旅の準備中
ロスト・ララが猫獣人ニーニャに助けられてから二日後の朝。
彼は旅の準備をしていた。怪我の治療、服の修理、人形の洗濯、路銀の確認などなど今にでも旅立つような様相。しかし今日ではない。
念入りな準備を、そういう性格だったからと言うよりも暇だからである。
なんだったら今からでもパラ=ティクウに行こうとさえ。
しかし、だ。
「怪我人は寝てろニャ!」
そういう訳でララは退屈していた。
(これからの旅を考えれば水筒がいるし、保存食入れる専用の鞄とか、猫を頭に乗せていると爪が食い込んで痛いから猫用の鞄もかなー。)
(あと、すり鉢も欲しいなぁ。薬を調合するのに必要だ。)
お金は心配は不必要。ハラン・ピークの贈り物、ペタル金貨で万事解決、それら全部を買っても余裕でお釣りが返ってくる。
正当で、真っ当なお店ならば。
「...実際、パラ=ティクウってどんなところだろう。」
話を聞く限り無秩序万歳、本当ならば都市と呼べるのか怪しいところ。
人が集まる場所ならどこでもそうだが、都市とは何かしらの理由で人々が協力し、生活し、労働し、拠点となる場所である。時には争いごともあるでしょう。その中で倫理観は形成され、ついには法律、秩序が生まれる訳である。
これが社会のメカニズム、その一端。細かい部分は以下省略。
だとしたら、これと真っ向から対立していると噂の都市では何がどうだ。
(興味は尽きない。)
スラム街のように他に行き場のない人々がいるとか。
(それでも何か変だな。自由都市パラ=ティクウ、つまり自治が認められている都市ってことだから、何かしらの統治機構があるはず??)
(だったら、そんな状況をずっと黙って見ているなんてあるのかな。もしかして、そういった組織はあるけど機能していないってことだったり。)
または情報元のハラン・ピークが大言壮語でしたとか。
(それはまぁ、ありそうだけれども。)
そして、あれこれ考えた挙句に「結局のところ、事実を確かめるには実際に行った方がいいよね」と、結論付けてララはベッドに突っ伏した。
また暇になった。いやいや、ずっと暇でした。
この異世界で隙間時間を有効利用なんて出来ません。内職は偉大な発明。それとも、もはや過去の話になった魔女のことでも思えばいいのか。
誰かに聞かれた訳でもないのに、そのことで彼は触れたくなさそうな顔をした。
(なんでだろうな。)
一昨日、彼はニーニャに魔女の子供を殺してしまった事も伝えていた。
「魔女のことで気にするにゃ。むしろ、よくやった。」
彼女の答えはそれで終わった。万人に聞いても同じ言葉だろうか。
それだけのことを魔女カフはしていた。それをララは実際に目にして、それどころか被害者の一人になりかけていたのだからよく知っている。
なのに、この罪悪感は紛れもなく本物だった。
(...ニーニャさんは魔女に何をされたのかな。)
彼は寝転がりつつ壁の隙間から外を見る。
方角的にパラ=ティクウは見えず。しかし十分、景色が綺麗だ。
「でも先ずは、やっぱり自分の事からかな。」
では、改めまして現在のロスト・ララの目標確認。
パラ=ティクウでは熊の人形を遺族に返還、旅路に必要な物資を購入、そして勇者ユーマの伝説を追って帝国に入る。
後はリック・ピックに高純度の魔石を返したり、猫に名前を付けたり、執行部隊対策や怪我の完治、出来れば命の恩人に恩返しなどもそうで...。
彼としては、そろそろ雑多な問題を一掃したい所であった。
(色々と考えた結果だけど、猫の名前は〝大福〟がよく似合っていると思うんだ。なんかこれ以外は駄目なような気がする。)
因みに、現在大福はニーニャと一緒に行動中。
(にしても、執行部隊に関しては本当にどうするか。)
(と言うか、よく考えたら執行部隊の件があるのにジェドと行動できる訳ないな。どうやっても巻き込むだろうし。じゃあ、あれで良かったんだ。)
「ただいニャ―――!!」
ドアが開いて明るい声、ここでニーニャが帰宅した。
手には獲物、兎が三羽とカラスが五羽。
これをララは受け取りに行ってその重さを実感する。まだ柔らかくて、血生臭いそれを。
「ニーニャさんお帰りなさい。かなり捕まえましたね。」
「いーや、これでも芳しくにゃいんだ。ぜんぶ平地で仕留めた奴らさ、去年の今頃なら森の猪で儲けていたのに。」
彼女は弓を片付けながら。
「間違いにゃく魔女の影響だね。」
ヒョイっと、その時に猫がニーニャの肩からララの頭に飛び移る。
「だけど、そんなこと言っても仕方にゃいから、明日にでもパラ=ティクウに行こうと思う。そんで弟分の元執行部隊野郎に頼ってみるんだニャー。」
「元執行部隊のですか?」
「そうにゃ、ついでにニャニャも頼ってみるといい。私にゃんかよりもずっともっと詳しい筈だよ。」
そして彼女は尻尾を振る。ララの防御力が下がった。
(...それにしても、なんでニーニャさんはこんなに良くしてくれるんだろうな。僕がいても厄介の種にしかなりそうにないのに。)
(まぁ、いいか。)
その後、彼はニーニャのお手伝いをして一日を終えた。
なんと言うか平和な一日であった。
その日の夜。
ニーニャ「...ニャニャ、ニャニャ! ニ゛ャニ゛ャ――――!!!(憤怒)」
ララ「???」




