46話 知略の攻城
時は夕方頃、攻城戦が始まろうとする直後のこと。
宗教地区と中央地区の狭間にある城にて、あの軍団長が情報の持ち帰りに成功、それを元にして、王は騎士団を城門へと集結させ、戦いの始まりに備えていた。
だが、そればかりでは圧倒的に足りないと、避難所から幾人かの民兵を城の中へ招き入れることにしたのだ。
それを見ていた策略家。
「城は城壁に囲まれ、水路から潜入するにも狭い道な上に罠がある。この都市において、更に壁を作るよう指示した奴はさぞ意識が高い。」
過去の人に賛辞を送る。
すると、ギガスは退屈そうにこう言った。
「ここまで来てお手上げか?」
「ちゃんと策はある。」
「じゃあ、あのヘンテコな人形を使うのか。」
それは黒く蠢く不思議な人形のこと。
オキュマスは城から目を離し。
「今回の演目は、無魔人は自らの手で夢を叶える話。つまり、表向きにはそうしておきたい。だから、あの人形を使うつもりはない。」
主役は飽くまでも彼らだ。
これをアレが奪ってしまうのは、民に良からぬ事を連想させる材料となる。
もし、世間で悪だと見做されたら、革命後の反攻、聖国の戦争意欲、無魔人の士気に至るまで、様々な所で悪影響がある。
ついでに、革命王に関する大衆の見識にもよろしくない。
と、長々と語り尽くしたオキュマス。
「言っとくが、俺のお前に対する認識は地の底だぞ。」
「そんなに褒めないでくれ。」
避難所は城がよく見える絶好のポイント。
そこから戦いの全てを民は知る、故に、これから起きる出来事、城の陥落はアーマレントの降伏を示す旗となろう。
あれから時は過ぎ。
城の前に陣取った二千近くの無魔人。
各々、武器を手に取って、攻め込む意気はかなり良し。
そんな彼らの中には、早朝ばかりに牢から出された者もいたのだが、痩せた身体に似つかわしくない士気の高さだ。
「城に隠れた臆病者に知らしめてやれ!」
「我らの決意を!」
同胞の叫びに連鎖して、怒りは燃え広がる。
これを見るのも聞くのも、ただ忍ぶ事しか出来やしないと、籠城する全ての兵士は真剣な目付きをするのだ。
それを気を紛らそうと雑談に勤しむ者が出た。
「盗み聞きしたんだが、援軍が来るかもしれないそうだ。」
「いったい何処から、本隊は壊滅したと聞いたが。」
「違う、違う、聖国だよ。」
現在、アーマレントには聖国の外交官がいる。
その外交官はなんでも聖ユーマ王国の王、聖王より寵愛を受けており、これを救い出すべく万の大軍がここへ来ると。
「でもお偉いさん方は、その援軍が来る前に事を終わらせたいらしいぜ。」
「へぇー、なんでだ?」
「それはよ。」
よし乗ったと、これらを語ろうとする者の背後より人影。
「雑談はよせ、武器を準備しろ。いつ攻めて来るか分からんのだぞ。」
「はいっ、小隊長!」
これより僅かな後、戦争が合図もなく始まった。
その苛烈さや、あの雑兵共は雑談の内容なぞ忘れて戦いに従事する。
これよりの動向は端的に表す。
戦場の、おおよその勝機は革命を振り上げる者にあり。
何故なら、僅かな時間に守りの要所であった門は崩壊、魔法による優位性はどこへやら、その大きな理由として巨人の傭兵だとされる。
第二の関門、門が破壊された後にあるのは狭い道、これを勢いに任せて進んだデノム人は全滅し、一時的に攻撃は止むのだが。
けれど、城壁に梯子が作られて、またもアーマレントは苦戦を強いられた。
こうして段々と敵に迫られるアーマレントだが、人的損害は随分と少ない、死者数で言えば革命軍の方が圧倒的に多いくらいだ。
実は、王国側は最初からそうなるように予定していたのである。
デノム人達は逃げた兵を追い、招かれるように城まで入り込む。
そうして熱心に追って着いたのは袋小路。
「どこ行ったッ!?」
先程まで逃げ回っていた相手が何処にもいなかった。
後ろを見れば、ゆっくりと閉じる逃げ道が。
「まさか、壁が動いてるのか...。速く、退散するぞ!」
そう思った後では手遅れ同然。
あっという間に、左右の壁に食われて死んだ。
これぞアーマレントが建国より秘匿し続けた最終防壁、設計者の精神を疑うぐらいに惨い、石の胃袋であった。
「革命王様、いったい如何すれば良いでしょうか!」
しかし、これには弱点がある。
それは、大量の魔力を消耗するので長くは作動しないこと。
革命王はこれを見抜き、情報を部下に伝達したのだが、いつ再稼働するかは不明なので、恐れ慄いて戦いにならない者が続出する事態。
こんな戦いの果て、ついに城の一角へ入り込まれた。
「失礼する。」
そこは聖ユーマ王国の外交官サリアの部屋。
入場者は革命王本人と、そのお供ギガスとなる。
「嘘だ、道は完全に封じてたはずだ!」
「革命家気取りのくそったれめ、覚悟しろ!」
慌てふためく、外交官を守る幾人かの熟練兵士達。
「お前ら強いな。俺と戦え。」
ギガスはそう戦いを挑み、すぐに彼らを粉砕した。
辺りに転がる有象無象の屍。
これを呆れて見ていたオキュマス。
残骸を後目に、近くの椅子をサリアの目前へ置く。
「やっと本題だ。」
そう言いながら腰掛けた。
外交官の様子、サリアは落ち着きを通り越して怪奇、二人が兵を殺した事すら気にかけない、ずっと窓の外を眺めるだけなのだ。
無関心もここまで極めれば驚き。
と思いきや、ボソリと言った。
「聖王から深く愛される私を人質にすると。例え、どんな結末になろうとも貴方達は殺されますよ。」
革命王は深呼吸して。
「君には残念だが、その程度の嘘には騙されない。」
この言葉には確固たるこんな理屈がある。
「もし、本当に愛されているようなら、もっと安全で高位の官職に付けさせる筈だ。それなのに、こんなド田舎で大国に挟まれた危険地帯とは。」
「そうすると、君がここにいる理由。帝国を襲わせない為の布石以外の何物でもない訳だな。」
アーマレントは彼女と壁あってこその平和。
帝国に聖国のお手付きだと知らせる広告塔が彼女なのだ。
ここでようやく、サリアはこちらを向き。
「そんな私の元に来たのはどうしてかしら。概ね検討は付きますよ。」
「と、言われますと。」
オキュマスはそれを面白半分で聞くことにした。
「先ず、間違いなく聖ユーマ王国は援軍を送り付けます。兵力はアーマレントをそのまま占領出来るぐらいの大戦力。」
彼女の言葉通り、現に聖国は兵を送り出している。
オキュマスは頷いて話を続けさせた。
「貴方はそれと戦わない為に門を破壊して通れなくしました。」
「ギリネスの門だけを残したのは、そこが開いてる事により、壁をよじ登る選択肢を消すことにあり。壁の上に何か見られたくない物でもあるんですか?」
革命王は、その返答をニヤリとするだけで済ませる。
「その後は捕虜、私を餌にしてアーマレント国に降伏を促すと。」
彼女はアーマレントを降伏させる材料として適任である。
その訳は、この外交官の安否を無視すれば、聖国の威信を貶める事になるので、外交を気にするアーマレントとしては見逃せない存在。
そして降伏しても、彼女さえ居れば聖国の加護が受けられる望みがあるのだ。
もし実際に、この選択肢を迫れば心揺らぐことだろう。
これでサリアの考察は全てらしい。
オキュマスは満足そうに深呼吸、こんな事を言った。
「面白い女性だ。だが所詮、それら全ては時間稼ぎの策に過ぎないな。では、私は何を狙ってそんなことをしたと?」
これを一息で答える。
「えぇ、そこで貴方は帝国の兵を呼び寄せましたね?」
彼女の目には朧げな確信があった。
それは、そうだと思っていても根拠が言えない時の瞳である。
オキュマスはそれに気付いていて、どうやら鎌をかけている様子だが、敢えて引っ掛かるのも紳士の嗜みだろう。
と言うのは嘘で、相手に自分をギリギリ騙せる奴だと思わせる戦術。
「ちょっと聖国式の野営を帝国領付近でやっていただけだ。」
これに騙された彼女はほんの僅かに安心する。
(容易いぞ、小娘。)
それでも充分な手腕と美貌は称賛に値する。
互いに器量を知ったところで一つ、革命王は話を持ち掛けた。
「今度、聖王に会いたいのだが。手伝ってくれないか。」
彼女はその言葉を勘繰った。
暗殺か、単なる伝手の確保、どうもこうも分からないが、一先ずの返事としては無難にこう返す。
「あら、どうして腐食者を聖王に会わせなくてはいけないのでしょうか。」
すると、オキュマスは席を立って。
「なら仕方ない、人質として連行させてもらう。交渉次第では、御身がどうなるかは分からないがな。」
サリアは分かりやすい台詞だと心から笑う。
(単なる脅し。私を欠いて聖王と会うなんて無理が過ぎる。)
聖王は家臣との会話に代理人を立てる程の臆病。
それに、もし別の手段を用意してあるならば、わざわざ協力関係を結ぶ素振りなんてみせず、勝手に人質にしとけば良い。
聖王と何をしたいかは知らないが、そう簡単に諦めるような内容なら、最初から考えもしないだろう。
彼女は深々と考えて、ちょっとした思い付きを手に入れた。
「直接は会えませんが、代理人を用意して交渉の場を与えましょう。」
聖王に無魔人を引き連れた者を会わせるなんてとは思うが。
けれど代理人を通してならば、さほど可笑しな話でもない。
「それで十分、部下に賓客の扱いを務めさせよう。」
サリアのそれは革命王を扱えると思っての言葉。
彼女は革命と並行して画策する彼を甘く見ていたのだ。
「おいおい、大変だぞ。」
全然、大変そうでも何でもないトーン。
ギガスは革命王を呼んだ。
「どうしたんだ。」
ギガスは窓の奥を指し示し。
「後方から敵兵が現れてやがる。」
こんなボヤっとした情報では何とも出来ない。
次にオキュマスが見ると、彼は視力の高いと名高い人種であるので、こんな長距離でも色々と知り得るのだ。
敵兵二百、士気の程はそこそこに高いと見えた。
「そんなに生き残ったのか。全員、お前が蹴散らしてこい。」
「雑魚とは戦いたくないんだが。」
これを黙って顎で指すと。
「仕方ねぇ。」
ギガスは扉を潜り抜けて迎え撃ちに行った。
それから、目線を窓に戻すと変な奴を発見する。
(おや、ロストの姿が見える。何しに来たんだ。)
てっきり、アリスがやったかと思っていたのだが。
一応、ギガスに抹殺命令出しておいたものの、性格的に彼女がやるとばかり。
「誰が私を警護するのです。」
あんなに強い人間を従えるとは何事かと。
顔には出さないが、サリアは底知れぬ恐ろしさを覚えながら聞いた。
「ご安心ください、扉の前に自慢の兵を揃えてあります。」
しかし、付け入る隙は必ずあると自分を宥めながら。
サリアは自らの選択に誤りはないと信じて進んだ。




