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帰還志望の受難生  作者: シロクマスキー
一章 魔王の支持者
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5話 革命王


 暗闇の底からゆっくりと、ロスト・ララの意識は蘇る。


 (なんだ?)


 すると、瞼の上には強い光。閉じた眼が明かりを感じた。

 それを咄嗟に遮ろうとしたが叶わない。


 (どうして?)


 身体が思うように動いてくれない。腕は、脚は、何をやっても精神だけがバタつくばかりで、金縛りとも言える症状にちょとした恐怖を覚える。

 あっ、ほんの僅かに目が開く。

 気を緩めればすぐ閉じてしまいそうな隙間。


 そこから世界を彼は見た。光の後ろに人の集まり。


 そこでようやく、自らの記憶が混濁している事に気が付いた。覚えているのは薄らかに、怪しい人物を見つけてどうだったっけ。

 これ以上は思い出そうにも思い出せない。

 そうしている内にも進展あり。彼の背後から男の声。


 「自分がどんな人物で、何をしていたか覚えているか? ぜひとも教えて欲しいんだが。」


 きっと、誤解されている。そう思ったララは弁明しようと口を動かし。


 「うっ、えぁ?」


 出て来たのはただの音、どうしてか呂律が回らない様子。

 あれ...舌の感覚が麻痺している?

 何が原因か、それを思い出そうにも後頭部がズキズキと痛むだけ。結果として無回答、痺れを切らしたのか男は言った。


 「おいおい、やっぱ殺そうぜ。革命王もそう言ってたじゃないか。」


 (ふむ。)


 いつの間にか自分の人生は終わりを迎えていたようだ。

 それでもロストはやけに落ち着いて。いや、これは頭が混乱して何も理解していないだけである。


 「でも、どう見たってこいつはただの子供だぞ? そんな簡単に殺せないし、殺したくない。」


 それに対して女性の声。


 「へぇ、魔導具を持っているのがただの子供?」


 この言葉を納得する様に人々の輪郭が揺れ動く。

 これは何か良くないことが起きていた。未だに状況が呑み込めていないララだったが、それでも感じる嫌な予感が悪い終わりを囁いていた。

 己の命運が誰かのご機嫌の上に転がっていると。


 (やっぱり嫌だ。)


 こんな事で諦めてしまうのは嫌だ。しかし、必死に口を動かして否定の言葉を出そうとしても、やはり真面な発音は出て来ない。


 「チィっ!」


 そんな様子をどう受け取ったか誰かが舌打ち。

 続くようにして床を擦る金属音、大きくなりつつ見えない位置から近づいて、もはや震えるばかりの彼に更なる恐怖を。


 「どこの偵察か言ってもらえりゃ、命だけは助けてやるんだぞ?」


 低い声と共に死の匂いが降り注ぐ。

 だとしても、言葉は出ない。


 「...そうか。お前の主人は知らないが、お前の忠義はよく分かった。」


 (自分はただ故郷に帰りたいだけなのに。)


 「安心しろ、土には埋めてやる。」


 (土に還りたいわけじゃない。)


 声が出せないだけでここまでとは。


 (ごめんなさい、お母さん。今からそっちに行きますね。)


 明らかな殺意、見えずとも分かる存在感が背後で立ち上がる。その瞬間が分からないように、ロストはそっと目を閉じた。

 だが、その時が来ることはなかった。


 理由は簡単、彼らの王が「待て」と言ったからであった。

 群衆の緊張と無言の続く中で、王はララに近づき、日常で行われるようなごく当たり前の、ごく自然な動作で首筋にあった針を抜き取った。

 透かさず針先を確認、紫色の何かが塗られてある。

 溜息を吐く、苦労の滲み出る仕草だ。


 「皆、いつも通りの作業に戻れ。アリスは後で来い。ギガスはアリスを見張れ。照明の魔法は解いていいぞ、眩しすぎる。」


 「さて、すまなかったな。君の名前は...気絶しているのか?」


 先程まで的確に指示を出していた革命王もこれには困った。

 そこで視界の端にアリスが映る。


 革命王は彼女の首根っこを掴んで表に出た。

 外は春先だからか少し暖かい。ネズミ地区固有の臭いさえ無ければ良い朝だ。

 この時期になると凍死の心配は薄まるが、逆に暖かいと病が流行りだす事は経験則で分かっているので、これからは健康に気を使わないといけなくなる。

 そうだ、忙しい時期になると言うのに()()()は。


 「いや~ん。愛の告白? 情熱的ね。」


 アリスは体をくねらせて器用な寝言を。


 「ふざけるな。お前に告白するぐらいなら見知らぬ豚鬼(オーク)にしてやる。」


 「えー、ちょっと毒を盛って、楽しんでただけじゃんね。」


 「死ぬまで反応を楽しむつもりだったのか?」


 彼女は待ち浴びていたかのように「勿論」と頷いた。


 「ハァ...。いいか、この革命はただの暴動で終わらせられないものだ。」


 革命王は言い聞かせる様に。


 「この作戦が成功すれば他の場でも無魔(デノム)人を御しやすくなるのだぞ。それをお前が遊び半分で子供を殺したならば、私自身がやったやってないに関係なく、良心ある者からの求心力を損なってしまう訳だ。」


 「要するに、この作戦を賛否両論なんて中途半端な結果にしては他の者達に示しが付かなくなる。これが私のやり方なのだと広まるのさ。それでは駄目だ。人を動かすのは何よりも印象なのだよ。」


 「そうだ、アリス。アサルト・ストーンに行ってこい。」


 説教終了、耳を押さえた彼女はこう返す。


 「もうあそこは完成しているよ?」


 「増強してこい!」


 「へーい。」


 くるりとターン、何処かに行こうとしている。


 「おい、まだ話は終わってないぞ。」


 再度掴んだ首根っこ。


 「この機会だから言わせてもらうが、何なんだあのふざけた魔導ゴーレムは?」


 「認知されてない技術を使いやがって。もし、何か言われた際にはどう答えればいいんだ。私でも知らんぞ、あんなもの。」


 アリスは首を傾げてこう言った。


 「自爆装置、火炎放射器、魔導炉のどれさ?」


 「待て、どうして自爆装置なんかつけた?」


 「それはロォー―マンっ!!!」


 無い胸を張って言い切った。

 こればかりはと処置を考えた革命王。しかし、思案し始めたのも束の間、アリスが右手を上げ、ついそれに視線を釣られてしまった瞬間のこと。


 果汁が目元に降り注ぐ。


 「ぐっがあ゛あ゛あ゛あぁぁ!!」


 純粋に痛い。慌てて革命王は潤む片目でアリスを捉えた。

 最後に見たのは果物を放り捨てて、ネズミ地区から悠々と出ていく後姿。


 「ぐぅ、あれでも立場が同じと言うのが。」


 タンポポの綿よりも自由人、取り扱いご注意。


 「...まっ、いいだろう。」


 革命王は教会に入ってあの少年の下に行く。

 どうせ、アリスが街中で攫ってきたのだろうと思う。

 だが、知ってしまった以上はなんらかの事をしなければいけない。これが悪評となって後世に伝わってしまっては目も当てられない。


 「仕事を増やしやがって。」


 そうして。


 「ここは、どこ?」


 ぼろ布の上、そう言いながらララは起きた。

 ここは天国ではないようだし、自分は何故か生きている。

 その時、何かに見られているような気がして視線を移すと、竜の骨に肉付けしたかのような武骨で荒々しい筋肉の怪物。

 それと見比べると随分と小さい人がいた。


 「私達がどんなのか知っているかね?」


 小さい方が聞いてきたのでララは答えた。


 「マスターブラスター?」


 「それは誰だね。」


 革命王はゴッホンと咳払い。


 「私はオキュマス、母が精霊語でつけてくれた名前でね。人の言葉に言い直せば〝偉大なる人〟を意味する。それでこっちの大男はギルギュセス。」


 ララは精霊語と聞いて思い出す。

 昔読んだ本の中に、精霊語とは精霊や一部の魔物が使う言語で、世界と同時に産まれたのだと書かれてあった。真偽の程は如何に。

 そして、精霊語で名付けられた人物はその通りの人生を歩むとも言われており、俗世間一般では基本的に縁起の良い物だと認識されている。

 だから彼は素直な笑顔で言えた。


 「良い名前ですね。」


 「あぁ、そうだな。因みにギルギュセスの意味は貧困者だ。」


 「...。」


 乾いた笑顔に様変わり。ギルギュセスは睨みを利かせて前のめりになり。


 「別の名前はギガスだ。そっちを使え...クッソ小鬼(ゴブリン)共め。」


 ここにはいられないといった様子でギガスは外に向かう。

 圧倒的筋肉魂が過ぎ去り一安心した所で本題だ。


 「まぁ、なんだ。私の部下が、アリスが迷惑かけたようで済まなかった。これからは胸の無い女性に近寄ったり、この教会に近寄ったりしないほうが良い。命が惜しいならね。」


 「えっと、はい。」


 (胸の関係性はよく分からないけど、この教会に近寄らないほうがいいのは本当にその通りだと思う。)


 だが、納得出来ない事が一つある。


 (だとしたら、オキュマスさん達はここで何を?)


 そんな不信感を募らせているとギガスが荷物を持って来た。

 失礼かもしれないが早速中身をご確認、ララは村から持って来た全所持金、壊れた魔道具、それらを蝋燭の火に照らしながら見ていると。

 突然、オキュマスに腕を掴まれた。

 彼の手には今、あの鳴らない鈴が握られている。


 それを見ながら彼は言い始めた。


 「君はもしかして...。」


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