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帰還志望の受難生  作者: シロクマスキー
一章 魔王の支持者
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45話 出会いは別れの始まり


 戦えば何かしら傷がつく。

 だとしても、こう何回も気を失うのはいい加減にしたいものだ。

 綺麗な石畳の上で、ロスト・ララは意識を覚ました。


 (あれから、アリスさんと戦って。どうしたんだっけ?)


 ぼんやり霞む視界でゆっくりと辺りを眺めた。

 すると、男の顔が入り込む、彼は遠くの何かに意識を奪われており、ロストが見ているのにちっとも気付かない様子。

 次に、ロストは空に浮かぶ黒い煙を注視した。

 そこから混濁した記憶に(ひび)が入る。


 「また気絶していたのか。」


 全身を力ませて体を起こすが。

 平衡感覚がぐらついてバランスが取り辛い。


 「気分はどうだ。」


 「えぇ、大丈夫です。」


 ダンカンの声にそう答える。

 取り敢えず、今は、不覚にも一眠りしたお陰で調子が良い、あんなに眠たかった頭は軽くなっており、ちょっとした眩暈などが残るだけ。

 けれど、身体の方はそうとはいかずに緩んだ筋肉が地べたでお昼寝。

 動けるようになるまでまだ時間が必要だ。


 「何か見えるんですか?」


 その暇つぶしも兼ねてララは聞いた。


 「何も見えないが、ララが気絶している時に大きな音がギリネス方面で鳴り響いていたんだ。悪い予兆だと思うが。」


 戦いはまだまだ続いている事に溜息を吐きたい。

 ダンカンは収穫祭が穢されたと言うべきか、国民が楽しみにしていた伝統を邪魔された事へ、眠りを邪魔された竜のような怒りがある。

 けれど、こうなったのも先祖の手引き、デノム人の視点に立てばそうなるしかなかったとも言えなくもない。

 我々はどこから間違っていたのだろう。


 「魔導ゴーレム退治。ありがとう。」


 ダンカンは自分だけでも正しくありたいと願った。


 「どういたしまして。」


 それをララはお辞儀で返す。

 それからのこと、ロストは鞄に入っているものを今一度確かめていた。

 小粒の魔石が入った袋とか、もう使わないであろうスピットライフルのダーツ弾、魔導銃の弾丸が二発と、そこで大事な事を思い出す。


 「この魔導銃は返します。大変、役に立ちました。」


 これが無かったら間違いなく死んでいた。


 「まだ君が持っとくと良い。何か起こらないとは限らない。」


 「ですね。」


 ダンカンはその銃がなくとも何とかやっていけるが。

 しかし、相対して彼は自衛手段が乏しく、その癖、これからも何かの為に無茶をすると思うと、やっぱりロストが持っているに限る。

 もういっそのこと譲ってもいいと考えていた。

 むしろ足りないと言っても過言ではない、魔導ゴーレムを討伐するなんて、それ以上の活躍はしているのだから。


 魔導銃をしまうと、ロストはふと気が付いた。


 「あっ、あそこに誰かいます。」


 視線の先には、二つの剣を腰にぶら下げて道を走る人がいる。

 あれがアーマレントの兵士なのか、それとも兵士から武器を奪ったデノム人なのか、ロストには見分ける事が出来ない。

 ララの視線を辿ってダンカンの方も見つけた。


 「あの方なら私は知っている。」


 ダンカンは叫ぶ。


 「軍団長殿!!」


 その相手は振り向いて。


 「ダンカン・ライトか? ここで出会うとは運が良い。」


 互いに知り合いと出会えて嬉しい。

 普通に話し合える距離まで駆け寄って、こんな時だからこそ警戒だけは怠らず、そうして第一声は元憲兵から始まった。


 「良くご無事で。それで、本隊はどこにあるかご存知ですか? 恥ずかしながら、聞く機会があったのですが、聞きそびれてしまいまして。」


 「本隊は壊滅した。」


 これを呆気なく答える軍団長。


 「...そうでしたか。まさか、ギリネス地区で一瞬騒音が聞こえたのも関係しておりますか?」


 「そうだ。君が聞いたのは、基地として利用していた貴族の館に壁上の兵器が命中した時の騒音だろう。」


 自らがいない所で進行していたらしい彼らの策略。

 いつからかは分からないが、そうした策があると我々に悟られずに冠水したデノム人の信念、流石としか言いようがない。


 「だとしたら私は何をすべきか。」


 ダンカンはこれからを思って迷う。

 ここに判断材料を与えるが如く軍団長は。


 「更に困った事がある、本隊への襲撃と同時期に通信網が破壊された様子でな。こうして私が走っているのもその為である。」


 そしてこうも言った。


 「もし、難を逃れた小隊と合流が出来たら、即座に城へ集結するよう伝えてはくれまいか。」


 それは軍の仕事であるのは明白。

 もはや、一般市民たるダンカンにはもう知った事では無いのはもちろん、そうした軍務に付くのは実質的に不適切である。

 けれど、そんな事を言っていられる事態か。


 「その為にも、少しの合間だけでいい、この剣をまた受け取ってくれ。」


 そう言い、鞘から抜き出したのは一振りの剣。

 日光により剣身は白銀みたく輝いている。


 「この剣は...。」


 ダンカンには馴染み深い剣。

 あの小さな刃こぼれや、柄に付けられた刻印の個性、そんな猫の機嫌を見分けるような事が出来るのは、あれが自分の相棒であったからだ。

 同時に、死んだ父親の形見でもある。

 確か、軍を抜ける時に送り付けた筈だが。


 「一時的に軍へ戻った事の印として、書状も添えてやろう。」


 そう言う間にも、片手で服を破り取って、インクの代わりに自らの流血を使い、文をしたためる。

 これを、ダンカンは仕方ないと剣を握った。


 「やはり、ダンカンにしか似合わんな。」


 「他の剣と同じ形状であるが。」


 鞘も受け取り、腰にぶら下げる。


 「そうだな、不思議なもんだ。」


 こうして会話している二人の傍ら、ロストは辺りを警戒していた。

 その心は、浮浪の者が、軍としての話を聞くのは不味いとして、けれど手持ち無沙汰にするのも悪いから遠くを見ていたのだ。

 そうしていても、不意に耳に入ってしまう単語もある。

 聖国だとか、その援軍が来るよりも早くだとか。


 「しまった、言ってなかった事があります!」


 ロストは、かなり重要な事を言いそびれかけたと焦る。

 そんな彼にダンカンは振り向く。


 「穏便なデノム人から、デノム人が城攻めしようと集結中と聞きました。」


 それは隠れ家で聞いた話である。

 正しい情報かと聞かれればそうとは答えられない、何しろオキュマスさんが敵方なので、保険に嘘を教えていても不思議じゃない。

 そういった、注意点も含めてララは言った。


 「ゆっくりしている暇がないみたいだな。」


 軍団長は強化魔法を行使した。

 漲る力が全身を包み込む。


 「どうかご武運を。」


 その言葉を受け取ると、王の待つ城へと駆け出した。

 ダンカンも軽く装備を整えて、死ぬか生きるかの瀬戸際の攻防戦へと向かわない、方向転換、その前にロストへ聞くべき事がある。


 「では、私は少し前に共闘した小隊と合流するが。君はいったいどうするか。」


 そう、ロストがもう十分に活躍した。

 ここで安全な場所へと逃げても誰も咎めない。

 もし、それをした人間がいたならば私はこう言ってやろう、彼は兵士ではない、ましてやアーマレントの国民でもないと。


 「先に言っとくと。城と避難所はそれなりに近く、運が悪ければ争いの渦中へと巻き込まれるかもしれない。私のお勧めは、どこかの家に立て籠もる事だ。」


 この忠告にロストは答えた。


 「避難所に向かいます。私には下手でも医療の心得があります。怪我をした人間がいる限り、逃げるなんて選択肢はありません。」


 それにまだジェドが見つかっていない。


 「そうか。だが、自身が死ぬなんて結末からは絶対に逃げてくれよ。」


 ダンカンはそう言うと歩き始めた。

 今まで、妻子を持った事は人生で一度でも無かったが、父親と言うのはこんな物ではないだろうか、死んだ父親が目に浮かぶ。

 そう懐かしんだ後、チャールズは現在どうしているか、とか、ダットンを殺した相手が誰だったのかと大いに悩む。

 考察材料不足、それに対する答えが出る事はなかった。


 「ララさん!?」


 どのくらい移動したかは覚えていない。

 けれど、もう産業地区を抜け、宗教地区に突入しているのは確かで、そこでは奇遇にも対面する二人組。

 偶然ではない、あちらも避難所に向かっていたらしい。

 先ず、エルモはダンカンにお辞儀する。


 「あっ、どうも。あの時は失礼を。」


 「構わないさ。」


 それを始めとして邂逅を喜び合うのだ。


 「エルモさん、エルモさん、よくご無事で。」


 次なる人は今日一番の功労者。

 二人の間に何があったのかと不思議がりながらも、火傷でボロボロな腕を隠して、ロスト・ララはそう聞いていた。


 「えぇ、何のこともありません、大丈夫です!」


 これはこれは満面の笑みで答えてくれる。

 よし、今度のロストはジェドの方向を向き。


 「今までよく生きていた!」


 「お前なんざに言われなくても生きてるわ。バーカ!」


 彼はララにボフッと土を投げつける。

 けれど、大抵の土は風に流されて届かずと。

 これを呆れて見ていたのがエルモ様、仕方ないと二人に近付いて、こんな昔話をし始めた。


 「勇者ユーマの伝説に『影の門』と名の話があります。」


 彼女はこう話す。

 ある日、ユーマは盗賊を倒して欲しいと、とある領主に呼び付けられる。

 何の為か、その盗賊が密かに作り上げた門は、影の門と呼ばれ、外から領主の家に侵入出来るように作られていた。


 「大切なのは後半なので中略!」


 盗賊達の真の正体を知ったユーマは、あれほど憎しみ合った盗賊と和解し、そして、領主が国民を攫って奴隷にしていた事を周知させました。

 最初は国民に否定していた領主ですが、最終的に、盗賊が奴隷を開放したことにより、確信へと変わった民が館へ押し入ります。

 かくして、領主は打ち首にされ、街に平和が戻りましたとさ。


 「分かりましたか!?」


 「分かるような...分からないような...。」


 自信満々にそう言われたら、取り敢えず頷くしかない。

 でも、彼女が教訓として言いたいこと、和解して協力すれば強敵を倒せるということは、そこはかとなく伝わった。


 「わかりました!」


 ジェドは元気一杯に答えました。


 「それでは、ここにいる三人は避難所に向かうのだな。」


 ダンカンはこれを聞いた。

 ここから先、彼自身は小隊を集める任務があるので別行動。

 少し安心、ララに仲間がいるのを知ったからであり、これから先も助け合って生きていくのだと分かったからだ。

 いや、ただの主観でそうなるだろうと思っただけだ。


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