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帰還志望の受難生  作者: シロクマスキー
一章 魔王の支持者
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47話  終わりへの行進


 少し話は巻き戻って、城近く、鉄錆の臭いと煙っぽいこの環境。

 そんな鬱屈とした場で、六人の小隊長が神妙にダンカンの話を聞いていた。


 「最終確認だ。この小隊には、弓または魔法による遠距離攻撃の後に、敵が寄ってきたら即退散。これで着いて来たデノム人を冷静に対処する。」


 「その隙に情報収集として私と決死隊が城内に行く。」


 これを聞き、頷き合う彼らにダンカンは深呼吸。

 ここまで来るのに一苦労、作戦を納得させるのに時間がかかった。

 散らばった隊と合流するに当たり、色々とあって、小隊長達の指揮を一旦引き受けたので、今回の作戦をダンカンが立案する事になっていたのだ。

 自分より上の立場がいれば話は随分と違ったのだが。


 「決死隊の構成に誰か入れたいなら言ってくれ。」


 ダンカンはそう言い残し、既に決まっている決死隊の面々に顔を向けた。

 城の侵入と移動ルートを話し合う為である。


 その頃、ロスト・ララと言えば。

 そこより遠く、避難所のテントの中にいた。

 ここだけでも日本の通勤ラッシュのような密集具合である。

 やはり、ほぼ全て国民が集うとなると色々問題があるようで、国民の過半数は本来避難所では無い場所に出ている。

 そんな混沌とした場所で怪我人を治療中。


 「治療と言っても、傷口の洗浄だけ。」


 いつも通り、道具が圧倒的に足りない。

 塩素の入手方法さえ知っていれば、簡単な消毒液が作れるのだが、生憎、そんな便利な知識は持っていなかった。

 なので、主に使うのはアルコール、要は酒である。

 これが自前のものしか無いので途方もなく大変。


 「ララさん、感染症とやらを防げるんですから充分ですよ。」


 そう言ってくれたのはエルモさん。


 「でも、うん、分かったよ。」


 エルモさんは魔法を使って患者を慰めていた。

 その魔法の効果は沈痛、麻酔を用意する事が出来ないので大助かり、やっぱり自分との間に圧倒的な差があるようだ。

 

 「それよりも自分の怪我を治したらどうです。」


 エルモは心配そうにロストを見た。

 ララの怪我は火傷に小指の骨折、捻挫に加えて軽い打撲。

 けれども、彼女が知っているのは指の骨折だけ、他はなんとなく、心配されまいと隠し通していたのである。

 ちょっと気不味そうに、ロストは彼女から目を逸らす。


 「エルモさんの沈痛魔法で痛み自体は無いですし...。」


 それから沈黙のままに一人二人と応急手当。

 そして、とうとう最後は治療道具を使い果たして終了、ではなく、今度は迷子の保護にまで乗り出していく。

 ララが見つけ次第にテントへ連れて行き、エルモ様がなだめる算段。

 これに協力してくれたのがエルモの親族、具体的に、本の貸し出しにパンの提供、場所の確保までしてくれた。


 「そして人員も割いてくれた結果、僕は暇となりました。」


 そんなララの目の前をジェドがつまらなさそうに横切る。

 これに驚いた、入手経路不明、彼は剣を持っていたのだ。


 「ジェド。何処に行くつもりなんだ。」


 そう聞いたのだが。


 「チィッ...。」


 舌打ちして何処かに走り去ってしまう。

 向きは城、未だ戦場であるそこに行く気なのか。

 このまま向かうのは危険と判断し、ロストは、エルモ様が孤児達に読み聞かせ中の所をお邪魔して、申し訳なさそうにこう言った。


 「エルモさん、ごめん僕の鞄を取って!」


 それで鞄を受け取って、真っ先に銃を抜き取る。

 弾は残り三発のみ、しかし、そうそう使う事はない筈だ。


 「何処かに行く予定ですか?」


 「ジェドが城に行ったんだ。連れ戻しに行くから、ここで待っていて欲しい。」


 目的は知らない、だが良い傾向とは言えそうにない。

 エルモは困った顔をしてララの手を握った。


 「貴方に神々の加護があらんことを。こんなことしか出来ない私をどうか許してください。」


 「...行って来ます。」


 こうする間にも戦場に動きが現れた。

 ダンカンによる作戦によって、数百の兵による攻撃がデノム人に襲い掛かり、あっという間に死傷者三桁となる。

 その応戦に革命軍はスピットライフルが放つが、どれも半ば届かず落ちていく。

 しかし、微かに届いたダーツ弾が一人二人と倒しており、それがデノム人達に誤解を与え、大した効果も無いのに長期的な射撃戦が繰り広げられた。

 もし、現場に革命王が居ればなんと嘆くことやら。


 「おいおい、何やってんだてめぇら。」


 そんな所にギガスがやって来た。

 すると、何かをアドバイスしたのか状況は一変し、傭兵の指導により接近戦を試みる者が出始めて、これを作戦通り、アーマレント側は速やかな撤退を披露する。

 それを好機と捉えて突撃した幾人かのデノム人は、途中、反転した小隊の攻撃に殲滅させられたのだった。


 (これだから戦争素人共は嫌なんだ。)


 まだ、敵を追っている味方にギガスはこう叫ぶ。


 「馬鹿共、全員引き下がれ! 後は俺一人でやる!」


 しかし残念、少し指示が遅かった。

 城から大きく引き剥がされては戻るに時間がかかる。

 その隙に包囲が手薄となった箇所から、まだ居残っていた革命軍を決死隊が蹴散らして、ダンカン達は潜入を果たすのだ。

 丁度、ギガスと入れ違いになった形となる。

 そして入り込んだ城の中、決死隊は何の憂いもなく無骨な通路を駆け抜けた。


 これは決死隊が城の罠を知らない訳では無い。


 「道を間違うなよ。安全なルートはここだけだ。」


 ダンカンは味方にそう言った。

 実は、城の罠が作動しない安全な道がある。

 これは味方側に死人を出さない為の処置であり、それを知っているのは貴族か軍の隊長格のみとされ、それが、ダンカンがこの決死隊の先頭に立っている理由。


 「不味いな、敵も気が付いていたかもしれん。」


 道の先、デノム人の死体があった。

 胸を一突きされて死んでいて、つまりここまで敵が侵入、と言う事は、更に先には敵がいる可能性がある訳だ。


 「ここからは敵がいるものと思え! 皆、行くぞ!」


 こうして気を引き締めて走る面々。

 これに追いつこうと、死屍累々の地を蹴って、走って行く子供が二人。


 「待って、なんで、せめて置いて行かないで!」


 あぁ、呼吸が荒ぶる。


 「勝手に着いて来た癖に何を言ってんだよ。」


 ロストと、ジェドは城に潜入していたのだ。

 前者はともかく、後者はどうして城の中にまで来たのか不思議、でもそれには理由がある。


 「俺は! 拉致の首謀者をぶっ飛ばすんだよ!」


 剣を無暗に振り回して宣言した。


 「攫ってくれた借りのお返しになぁっ!!」


 彼の言葉が他の孤児も含めてなのかは定かではない。

 でも、なんとなくそんな気がする。


 「それは分かったよ。でも、誰が首謀者なんて分からないでしょ?」


 こうは言ったものの、彼は確信した言動である為、何かしら情報源がある筈だ。

 これをあっさりとジェドは解き明かしてしまう。


 「お前も知ってる筈だよな。だって、お前の話をエルモ...さん経由で聞いた話だ。なんか革命を主導してる奴が首謀者なんだろ?」


 前に話した内容がジェドに漏れていたようだ。

 別にそれでエルモ様を悪く言うような事でも無いし、むしろ、ジェドは当事者だから知る権利があって、致し方ない結果である。

 それに暴走が始まるなんて知りながら教えた訳ではないだろう。


 だとしても、だとしてもだ。


 「ねぇ、えっと、その人なら外で指揮してるんじゃないかな? 偉いから戦場にまで来ないと思うよ。うん。」


 「あっ...。」


 ジェドは足を止めた。

 けれど、何を思ったか、すぐに再稼働し始める。


 「いいや、中にいるかもしれんだろ!?」


 短慮な性格がこんな形で出てしまうとは。


 「来いよ。この先にいるって証明してやる。」


 今度のジェドは、ララを連れて行こうと手を引っ張った。

 なんだろう、全然嬉しくない、もっと別の出来事で気を許して欲しかったが、これもまた致し方ないと言う事だろうか。


 警戒心を忘れかけた頃の出来事。

 こんな雰囲気でも、悲鳴が飛び込めば緊張が走る。

 そうだ、ここは戦場、敵対者に出会っていないのは運が良かったからに他ならない。


 「さっきの声、明らかに前方から聞こえて来た。」


 やはり危険な場所である。

 しかし、ララはこの先の何かに対して身構えているのだが、ジェドの方は全然平気そうにしてこう言った。


 「あー、お前の所為ではぐれちまった。」


 「それは一体誰のことなの?」


 ロストは通路の先を見てみたが分からない。


 「俺はアーマレントの兵士を追っていたんだ。あいつら先頭に走らせれば敵と会わなくて済むし、すぐ奥地までいけるから。」


 こういった妙な知恵はあるようだ。

 その工夫を何処から手に入れているのか不思議、聞いてみたいが、けれど、それを知るのはまだ早いように感じた。

 いつか、もっと世界が安全になったら聞いてみよう。

 その為にも今はジェドを説得して引き戻そう。


 「ジェド、もう戻ろうよ。」


 すると彼は振り返って言い放つ。


 「何を言ってんだよ。ここまで来たんだぞ!?」


 確かに、通路の先には大きな広間が見えている。

 だからこそ引き返すべきであり、未知の領域に足を踏み入れるのはどうも嫌だし、今の内ならまだ無謀の探検で済むのだ。


 目を開いてロストは叫ぶ。


 「ジェド!」


 「だから、俺はこのまま!」


 「違う、後ろだ!」


 ジェドの背後から剣が降り降ろされようとしていた。

 普通ならば避けられない一撃、しかし、そこにやって来た別の剣筋に救われて、逸らされた攻撃が地面を叩く。


 「っ...。」


 声にすら出せないような僅かな出来事。


 その僅かに多くの事が起きていた。

 味方だと思わしき男は自らの剣を地に捨て、疾風の如く敵に近寄り、相手の利き手である、右手首を両手で抑え込んでからの、勢いを殺さず壁に叩きつけた。

 敵は背中を強打して悶えるが手を緩めず。

 そこから右手を敵の首の後ろに回し込み、鳩尾に膝蹴りを与える。

 ここで滞り無く威力は腹を貫き、この終着点として、敵は石畳へ倒れ伏す。


 「圧倒的だ。ダンカンさん。」


 そのララが呟いた名は、窮地を救ってくれた張本人。

 あの流れるような連鎖攻撃はどれほど鍛錬したのか聞きたくなる。


 「ここは戦場だ。大人でも、あまり気を抜いていて良い場所じゃない。私達がいて助かったな。」


 ダンカンは剣を拾いながらそう言った。


 「ぐぅ...。」


 ジェドは悔しがる表情を見せる。

 ロストの場合、ぐうの音も出なかったが。


 「今回はどんな用で来たのだろうか。」


 怒鳴らずに接してくれるダンカンさん。

 なるべく怖がらせないように、口調に気を付けているようだ。


 「ジェドを、こやつを連れ戻しに来たんです。」


 「そうか。だが、残念ながら君らは後戻り出来ない。」


 ララは、それがどんな意味かと推し量っていると。

 ダンカンは敵の剣も拾い、ここより脇の通路に投げ捨てた。

 次の瞬間には、壁が奇妙な生き物みたく動き出し、押し潰し、残った残骸が地面に転がるのみ。

 まるで腸の動きを模しているようだった。


 「こうした訳があって君達だけでは戻らせられない。避けて通るにしても案内をする人材がない。それに、抜けて行っても革命家に押し潰されるだろう。」


 ダンカンは広間を抜けた先の通路に指差す。

 そこには王の間、謁見の間があり、決死隊が行き着くべき目的地であった。


 「この先に王がいる。一緒に付いて来てくれ。」


 子供二人はその声に従って広間に出た。

 広間では、辺りのデノム人を制圧した決死隊が不可思議そうに見つめてきた。

 彼らの中には深手を負った者もいて、どうやら、ここにいたデノム人はかなり手強かったらしい事が伺える。

 しかし、それよりも忘れられない出来事が一つ。


 皆、死を覚悟した目付きだった。


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