃え盛る薪、尽きぬ闘争心、そうではない所での物語。

 ついに古い彼らは渇望を満たせずに息絶えたが、人類の内なる運命を信じていたが故に、多くを語らず、ただ魂を歪める術だけを後世に伝えたという。

 だから君、想いたまえよ。押しつけがましい先人達の夢を。


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