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帰還志望の受難生  作者: シロクマスキー
二章 深緑の墓場
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7話 黒の訪れ


 早朝、ロスト達は東に向かっていた。

 ルナトリス山脈の方角にだ。

 それに伴って彼らの周囲も様変わり、地面は湿り気のある泥へ、そこに生える草木の数も増え、気温の方は昨日よりも暖かいがまだ肌寒い。

 そして環境が変わると生き物もまた変わる。


 カサコソ、ロストの視界端っこで何かが通り過ぎた。


 (またなんか黒っぽいのが通った? 犬? 猫? 精霊?)


 それが、あまりにも一瞬の出来事だったので。


 「まぁ、いいや。」


 言葉に出して放棄する。


 (にしても、川が近くにあるのかな。動物の足跡も多いし。)


 その後のロストは生物の痕跡を探しながら歩いていた。

 特に、熊や狼などの捕食者を。

 難しくはない、そこの地面が泥なだけあって残された足跡は数多く、動物たちの生活が一目瞭然、これさえあればそう簡単に出会うこともないだろう。

 そればかりか、知りたくもない情報も丸分かり。


 (...ここ、猪と狼っぽい足跡が重なってる。)


 ちょっと嫌な気分になったところでララはハランを見た。

 彼はいま、熊を担いでいる。


 (いざとなれば、僕にはハランさんがいる。あの強さは頼りになる。)


 ここで一つ、ハランは言った。


 「()()を見てくれ、どう思うよ?」


 こう聞かれてロストも見た。

 進行方向先、そこにあったのは自然が生み出した天然の長城。

 二人がここに来るまでに幾つかの谷と丘に出会ったが、これほどの規模はこれが最初、最後になるように祈ったのもこれが最初。

 それは石造り八階建てマンションを視界の端から端までを埋め尽くしたような、重厚で圧倒的な光景である。

 それでも自然の一部でしかないのがまた面白い。


 「余りにも...デカすぎる。ジェドは大丈夫かな?」


 (森に入った場所がまず違うし、ギタイザモクから逃げた分だけ離れているから大丈夫か?)


 「おい、あそこに洞窟があるな。実に危険そうだ。」


 電光石火、ハランは洞窟を発見した。

 あの巨大な崖に出来た小さな洞窟、その状態は人が通れる程度に幅が狭く縦長で、中からは水が流れ出ており、それに群がる動物の影あり。

 これ以外にも崖全体には似たような洞窟が点在している。


 (それにしても、実に危険そうって。)


 二人は顔を見合わせた。


 「やはり、行くのですか?」


 「そうだとも! 運が良ければ崖の向こう側に出れるぜ。」


 そう言ってハランは担いでいた熊を捨て、大剣を手に取った。

 ロストの方は心の準備だけを済ませておいた。


 その後、崖付近に向かう途中にて。

 ハランは補足するかのようにこんな事を言っていた。


 「この崖のどこかに東に行ける洞窟があるらしいんだ。」


 「友達(ダチ)の密輸業者が言っていた。」


 そして崖付近に無事到着、近場で見れば更に分かるその巨大さ。

 それで数ある洞窟の内、どこから入るのか選ぶ必要があるが、例の密輸業者から正解を聞いてなかったようで、ハランはどうしようかと悩み始めた。

 その横でロスト・ララは拳を握り。


 「ここは僕に任せてもらってもいいでしょうか?」


 「ほぉ、いいぞ。」


 今日のララは何やら積極的。

 ここしばらく情けなかったことに何かを思ったのか、それとも昨夜の傭兵団加入の話を蹴ったからこそか。

 どちらにせよ彼は動き出した。


 (集めた情報をもとにして。)


 すると、こんな推測が立てられる。

 ハランのお友達(密輸業者)が正解の洞窟を利用した痕跡があるのではないか。


 (で、その痕跡は?)


 ロストは地面を調べた。

 この辺りも泥なので痕跡がよく分かる。


 「...まぁ、うん。分かりやすい。」


 ここから先は地面を調べて導き出すだけの地道な作業。


 (おそらく一日も経っていない、かなり新しい人の足跡を発見。)


 そうして、それを手掛かりにして正解の洞窟も発見。

 面白くない程に順調な滑り出し。

 なのだが、ここまで解明しておいて彼はまだ何か腑に落ちない顔をしていた。


 「見つかりました。あの洞窟です。」


 報告を聞いて馬脚ハランは大喜びで洞窟一番乗り。

 そして入って行ったかと思った矢先、穴の奥底から飛び出た獣の悲鳴、次の瞬間には勝利を祝う雄たけびが轟いた。

 こうなると、なにが獣か見当が付かない。

 そんなハランの後に続いてロストも洞窟へ踏み入れた。


 洞窟内部、暗黒に閉ざされた寂しい場所。

 こんな所に住まう生物もさぞ暗い性格に違いない。

 もちろん、ただの人がそんな空間を闊歩出来る筈もなく、対策せずに入ろうものなら、何も見えない空間を延々に彷徨う羽目にあう。

 例えば、今のロストのように。


 「すみません! ハランさん、僕ちょっといま動けないです! うわっ、なんか踏んだ! ギャー!!? 凄い、凄い滑る石だ! 凄いぞ!」


 ミ゛ャー、うるさい主人に猫が鳴く。


 「ガハハハ!! 魔力を見て歩けい!」


 なにやら、二人の騒がしさ度合いが逆転している。

 ()()でロストの尊厳は死にかけだ。


 (もうやだ、お家帰りたい。あっ、帰っている途中だった。)


 物悲しさは超一流。


 (ほんと情けない。僕がハランさんに頼った分だけ、僕も何かしら活躍したかったのに、なんかもう全部地味だし。凡人かよ僕は。)


 ロストは思い出す、アーマレントでもそうだったと。

 彼は便利な百円グッズ程度の活躍しか出来ていない自分自身に、だいぶ鬱憤が溜まっているようだ。

 しかし、そんな事を悩んでも目の前はちっとも明るくならないので、こんな気持ちはまた今度、今日もそうやって積み上げた。


 話は戻って、ハランの言っていた魔力を見るとかなんとか。

 それについてララは一部諦めていた。


 (アーマレントでは出来ていたけど今は無理なんだ。)


 アーマレントから名の長い森に来るまでに出来なくなっていた。

 一体何が原因なのか。


 「とにかく、自力じゃ無理だ。」


 こう言ってロストは鞄の中から秘密兵器を取り出した。

 その名も可変式魔導用双眼鏡ダレデモマリョクガミレール

 意外と歴史のある魔導具で、彼がこの世界に来てから最初の半年を暮らした村の、住まわせてもらった家の中に壊れた状態で落ちていた。

 そして村を追い出された時、これを金になりそうと持ち出して、アーマレントで色々あってアリスに修理してもらい。

 今現在、こうやってロストが身に着けた。


 「装着完了。」


 暗闇から一変、魔力の彩る新世界へ。


 「へぇ、いいもん持ってんじゃん。」


 「僕、魔力で物体を捉えるって方法は思い付きもしませんでした。」


 「俺も最初はそうだったぜ。世界って広いなぁ。」


 これでロストの歩みもだいぶ楽になった。

 とは言え、その魔導具は、空間を漂ったり物質に宿ったりする魔力の濃度の差異を色彩の差異として見る事が出来る装置。

 つまり、だいぶ説明がややこしくなる程度には通常と違う景色が見える。

 これを使って普段通りに動くのは当分先の話だろう。


 因みに、魔力で見るハランの姿はちゃんとした人型を保っている。

 これが凄いのかどうか現時点で分かりはしない。


 「これで会話する余裕も出来たな?」


 「な、なんでしょう?」


 ここぞとばかりにハランが会話を仕掛けてきた。


 「ロストみたいな面白い奴は俺達の傭兵団に来て欲しい。が、それはもう諦めた話。だからよ、代わりに言いたい事があるのさ。」


 「お前は立派な戦士にもなれる。ガハハハ!!」


 そう言って、ハランはロストの背中をドンドン叩いて大笑い。

 その言葉を裏返したら不器用な優しさが見えそうだ。


 (これは気を使わせた。で、いいのかな。)


 ロストは自分だけの悩みが顔に出てしまったのかと、それで余計な心配をさせたのかと思い、ちょっとばかし恥ずかしさを感じた。

 とにかく、森を半裸で闊歩する獣みたいな男なのに繊細な心遣い。

 確かに傭兵団幹部の器である。

 それどころか、軍でも通用しそうな器だが。


 「...そう言えば、どうしてハランさんは傭兵になったのでしょうか。どこかの国の軍にでも入れば、すぐにでも英雄になれそうな気がしますが。」


 「国家の英雄もいいが、傭兵の方が性に合っていた。」


 「そうさ、どこの誰とも分からん奴に命令されて動くような俺じゃねぇってこった。俺は従いたい奴に従い、ぶん殴りたい奴をぶん殴るんだよ。」


 社会では無法者だと嫌われそうな生き様だ。

 しかし、それだけで言い表していいのかと思うほど、これに魅力を感じる人がいて、その生き方を選んだ人達がいる。

 簡単に言えばアナキスト達のこと。

 そして、ハランはそんな奴らのいる場所を知っていた。


 「もし、自由に興味があるならパラ=ティクウは一番良い場所だ。」


 「二番目は俺の故郷。パラ=ティクウはなんか政治的理由だとかで、法律自体はあるが、法律が適用出来ないらしいそうだ。」


 自由都市パラ=ティクウ、驚いた事に法律が機能していないとか。

 補足をすると、この世界で言う自由都市とは単に、自治権がある都市を指しているので、パラ=ティクウは異例中の異例である。

 これを聞いたロストは不幸が訪れる予感がした。

 彼でなくとも法律が機能していないと聞かされたならば大体そうなる。


 「なんか、前も後ろも地獄だな。」


 そんな時にカタコト、何かで石を突いたような音がした。

 聞き逃しそうな小さな兆し。


 「ちょっと待て、後ろから音がした! まさか追いつかれたか!!」


 「えっ? ギタイザモクの事ならここに入れは。」


 ララは振り向く、魔力的な視点では何ら変哲なし。

 だが、何かこう動いている気配がある。


 「それ使っても魔力量が空気程度の生物相手じゃ見辛いだろうな。」


 魔力量、生物の持つ魔力の保有量のこと。


 「ありゃきっとギタイザモクの幼生個体、またの名をギタイザコモク。成体と違って足が速いから気を付けとけ。」


 (ギタイザコモク。もしかして、崖来る前に見た黒っぽい奴か。)


 それならばどうするか、ロストはハランの方を見ると。

 大剣に魔力が充填される様がよく見えた。


 「うしッ! ロスト、先行っとけ!! 猛獣が待ち構えているかもだが、ここにいるよりは大分マシだろうがよッ!!」


 (また世話になるのは...。なるのは...。)


 そんな事を考えている内にギタイザコモクが近づいている。

 見えはしないがそこにいる。


 「あ゛ーー、この借りは一生使ってでも返しますからァッ!!」


 そう叫んでロストは走り出す。

 次の瞬間、彼の背後で熱を帯びた激しい戦いが巻き起こった。

 見てすらいない生物だが、今まで見てきた勇姿から、ララはその戦いの勝者がハランであることを信じて疑わなかった。

 だって、あんなにも強いのだから。


 (でも、なんだろう。嫌な予感がする。)


 そんな不安が孤独の中で徐々に大きくなっていった。


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