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帰還志望の受難生  作者: シロクマスキー
一章 魔王の支持者
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43話 稀代の詐欺師


 どこぞの貧乏貴族と違って光り輝く館があった。

 この土地の所有権はアンドレア・ド・ギリネスにある。

 彼の評判は前当主の残り火と言われており、芸術方面の人脈以外は評価を出来ることがなく、兵を指揮するとなると配慮のない指示ばかりで疎まれていた。

 そんな彼であるが、悪意を向けられると知るや気を病むぐらいの心はあった。


 「ええい、好き勝手に言いやがって。」


 アンドレアは館の自室の椅子に腰かけて顔をしかめた。

 現在、自分の家を拠点にして、数千もの兵士と共に立て籠もっている訳だが、傍から見れば自領域以外は守りたくない様に思える。

 でもこれだって本人に言わせれば当然の指示。


 「全員、私の指示に従えば苦労もせんのに。」


 この言葉の裏付けとやらが何処にあるのだろう。

 それはありました、今ここに来ました、何者かが部屋のドアをノックして自身の登場を告げたのだ。

 扉を開くと何やら怪しい装束の男、アンドレアは何の躊躇いもなく部屋へ招き入れる、男はフードで顔を隠していたが彼には誰か分かっていた。

 何の煩いもなく貴族の元に来れる男の正体とは。


 「占い師殿、今日はどのような件で。」


 アンドレアは男の素性を全く知らない。

 ただ数少ない知っている事と言えば、私と男と出会ったのが半年前のお茶会、歳はそれなりに若い印象で占いによりこれから訪れる苦難を幾度となく言い当てた。

 それでも充分に信用出来る事は確かだとアンドレアは思っていた。


 「怪しみませんか。私がこんな戦地を歩いて来たことを。」


 アンドレアは男がどうしてそんな質問をしたのかと疑問に思う。


 「いえいえ、そんな。貴方様は無魔(デノム)人の銀行襲撃や死体の大量盗難まで見事に的中させた能力の持ち主、安全地帯を歩くのは造作もない事、どうして怪しむのでしょう。」


 そして今回も、反感を買ってでもこうして軍を自宅に引き留めているのは(ひとえ)にこの男の存在あってこそだ。

 十日前に動く死体(ゾンビ)がギリネス地区を襲撃すると言っていた。

 その犯行が無魔(デノム)人であることも。


 「それで、また何か助言を。」


 息を呑む、彼の助言の大半は悪い知らせである。

 アンドレアは覚悟して聞かなくてはいけないのだ。


 「えぇ、とある貴族が今すぐ死にます。」


 「そっ、それは誰か?」


 人によっては自分が利する。

 例えば、カーラス地区の奴とか特にだ。


 「貴方です。」


 彼の指先が思わず動く。


 「んな馬鹿な、ここには数千の兵が(たむろ)している。一体どんな手を使って成し遂げるのだろうか、今回ばかりは信じ難いな。」


 それについて男は言った。


 「しかし、大勢の兵士がいても無駄です。」


 「そう申しますと、一体どんな方法か?」


 「扇動された兵士が貴方を刺すでしょう。」


 あぁ、なんて事なんだろう。

 まだ起きてすらいない事態にアンドレアは心の底で嘆く。

 どうして功労者たる私が、受け入れたくはない、受け入れたくはないが男の言葉はいつも正しいと常々証明されているところ。

 彼は手段が分かっただけ良しと落ち着きを取り戻す。


 「確かに、なるほど。それなら有り得る話だ。」


 アンドレアは溜息交じりに言葉を出す。


 「不服な事にも軍の中には、この私を国の病だと言う恩知らずもいる。それで私はどうすれば良いんだ。貴方にはその方法も知っているはず。」


 その時に占い師は笑った。

 アンドレアはそう感じ取ったのだ。


 「もちろん、お教え致しましょう。」


 人差し指をピンと立て、占い師は言い始めた。


 「第一に、兵士に高価な酒を振舞って士気を高めるのです。こうすれば貴方を悪く思う者は大きく減りましょう。」


 「第二に、兵を扇動するのは確実に軍団長です。近くで見たでしょう、貴方様を敵視するあの動き、占わなくても分かること。処刑すべきです。」


 これらを聞いてアンドレアは感嘆した。

 それと同時に、この男の容赦無い選択を末恐ろしいと考え、もしも敵として現れた日には眠る事が出来なくなると。

 今は味方であることを神に感謝しよう。


 「やはり、凄いな。」


 そこで少し考えて、アンドレアは質問した。


 「しかし、あの軍団長は部下に媚を売っている所為か下衆からの人望がある。一筋縄ではいきそうにないが。」


 占い師はにこやかな声で応える。


 「それは大々的にやらなければ良いだけの話。この部屋に軍団長と、怪しまれないように他の指揮官も集め、貴方様が直々に処分すれば良いのです。」


 「ふむふむ。」


 アンドレアは納得して早速と指揮官達を呼ぶことにした。

 それを見取って占い師はこう言った。


 「ではこれで失礼します。」


 彼はいつも不要に人前へ出ようとしないのだ。


 「あぁ、さようなら。」


 事は順調だと彼は笑う。


 「彼さえ居れば王座も私の物になるかもな。」


 そんなこんなで怪しい会談は終わる。

 所変わって屋敷の外、軍団長はいつか自分が罰せられるだろうと危機感を募らせてはいたが、まさか今日の内だとは思いもしなかった。

 無魔(デノム)人との内戦途中に味方を処刑するなんて。

 兵卒でもあるまいし、たった一つの命令違反で処刑を決行するとは、この場にいた誰もが予想できない事態だ。


 「何を言うかと思うと腹が痛い。」


 決して心がもたらした錯覚ではない。

 実際に、腹が遠慮なく蠢いて分別なく鳴っている。


 「このまま場を邪魔するのと、腹を鎮める為に幾分か遅れるのは、一体どちらがより不敬であったか思い出せんな。」


 多少邪悪が交じった言動。

 こんな独り言に言葉を返す部下がいた。


 「でしたら、私が先に行って遅れると伝えてきましょうか?」


 「そうだな、そうしてくれ。」


 そんな好意に任せて彼を行かせた。

 そうして自分は、軍団長は薬を貰う為に衛生兵に近付いて。

 訳を話すと、衛生兵は腹に効く粉薬の入った薬包紙を一つと、そして獣の角で作られた、角杯に水を満たして寄越してくれた。

 本人は気付いてはいないが、軍団長は部下に深く慕われれている。

 もしかしたら、軍団長がその気なら兵士達は本当にアンドレアの殺害を手伝っていたかもしれない。


 「良いなこの薬は、本当に良く効く。」


 もう腹の調子は復帰した。

 完全に万全、でもなんだか残念。


 「では私はもう行く。待たせているのも悪いしな。」


 「行ってらっしゃい。」


 軍団長はアンドレアの部屋を見た。

 窓は装飾過多な程に金銀で飾り立てられ中の様子は伺えない。

 そこに行くために一歩踏み出す、そこから時間がゆっくりと流れ始めた、空舞う鳥達の顔色が分かるぐらいにゆっくりと。

 走馬灯を見ているような感覚に近いそれは、鳥と一緒に空を飛ぶ、あの太い鉄槍を見る事により生み出されていたのだ。

 何故なら、あの鉄槍の正体は攻城兵器たるバリスタの弾頭、それが誰かの手によってあの貴族の部屋へと迫っている。


 (止めてくれ、誰か少しでいいから止めてくれ。)


 口に出す事は出来ずに、思う事しか出来ない。

 それは昔に戻りたいなんて思いと一緒、絶対に叶わない、それが分かっていても軍団長には願う事しか術がない。

 鉄槍が窓を貫いた時、破壊音と共に飛来した破片が軍団長を包み込む。



 これだけでは終わらない、軍の不幸はまだまだ続いた。

 まるでこうなる事を知っていたかのように、動く死体(ゾンビ)が現れて、混沌と化した屋敷を更なる地獄へと堕とす。

 その悲惨さ、燃料に火薬を配合して燃やすが如く。


 「これでアーマレントは死んだも同然。」


 危険の及ばない、遠くの地で占い師はそう語る。


 「何を見てんだ。革命王さんよ。」


 占い師の正体はオキュマス・プライド。

 かの地に指差して、それを教える。


 「ギガス、人の知略が万の兵器を凌駕する光景だよ。」


 大男もあの地獄を見て。


 「ふーん、俺はどうでもいいが、無魔(デノム)人の救世主とやらがこれで良いのか。」


 もしも、これらが知れ渡ったらイメージが大きく損なう。

 動く死体(ゾンビ)を使うだけで、死霊術と関わりがあると言うだけで、人類の半数から避けられるだろう悪業。


 「私とギガスと...それ以外は知りようもない事実だ。さして問題ない。」


 暫くの無言の後。


 「そう言えば、アリスが死んだそうだが。」


 唐突に驚きな事態を突きつけられる革命王。

 けれど、それを聞いても冷静を保つ。


 「それは嘘だろうな。」


 直ぐにそれを嘘だと見抜いたからだ。

 ギガスは一旦しゃがみ込み、それからこう言った。


 「まぁ、冗談だな。」


 少しだけ息を吸って。


 「本当は生死不明。だが、意外にも自分の仕事はきっちり終えているから構わなくねぇか?」


 オキュマスは空の鳥を見ながらこう言った。


 「そうだが、ちょっと怒られるかもしれない。」


 アリスには海より深い事情がある。

 非情な革命王すら言葉にしていいか悩むような。


 「その事情は聞いてもいい事か?」


 「やめとけ、面倒だぞ。」


 即答で返されて。


 「なら、やめとく。」


 地獄を起こした張本人にしてはまったりとしていた。

 オキュマスにとってあの程度、日常茶飯事、普通であると言うか、ぐだぐだと言葉で表すような物では無かった。

 作戦の成功に興奮する事もなく、多くの犠牲を出した事に引け目を感じる訳でもなく、踏みつぶしたアリを見ているような物だ。

 ギガスは傭兵であるから彼と似たような感覚の持ち主。

 彼らが犯人とは思えないぐらいだった。


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