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帰還志望の受難生  作者: シロクマスキー
二章 深緑の墓場
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19話 手遅れ

切りの良いところで区切っているので今回は短いですごめんなさい。


 満身創痍。指一本さえ動かすのに億劫な程の疲労、服の裂け目に沿った傷の数々、目の焦点を合わせるのにすら集中力がいる。

 そんな疲れた体でララは部屋を出た。

 あれが何の為の戦いかと思えばまだ動く。


 (戦闘中に奪われた僕の記憶は戻っている。なら、フニィマの記憶だって戻っている可能性が十分ある。)


 (どっちにしても彼の所まで行って確かめないと。)


 それで通路には何体かの先客たち、ララには気にも留めずに床掃除、右も左も息していない、骨がカタカタ鳴いている。

 骸骨の群れだ。人皮を着込んだ奴も混ざっていた。

 しかし、こんな姿であっても、それぞれ個性の浮き出た動きは何処か人間味があって、実はまだ意識があるのかと疑いたくなる気配あり。

 たったそれだけの、僅かばかりの人間性であったとしてもだ。


 (僕だって一歩間違えれば身包み剥がされて仲間入り。)


 時刻は深夜、彼らを横目にララは急いだ。

 階段はすぐ目の前、ここから一階まで移動する。

 その前に二階から話し声が、物陰に屈んだ彼は耳を澄ましてこれを盗み聞き、通路の奥であの兄弟がお喋りをしているようだった。


 「二ィちゃん、ママがガエっでゴナいんだけど! ナ゛ンでぇ!」


 「バカ! パパがナニか運んでいたから森に侵入者が一杯いたんだろ! たぶんすぐ捕まえて来るって!」


 ララは会話の隙に一階へ。


 「ハヤくあいつを捕まえないと。」


 一階中央通路。ここまで来れば彼らの声は届かない。

 そして、ララはここにもいた骸骨達の合間を縫ってフニィマのいる部屋に到達、すぐにクローゼットへ合図を出す。

 コンコンコン、三回叩いてどうだろう。


 「...凄いね君は。ボク、記憶が戻ったんだ。」


 クローゼットの穴から応えあり。

 ララは胸を撫で下ろしてこう返す。


 「よかった、ならここからすぐに出ようよ。」


 「それで、そうだね、こんなこと言わなければいいのにね、この館には地下牢があってボク以外にも大勢捕らえられていたんだ。」


 「それなら今から一緒に助けに行こう!」


 ロストはクローゼットを開けて。


 「みんなパラ=ティクウの生まれで友達だった。」


 出そうとした言葉を呑み込んだ。


 「これがもう一年前の話になる。」


 クローゼットから血の匂いが凄くした。


 「ボクの思い出をありがとう。」


 これを最後にフニィマの声は途絶えた。


 ララは力無く床を見た。手の甲に落ちた涙が暖かい。

 これを舐めにクローゼットの中から軟体生物がやって来る。赤みがかった半透明のナメクジが地面を這いずって少しずつ。

 生物名はイロシズミ、普段は青いが鉄分を多く摂取した個体は赤くなる。

 こんな奴がフニィマの行く着く先なんて誰が信じたいのか。


 ―――ドォッン、それを彼は踏み潰した。


 床に広がる体液、足を上げるとヌメリとした触感まで付いてきた。

 ぐちゃぐちゃになったそれはもう命じゃない。


 「何をしているんだ僕は...ッ!」


 「でも、なんで。とにかくフニィマの言っていた地下牢が気になる。」


 好奇心は猫をも殺す、命が惜しくば逃げるが先決。

 だれけど、折角ここまでやっただけに納得出来ない事態を放って逃げるのはどうなのか、勿体ないと言うか、なんと言うか酷い話だ。

 記憶を取り戻して良かったのはそうだとしても。


 (違う、死んでいて良かったなんて誰が思う。)


 生きてなければ何も出来ない。少なくともフニィマには夢があった。ララはそれをはっきりと聞いていた。

 その想いをここで死なせるなんて彼には出来ない。

 だが本人が死んでいるので夢を叶える事は出来ない。

 しかし、これを知っているのはこの世に一人、自らの命と要相談、確実に生きて伝えるか、得られるかも分からない何かの為に危険を冒すか。


 (行って確かめたい。)


 一階左側通路。玄関ロビーの左側の扉、または階段前通路からでも到達可能。

 彼はあの部屋で見た館の設計図を思い浮かべながら進行中、こちらの方には食堂と厨房があり、その地下には食料庫、ここが怪しいと踏んでいる。

 魔法があっても土壌の関係で地下を簡単に増やせそうに、その前に、そもそも設計図通りに部屋が使用されている保証はない。


 厨房に来た。この部屋も例に漏れず埃っぽい、加えて蜘蛛の巣、もはや蠅すら寄り付かない皿に乾いた蝶。それと隠す気のない開いたままの地下への扉。

 料理を作る役目を終えて単なる通り道。

 これを知ってか骸骨達も蝋燭持って床を掃くのみ。


 地下は暗い。ララは骸骨から蝋燭を奪って持ち手に、脚に包帯として使っていた布を巻き、これを使って下を照らす。

 蝋燭の淡い光では底まで届かず暗いまま。

 先へ、先へ、それでも彼は蝋燭を突き出しながら階段を降りていった。


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