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帰還志望の受難生  作者: シロクマスキー
一章 魔王の支持者
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41話 変形後が弱いとは


 無駄に冴えた視界の中。

 その姿はどこか作り物のように思えた。

 何故ならば、彼女の容姿は可憐な花を思わせて、宝石のようなエメラルドの瞳とか、それに反した行いの数々、どれもこれもが人間離れしている。

 あの、全く変わらない表情もその印象を補強した。


 「ねぇ、なんでなの?」


 再度、聞かれたその質問にララは答える。


 「それは、皆を助けるためだ。」


 格好を付けている訳では無い。

 心の底からの望みであり、生き方の指針。

 貴方を怪しんでいると、それをわざわざ宣言するように、蛇さえ睨み殺すようなを瞳を現した。


 「皆ってなに? 助けるってなに? 意味が分からない。」


 彼女は本当に理解出来ないらしい。

 その目線は、誰にとってもあまり良いものではない、ララはそれから振り切るように別の話を持ち上げた。


 「こっちも質問だ。ジェドはどこなんだ?」


 眼の奥を覗かれた。


 「はぁ...。無駄な努力を、飽きもせず。」


 そして呆れられた。


 「お前を見ていると無性に腹が立つんだよ。まるで愚民にも心があるみたいに扱ってるその様は、とっても、とっても。」


 「あぁ、非常に気持ち悪い。」


 その時、微かにゴーレムが動き出した。

 そこでララは迷わず退路を確認する。

 この時点で後悔する事が一つ、どうして彼女は人を憎んでいるのか、過去に一体何があったのかって聞かなかったこと。

 自分にそれを聞く覚悟が無かったからもしれない。

 あるいは、怖かったのかもしれない。


 「とっても腹立たしい。」


 ゴーレムから水蒸気が噴き出す。

 まるで一心同体、いや、その通り。


 「お前は最後に殺すと約束したな。」


 走り出す準備は整っていた。


 「もう飽きた。殺してやる。」


 その一言、予想できたその言葉。

 この瞬間に、ララは途方もなく集中された意識の中、ジリッと土を踏み固める音を逃さなかった。 

 そんな僅かな変化を契機にして、ララは火薬みたく真横へ飛び退き、それと同時に、地面の破壊が巻き起こる。


 「へぇ、避けるの。凄いね。」


 そうやって、アリスに感嘆されたが何の嬉しくもない。

 先程のを避けれたのは殆ど奇跡、強いて言うならば、生来からの運動神経と、不幸のあまりに鍛え上げられた危険察知能力があったからである。

 何となく、条件反射で飛び退いたに過ぎないのだ。

 そうした事から、ロストは己の現状を正しく知らず、パラパラと舞う土くれを、自分の肉片だと勘違いしていた。

 それから地面を転がるのも僅かな間、立ち上がるよりも先に走り出す。


 (いまの攻撃が見えなかった。) 


 死へ近付いた興奮からか思考力がまるでない。


 (あの巨体でそんな速度を出すとか卑怯だ。)


 背後の気配に身を喰われながらの逃走劇。

 混乱状態の最中に見たのは揺れ動く景色のみで後は覚えていない。

 とんだ笑い者だ、これ程にみっともない姿をアリスに晒すとは。

 けれど、こんな風に混乱したのは最初の内だけで、生き延びたいと言う強い意志がララの目を醒まさせてくれた。


 (よし、どうしよう。)


 場所は未だにライト地区。

 間違っても路地裏に入らぬように気を付けて、ロストは鉄巨人から逃げながら、いつか現れてくれるだろうゴールに希望を抱いていた。

 この期に及んで、彼女は、ゴーレムはララに恐怖を与える為だけにゆっくりと移動しているようなので、逃げる事自体は容易である。


 (そんな訳あるか。)


 生物と兵器の相違、体力が桁違い。

 ダンカンと逃げていた時と同じ理由だ。


 「はぁぅ、はぁ...。」


 お陰で、胸を何かに圧迫されてるような違和感が産まれていた。

 そうだ、ロスト・ララは疲れていた、汗が髪を濡らす程に、それに昨日は諸事情により殆ど寝ていないので、そういった疲れもあった。


 (隠れよう。)


 このまま体力勝負を続けてはいつか死ぬ。

 そんな決意の元、ロストは建物の合間に転がり込み、それを知ったゴーレムは移動速度を増してその建物に突っ込んだ。

 まるで幼児が積み木を薙ぎ払うようだった。

 火薬でも破裂したような轟音、ララの意識も一緒に吹き飛ぶ他なく。


 真っ白な視界。

 苦しい事が何もない夢見心地な気分。


 「う~ん、死体が見つからないや。」


 そこに、何処かともなく彼女の声が聞こえた。

 皮肉なことにそれが意識を取り戻す切っ掛け。

 辛い現実の最中に引きずり出されたのだ。


 (まだ生きてる? なら、立ち上がらないと。)


 破壊した建物に巻き込まれ、それでもロストは生きていた。

 ふと、孤独感が背筋を伝って胸に巣食う、率直に言えば寂しい、自分しか頼れない状況がこれ程に辛いとは。


 「こんな時の探知魔法!」


 あっ、ふざけた声が刻限を告げた。


 (早く、急がなくちゃ...。)


 力の入らない腕を無理に動かし、前へ前へと匍匐移動。

 視界が赤くてよく見えない、それでも、いつか、彼女から逃れられる事を信じて止まる事だけはしなかった。

 痛みへの怒り、それすら原動力にして動くのだ。


 「あれ~? どうやるんだっけ。」


 ロストの目の前は崩れた建物で埋め尽くされていた。

 ここを迂回しようとして、腕に力を入れて、傍から見れば這いずる虫けら、それでも良いと奮起する。


 (少しでも遠くに。)


 そこでララの前方が開けて、粉塵の合間から光が差し込む。

 つまり、それは瓦礫が取り除かれた為であり、でも嬉しい事ではない、だってそれが彼女の仕業であるからして。

 そして彼女は彼に問いかける。


 「ねぇ、知ってる?」


 もう既に、ロストを見つけていた癖して芝居を打っていた。

 わざわざ希望を与えて奪ったのだ。


 「畜生! 畜生っ! ああぁっ! ああああああぁぁぁっっ―――――!!! どうして、どこまでもそうなんだ!」


 ロスト・ララの絶望を見たいが為に。


 そこでやっと、彼女の嗜虐心は満たし終えた。

 後はロストを縊り殺して、何食わぬ顔でオキュマスに出会い、そして計画通りに進行させる予定だったのだが。

 残念ながら彼女には大きな誤算があった。


 「...なんで、アリスさんは捻くれてるんだ。」


 ララの手元に何かが当たった。

 触ってみると見覚えのある感触で、思い起こされるのはダンカンさんの姿、そこでロストはその正体に確信を持って握りしめた。


 「アリスって呼ばないで。幼稚な貴方には呼んで欲しくない。」


 手酷い拒絶だ。


 「僕はそこまでの事をしたのかも知れない。実際、革命軍を裏切ったのは事実だし、嫌われて当然だよね。」


 ギガスが教会に来た時に語った内容から考えて、僕の裏切りは彼女にも伝わっているのだろう。

 でも、その推測は間違っていたらしい。


 「違う、違う、違う、そうじゃない。そこじゃない。」


 機嫌を損ねてしまった。


 「もういい、死ね。」


 その罪として、すぐさま死刑宣告がなされた。

 懺悔する間もなく、鉄の執行人は大きな腕でごみ屑を潰そうと迫り来る。

 黒い靄のような物を背負って、水蒸気を辺りに散らして、これには噂に聞く悪魔の所業とやらにも負けない恐怖があった。

 けれど、ロストの手には、ダンカンから預かった大事な魔導銃がある。

 弾を装填された状態で渡されており、いつでも撃てる用意が出来ている。


 「ごめん、無理です。」


 弾道は美しく、黒き靄を貫く。

 弾丸がゴーレムの腕を滑りながら届いたのだ。


 「しまった...!」


 初めて見る、彼女の愕然とした表情。

 魔力を排斥する聖石の効果により、ほぼ魔力と言ってよい黒い靄を破壊して、それが半壊したゴーレムを補完していた物資だったが故に、魔導ゴーレムはとち狂ったように踊ると動かなくなってしまった。

 それが永続的なものであれば良いのだが。

 ロスト・ララ、彼はそれを狙って撃った訳では無い。

 ただ、生きていたいと思いの一手が偶然にも届いたのである。

 彼に希望はあったのだ。


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