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帰還志望の受難生  作者: シロクマスキー
三章 珍獣街パラ=ティクウ
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5話 誰かの始まり


 ――――――別に完璧な人生にするつもりはなかった。


 俺の人生は五歳の時の夢の中から始まった。人生最古の記憶が、嵐の日に玄関で母親にキュウリを無理やり食べさせられる夢だったんだ。

 たぶん、幼児期健忘というのが滅茶苦茶な形で作用したんだと思う。

 そういう訳の分からないことが俺の身の回りで数多く起きている。あまりにも馬鹿らしいから誰にも言った事はないが。

 しかも、思い出したくないようなことばかり。


 我ながら凄く奇妙な人生だ。


 だいたい、独善的な母親(かー様)と口先だけの父親と善意で愚行を成す祖母と人格破綻者な(クソ)とあの独善的な居候が悪いんだ。

 ほらね、もう訳が分からない。

 というか方向性は違うにしても属性被りがあるってなんだよ。


 ここまでくると愚痴を超えて喜劇ですらある。


 本当に奇妙なんだよな。


 ちょっとだけ自分の人生を振り返ってみたい。


 俺の家ではクレアという名前のでっかいモップみたいな犬を飼っていた。

 昔のことだからあんまり記憶には残ってない。とりあえず、いつも豊富な毛で目が隠れていたのは覚えている。あと、かー様のお気に入り。

 ある時に、犬小屋と柵の間に挟まって死んでしまったけど。

 だけど、当時の自分には分からなかった。死ぬってなに。この事故の前に、ばー様に死について毎日の如く聞きまくって怒らせたのを覚えている。


 だからじゃないけどさ。


 姉が「可哀そう」と言って逃がそうとした鼠を殺したことがある。

 力尽くで奪おうとしてきたから家の外まで行ってさ。

 咄嗟に地面に叩きつけた。しばらく悶えていた。本当はもっと優しくやりたかったけど、時間が無かったからあんな風になったんだ。

 いまだって姉ちゃんの方が間違っていると思う。

 仮に逃した所で他の家に行って駆除されていただけでしょ。少し考えれば分かるはず。もう終わった話なんだけどさ。


 それで、それからしばらくして犬をまた飼い始めた。

 飼い始めた時期は違うけど二頭飼いだ。


 1匹目はノンという雑種の中型犬。狼の血が濃いと居候から聞いたが真偽は不明、でもそれっぽい雰囲気はしている。全体的に茶色で目と鼻周りが黒い。

 こちらも柵と柵の間に挟まってご臨終した。なんでだ。

 クレアと違ってノンとの思い出は沢山あるんだ。家に帰ったらまず撫でたし、彼女の子供とも遊んだことがある。

 生涯で最も犬付き合いが良かったであろう。


 2匹目はリロという猟犬かつ小型犬。背が低くて小さいんだけど飼い始めた最初はドチャクソ凶暴で俺を追い回してきたから苦手だったよ。

 かー様が引き取ってきた犬なので性格が可愛くないのはなんか納得。

 だけど、リロとノンは互いに気が合ったらしく仲良くしていた。人間が嫌いなのか。犬社会って訳分からん。 


 因みに、うちではクレア以前にも犬飼っていたらしく、父母の部屋に飾ってある遺骨を見るに最低でも三匹はいた。いや、一匹は猫の骨かも。

 羊飼いでもないのにこうも多くの犬がいるとは真に不思議。

 まぁ、けれど、だからって犬好きの家族とは言えない。犬の世話をするのは母と居候と若干俺ぐらいで、かー様はいつも俺に文句を言っていた。なんで。


 兄は常時発狂しているし姉は強欲傲慢で妹は姉の手下だからなぁ。


 ...そろそろ眠くなってきた。


 ......現在は外が分からないぐらいに暗い。


 なんでアレが兄なんだろう。


 俺の兄は肥料にならないタイプの腐った生ゴミのような度し難いクソだ。

 どうやって人間社会に潜伏しているのかいつも気になる。

 血統主義的な物言いは嫌いだけど、かー様の不道徳と父親の短気を見事に受け継ぎ、その上で構ってちゃんを発症しているから、無視すると暴力などを振るい、かといって構ってやると面倒事を引き起こす。()に対してのみそうだった。相手を選ぶクズさがあった。こんなのが俺の上にいた。

 しかも目的の為なら手段を択ばないんだよ。()の大事な熊様の人形を奪って窓から投げ捨てたりや、()を捕まえて風呂場に投げ捨てたりとか。

 ()のことを「財布」と称して堂々とお金を盗んだこと数知れない。あぁ、だけど、これは兄以外にもお金盗む人がいるから特筆する内容でもないか。

 そんでもって今出した事全部をにこやかに行う。

 あと、こんなんでも兄弟だからか()と顔が似ていてそれが凄くイヤ。


 一番問題なのはこれを見て見ぬふりする親。


 さすがに可哀想だろうが、オレが。オレが、可哀想だろうが。


 無論、俺もやられるだけじゃなくて抵抗したけど。

 逆ギレするから見極めが難しいんだ。

 いや、もう本当に沢山だ。幼い俺は実に暢気で最初はこうも嫌っていなかったが、何処かの時点で理性でこいつを忌み嫌うことにした。そりゃ誰も俺を守ってくれないんだから、俺が俺を守らなくてどうする。

 とにかく、こいつが家にいる間は頑張らないといけなかった。


 かー様は遊ぶこと全般を無駄と言って毛嫌いする勿体ない人だった。

 もうなんて言えばいいんだろう。先に産まれたクソと姉には玩具を買い与えていたけど、俺と妹にはそういったことはあまりなくて、なんというか、もう。

 家事と借金を返済するのに疲れていたんだろうけどさ。

 人類全体を病気扱いしたり、癇癪起こして俺の数少ない玩具を捨てたり、万引きを見掛けたからどうするか聞いたら見て見ぬふりしろと言ってきたり、我慢できる奴に我慢させ続けたり、人としてどうかしていた。


 父親の方はとにかく短気で酒とギャンブルが好き。

 日常でも説教する時でも結論しか言わないから、総合的に何を言っているかいつも分からなかった。起承転結から起承転を引っ込ぬいた会話しかしない。

 いきなり俺のことを地頭が良いって評価してくるのは何なんだ。

 他が酷いのもあるけど、家族の中だと一番情緒が安定している。



 ......人生が濃すぎて思い出すのにも疲れてきた。



 ...でも、あと少しなんだ。



 だけど、俺はどうすればよかったんだ。


 ある日、居間で母親が泣いていた。

 安定してしょうもない父親と他の兄弟が二階に逃げていくなか、俺だけが居間に残って、俺だけが母親の愚痴を受けて、それで俺は両親を失ったんだ。

 変なことを言っているように聞こえるかもしれないけど。


 そろそろ諦めなんかじゃない言葉で前を向きたい。


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