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帰還志望の受難生  作者: シロクマスキー
二章 深緑の墓場
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2話 森の待ち人


 ロストとジェド、二人は無事に目的地へ到着していた。

 森の玄関口にようこそ。

 そして二人が到着するや否や森から鳴き声が飛来する。

 ゴゲッコゴゲッゴ、ゴゲコッコゴゲコッコ、いつまでやるのか、ゴゲ―コッコ、鳴き声は風邪気味で闇堕ちした鶏に近い。


 「頭上がうるさい、これ鳥か?」


 ジェドが上を気にする一方で、ロストは熱心に森だけを見ていた。


 「育ちの良い森だ。」


 木、木、木、が合わさって森が出来上がる。

 それだけで説明出来たならば楽だった。


 これは一つの側面から見た話。


 木が沢山あって森となり、ここに風が吹けば葉は落ちて、それが腐って虫の家、これを鳥が狙っては地で待つ狐に食われていく。

 そんな森の生き様は人にとって絶望でもある。

 木々と動物の楽園でもあるが、同時に闇と不安のテリトリー、入れば道なき道が迷いを誘い、入れば未知なる恐れが先を阻む。

 森の歩き方を知らなければ直線状に進む事すら困難で、他に何かあっても誰かが助けに来るなんて、この世界なら尚更、奇跡を望むようなもの。

 恐怖症が欲しい人には打って付け。


 「おい、言いたい事がある。」


 「なに?」


 もう一つ説明しなければならないこと、この世界には魔物がいる。

 言うならば知性を持った猛獣、人との違いを聞かれれば賢者でさえ迷うだろうが、何であれ、人と魔物が仲良くするのは難しい。

 もちろん、彼らは森にだって住んでいる。


 「ここから先は完全に別行動だ。」


 ロストは焦った。


 「えっ、ちょっと待って!!」


 問いただそうとしたのも束の間、ジェドは指を一振り、すると二人を隔てる様に火炎が迸ったのだ。

 焼かれた空気は不味い味。

 ロストは怯んで脚を止めた。

 その結果を見る事すらなく彼は森へ歩く。

 取り残された者はこの出来事に戸惑うも、冷たい風に当たり、冷静になってみれば、出てくる言葉はただ一つ。


 「...それもそうか。」


 相手が組むことを拒んでいるのに、何度も付き纏ったらこうなるのも当然。

 そう納得して胡坐をかいた。

 こうして、一つの別れに幕が下りたところで。


 「さて、コレで話せますね。」


 ララの背後より独特な訛りある声が強襲。


 「ん、えっ、?! あっ? コワルスキンさん?」


 振り返ってその姿を確認する。


 「ソウデす、コワルスキンでございまス。」


 非対称の目玉に不気味な肌色、彼こそは食屍鬼(グール)のコワルスキン。

 一章の3話からいる謎の人物。

 魔導具の燃料となる魔石を欲しがり、それを与える者に対しては何かと融通してくれるなど、とうてい魔物とは思えない行動を取る。


 「来てくれたんですね。鈴の音を聞いて。」


 「えぇ、ソレデ事情ハ察しましたよ。アナタハ私の貴重な取引相手、ココデ死なれては困りマスから、何カしラ手助けいたシマショウ。」


 「タだし、一つダけデす。」


 コワルスキンは指一本を天に指す。

 ララはよく考えて言った。


 「僕の旅仲間にならない?」


 「残念ナがら私にはご主人がいましてね。離れらレマセン。」


 と、断った後に。


 「ソう言えば、コこから北の方角二野営してイる二人組がおりマス。彼らハ森を横断する腹積もりらシいので会ッてみテハイカガでしょうカ。」


 「なるほど、そうしてみます。」


 これで望みは一つ消費、ロストの手元には小粒の魔石が無数にある。

 ようやく念願の望みを聞くことが出来るのだ。

 彼の心は熱を持って踊りだしていた。


 「異世界に移動する方法を。」


 先手必勝、ロストは魔石の入った袋を突き出した。

 コワルスキンはマジマジとそれを見つめ。


 「前モ似たよウな事を言ってマしタね。」


 これを受け取り。


 「イイデしょう。」


 その重要な情報を聞いた後にロストは北へ向かった。

 そしてコワルスキンの情報通りに野営地を発見する。

 そこには誰一人いなかったが、まだ熱を感じる焚火、地面に残る新しい足跡、痕跡から情報を得てまだ遠くには行っていないと推測。


 「これならまだ追える!」


 「ビビッて損した、誰だお前?」


 「え?」


 思ったより近くにいた。


 ちょっとばかし時間を進めて、互いに自己紹介するところまで。

 先行は野営地の二人組、後攻はロスト・ララだ。


 「俺の名はハラン・ピークぅ、いつか世界に轟く大戦士の名前だ! 現在失業中、俺を雇ったら箔が付くぜ!」


 「吾輩は賞金稼ぎである。そっちの()()()()のは道端で拾った。」


 「ひでぇぜ、ハハっ!!」


 一人目は筋肉粒々、ちょっと融解している巨大な剣を片手に持ち、身なりは殆ど上半身裸で、背丈はあのギガスと比べてちょっと下に位置してる。

 二人目は老年の紳士風味、三丁の短銃を腰にぶら下げて、ベルトを使って長い銃を背中に担いでおり、服装は黄緑のシャツと茶色のオーバーコート。

 これ以上の説明はまた今度。


 この瞬間にもロストは嫌な予感がしていた。

 彼の経験上、良い予感は当たるどころか訪れず、悪い予感はよく当たるし予約待ちの大人気、良い出来事は不意打ちに、悪い出来事は想像通りに。

 そんな訳で彼の震えは止まらない。


 「早速で悪いが、吾輩はこの馬面を探しておる。」


 「そうそう、こいつ馬探してんだよ。笑えるわ!」


 「馬面?」


 紳士風味さん(仮)の取り出した似顔絵には人と馬のハイブリッド。

 これと一緒に書かれてあった賞金額が100ペタル(約1000万円)、人は見かけによらないを体現するとは恐れ入った。

 ここまでくると戦慄しつつも興味が湧く。

 それに任せてまたもやロストは質問してしまった。


 「一体、どれほどの事を?」


 「それがアーマレントで銀行強盗だと聞いておる。」


 ロストは言葉を失った。


 「おぉ、そうだ!!」


 これとは真逆にハランが騒ぐ。


 「この前まで雇われてやった場所がその銀行でさ、この馬のやった強盗で俺は失業したんだぞ! ふざけんなよ! 見つけ次第ソーセージにしてやるわ!!」


 彼の地団駄で木々が揺れる揺れる。


 「うるさいの、顔の原型は残して欲しいぞ。」


 ロストが眩暈を引き起こしたところで一つ。


 「いかん、重要な所を忘れかけていた。この馬面の名前はロスト・ララと言って、とある情報提供者によれば共犯の傭兵が一人...目撃情報も...。」


 ロストは耳を疑った。

 歳は~、信奉する神は~、得意分野などなど、流出していた個人情報を聞かされて、張本人がどんな状態になるかと問われれば。

 本当にもうお疲れ様です。

 orz、ネット黎明期に産まれし死にかけの伝統。


 「どうした、若いの? 急に倒れて。」


 (ここまで仕込んでたのか、革命王。)


 笑いごとに出来ない恐怖が身に染みる。

 しかし、何の幸運か名前はまだ明かしてないし、何故か似顔絵が完全に別人だし、ここから逃げ出せる段階だ。

 ロストはそう考えて立ち直る。

 怪しまれずに立ち去るのがベスト。


 「なんでもないです、急に死に絶えたくなっただけで。」


 「それは相当な重症じゃぞ。」


 今度はハラン・ピークが。


 「面白い奴だ、ところでお前の名前をまだ聞いてなかったな。」


 「えっ、あっ、私の名前はギルギュセスです?」


 「なんで疑問形、ハハっ!」


 ぎりぎりロストは頭の中から偽名を引き出せた。

 ロストの出した答え、笑いを取りつつ距離もとる戦法。

 それが功を奏して話題から逸れていく。


 「しかし変だな、ぎるぎゅせす? どっかで聞いた名前だ。」


 逸れてない。


 (やあああああ!!!!!!)


 ぽんぽん痛い。


 (神様、僕をいじめて楽しいですか?)


 ロストはストレスで今すぐにでも禿げそうな様子。

 しかし、正気は失っても勝機は失わない、その心意気で目を開いてみれば、彼に届いた言葉がこれだった。


 「なぁ、どうせお前も森を横断する気だろ。こいつも俺もそのつもり、ついてくるなら好きにしてくれや。へっへっへ。」


 地獄への招待状が一通。


 「ついてきます!」


 破れかぶれの返答で彼は森へ突き進む。

 その裏で紳士風味さん(仮)、またの名をシルバーメイン執行部隊隊員コードネーム『射手』、この仰々しい肩書きを崩して言えば暗殺者。

 彼があの馬面の似顔絵をひっくり返すと、そこにはロスト・ララの顔がある。

 それは例の情報提供者とは別の者から手に入れた似顔絵であった。


 「若人、吾輩の勝ちだ。」


 深緑の戦いがこうして始まる。


※コワルスキンに悪気はありません

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