15話 偽りばかり
よく分からない場所に連れてこられ、よく分からないままに困った人を見つけ、よく分からないけど助けることを決意する。
ある意味では呪われている性格だ。
自らも弱者、力不足は圧倒的。解決方法はこれから探す。
アーマレントの二の舞か、それを覆すかは彼次第。そしてこの場を上手く乗り切ったとして、その先同じことを壊れるまで続けるのかも彼次第。
ロスト・ララ、現在の居場所は一階中央通路。
今まで通りのやり方で事を為す。
(やる事は二つ。玄関の鍵と、フニィマの奪われた記憶の奪還。まずは鍵の入手を目指して、最悪の場合には脱出のみを目指す。)
木々の軋む音、ララの頭上で足音が鳴り響く。
(あの兄弟は二階にいる。その間に一階の探索を。)
そこから玄関ロビーに三歩進んで立ち止まる。
(でも、待てよ。鍵なんてそこら辺に置かないような。だったら、もうちょっと考えて探索範囲を絞っていければ。)
(あれ、あの兄弟はそもそも鍵を盗まれる事を想定しているのかな?)
(あの様子からしてそんな気配まるでしない。してないなら、元あった場所に戻すんじゃないのか。それなら僕が目指すべき場所は...。)
ララは天井を見た。見つめる先は二階より先の三階。
三階まであると二階中央通路で見た階段で確認済み。
地球でもそうであったが、この世界でも貴族や富豪は高いところを好み、何かと上層階には重要な機能を持たせたがる。
彼はそれを無意識の内に理解していた。
(たぶん、どっかに鍵を管理している部屋があると思う。なかったとしても、そのまま探索すればいい。)
彼は振り返り、今度は突き当りの階段に向かって進み出す。
因みに階段の種類は折り返し階段というもの。
そして近づくほどに危険な気配が色濃くなっていくのを感じ取り、呼吸は無意識のうちに浅くなり、足取りは次第に重くなる。
そこから一段ずつ上がっていくと。
声がしてきた。
「モシャ―! オマエ、ベツの場所を探せよ!!」
「だっで、ドゴサガせばイイかワガラナい!!」
ハウゲラタン兄弟はどったんばったんドアを開けて確認中、足先揃えて空っぽの部屋を巡ってる。その騒がしさは貴族らしく一級品。
そんな彼らの気紛れがいつ階段に向かうとも分からない。
それでララは急がず騒がず慎重に、彼らが扉に突っ込んだこの隙に、そっと階段を上っていった。
間違っても音を立てないように。
そうして二階から見えない所までやって来た。
階段の途中、ちょうど三階と二階の狭間。
(だけど、いまのだけで疲れが酷い。)
その矢先、現れた。
三階階段前通路にて、一瞬そこを黒い影が横切っていった。
命を吹き込まれた幻みたいな存在が。
遅れて彼は自らの口を手で封じていた。
これが無意味だと知りながら。
そうだとしても、こうしていたくなるようなあの異質感。見つかったら終わりだと本能がそう告げている相手なのだ。
(ここにいた。あの影はここにいた。)
頬から冷や汗が落ちる。
(戻るべきか? いや、進もう。)
静かな混乱と共に、彼は握りしめた右手を解きながら三階へ。
三階階段前通路。階段を上ってすぐ手前に扉あり、そこから見て通路の右端はただの行き止まりで、左端は突き当りになっている。
そして他の階層とは違って通路には赤い絨毯が敷かれてある。
そうした見た目ばかりか、ハーブの香りがどこかの部屋から自己主張。カビ臭い一階とは違って華々しさがここにある。
やはり、魔女であっても臭い物は嫌なのだろうか。
そんな半端な人間らしさが薄気味悪い。
(...僕はこんなこと考えないよ。)
ここで煩悩を振り払うように一呼吸。
(あの黒い影は何もない通路の右端に行ってどこかに消えた。この通路を調べるのは後回しにしよう。現段階じゃ戦えそうにもないし。)
(大丈夫。僕はまだ頑張れる。)
なるべく二階のあの兄弟に勘づかれないように歩みは静かに。
心を震わせながら前に出た。
三階右側通路。三階階段前通路の突き当りを右に行った場所、少しややこしいが中央通路から右側に位置する。
その通路には幾つか扉があり、その内一枚は開いたまま。
その扉に近づく。ハーブがより香る。
そして隙間を覗き込んだ。
気配はない。
彼は扉を大きく開いて静かに閉めた。
ようやく到達したどこかの部屋。今までとは違って生活感のある空間、非常に遅い歩みでやってきたからには何かがあると信じよう。
ララは心を穏やかにしながら辺りを見回した。
豪華な天蓋付きベッド、ちょっと気になる薬の並んだ棚、手紙の置かれた小さな丸いテーブル。魔女本人であろう肖像画まである。
窓からの光もあるが、シャンデリアも主人なしに輝いているのでとても明るい。
そうだ、ここは奇々怪々とした館の雰囲気とは明らかに違う。
魔女の部屋であるかもしれないのに、いつまでもここにいたくなるような安心感がある。本当に奇妙だ。
(逃げた方が良さそうだ。けど、そんな事したら何の為に来たのか。)
そうして彼は晴れやかに恐怖を感じながら探索を始めた。
まず手始めに机の上の手紙を読む。
(えっと、ハウゲラタン夫人へ...。)
千年級の魔女で唯一交渉に応じてくれた事を感謝します。
かつてあった呪術の一端を蘇らせることは何よりも世界の為、これに対する相応の対価として子供百人、一人も欠かさず送る事をこの場を借りて約束します。
しかし、約束日までに送ることが困難となったため、お詫びの品として○◇▽△×を部下に運ばせますので、部下ごと差し上げます。
これは寄生虫に寄生虫を宿らせる研究で得た新世代の呪術です。
追記:ブニスクラ製の子供なら即時に送れますがいかが致しましょうか。
追記:お子様にピッタリな呪術書も手配できます。
追記:親睦会を開きたいのですがご参加いただけますでしょうか。
追記:共同研究はどうでしょうか。
追記:神秘主義者ヤコブスの魔法論についてどうお考えですか。
追記:○◇▽△×の扱い方は...
ここから先は破かれていて読めない。
あったとしても、ララにはこれ以上読むことが出来なかった。
彼は手紙を机にすぐ戻して、今度は棚の中身を探っていく。
すると、あるポーションを見つけた。それはこの部屋を満たす香りの元、これが何かはすぐに分かった。
その世界では誰にとっても馴染み深い一品。
(鼠殺しの薬だ。空気に触れると毒ガスを出して鼠だけを殺す、村にいた時に調合したことがあるけど、ここまで濃度が高いのは初めて見た。)
本来であれば無色透明なものとなるその薬。
しかし、彼の目の前にある物は素材本来の香りが出ており、どこまで毒性が強いかは未知数、もしかしたら人にも届くかもしれない。
(もっと早くに気付くべきだった。)
彼はすぐ鼠殺しに蓋をする。蓋は棚に準備されていたものを使用。
とにかく空気に触れさえしなければいい。
だが、もう既にガスとなったそれが部屋を満たしている。この毒ガスは空気より重く窓を開けても換気が出来ないので要注意。
代わりに扉を開けていればいいだけだが。
(だから扉開けたままだったのか。)
妙な納得感と共に無事解決。
薬種屋なんてやっていた身としてプライドはちょっと傷ついた。
それにしても、それにしてもだ。
(いままで魔女だなんだって恐れていたけど、やっぱり根本が人間なような気がしてならない。)
(一体なんで魔女なんてやっているんだろう。)
そこでララが何となく横を向くとそこに鍵があった。
それも二つも、豪華な天蓋付きベッドの上でまるでご褒美だと言わんばかりに鎮座している。なんか腹立たしい。
両方を手に取って彼は部屋の外に出た。




