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帰還志望の受難生  作者: シロクマスキー
一章 魔王の支持者
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35話 もう終われ


 大昔から存続している都市国家アーマレント。

 争いの絶えない歴史の中で、分厚い壁に約束された硬い平和を謳歌していた、でもそれは過去の話になってしまった。

 デノム人に火種を持ち込まれ、革命が起きたのだ。


 ダンカンは一人の人間を比較的安全な場所に寝かせて。

 それから、ロストに聞いたのだった。


 「それで最初に何処へ向かいたい?」


 ララは痛む身体の節々を片手で擦りながら目をぱちくりとさせる。

 先程の暴行に加え、ギガスとの闘いで確実にダメージを蓄積しているし、彼の体はいくつかの治療が施されているが何時まで立っていられるか。

 これを一切合切、無視をして、最後にはこう言った。


 「この先をまっすぐ行った先にある革命軍の基地です。」


 これを聞いてダンカンは驚いた顔を晒す。

 まさかこの場所にはいないと思っていたからであった。

 何故ならば、ライト地区は空き家の解体などをしていた時もあれば、塩の密売人を捕まえようと王傘下の騎士団が動いてた時期に、最も精査された場所でもある。

 だから、私は大丈夫だろうと今まで高を括っていた。


 騎士団に魔王の手下が成り代わってるとは思えない。

 それは騎士団員は顔を隠されており、王と高位の貴族以外の者にとって身元を知る術がなく、これは犯罪者から騎士団員とその家族を守る為である。

 頭を捻らせ、こんな風にダンカンは挙動不審に(わずら)うだけ。

 そこで置いてけぼりのロストが。


 「えっと、随分と驚いているようですが。」


 そう心配されたのを。


 「いや、大丈夫だ。」


 と、言い。


 「それはそうと、兵士か憲兵達を見なかったか? 君と出会うまで、合流出来ないかと彷徨っていた所だった。」


 とある懸念を他所にして、ダンカンは言った。

 化け物を(けしか)けられて倒したあの後に、アーマレント軍と接触して情報共有を図ろうとしていたが御覧のあり様。


 「いえ、それらしき人物は残念ながら見てません。」


 ロストはちょっと考えて。


 「自警団。みたいな人はそれなりに知っているのですが。」


 ララはそんな人達とは出会っていなかった。

 騒ぎが起こる前段階の時でさえ見ていない、ダンカンに会うまでは、行き場に迷ってうろついたり、集団を形成して歩いたり、そんな人達以外はさっぱりとだ。


 「そうか...分かった。」


 彼は力無く頷いて、ようやく歩き始めた二人組。

 これから向かう先、目的地はライト地区市街地にある革命者の基地であり、えっと何だっけ、そうだ、『ラフ・ランク』って看板があったあの建物。

 壊れた家が立ち並ぶのを眺めながらの道中で。


 「少し待ってくれ。」


 ダンカンがそう言い、彼らが足を止めたのは道半ばすら届かない距離のこと。

 何か危険があった時にすぐ対応出来るよう、わざわざ船頭してくれたダンカンが、ララの方へ振り返りこう説明した。


 「こっちには確か崩落した道を補修中で、穴は塞いであるが、まだ完全に工事が終わってない筈。」


 「道を踏み破っては危ない。少し遠回りになっても迂回して進むべきだと思うのだが、ロストはどうだろうか。」


 これを聞いてララは、


 「分かりました。遠回りしましょう。」


 危険地帯に入る事を最善とは言えない。

 時間を短縮するためだけにそんな場所へ踏み入れて、下水道に落下したりとか、足首を挫けば本末転倒であるからして。

 それに、自分は異世界転移する程に運が悪いから強く出れない。

 この返事を機に、彼らはまた歩き出した。


 それからしばらくに、また足を止める事になる。

 今度はと言うと荒れた市街地である点に変わりないが、ダンカンが何かを目撃したからであった。


 「ララ、そこで身を隠していてくれ。」


 これは仕事の顔だ。


 「はっ、はい!」


 いままでに類を見ない、とても厳しい口調でもある。

 ロストはそこから緊迫した状況なのだと理解して、ダンカンが駆けて行くのを見ずに、急いで、近場の瓦礫の物陰へ背中を預けた。

 ここで呼吸を一息、疲れを吐く。

 崩壊された世界に独りぼっちだ。


 この頃には、もうダンカンはとある人物の下に辿り着いていた。

 その人は黒く変色した服をだらしなく垂れ下げて、青白い顔で、レンガを枕に横たわり、身なりは酷いがアーマレントの一兵士だった。

 息を荒く、痛みを噛み締めている姿は見ているだけでも苦しくなる。


 「何があった。」


 その声に反応し、目を開けて。


 「あぅぐ、ダンカンか...っぁ。」


 上半身を持ち上げようと。


 「無理に体を起こさなくていい。」


 それをすぐにダンカンは止めた。

 そして瞬間、強すぎる血の匂いに顔が強張る。

 見た限りでも出血が酷く今すぐ止血をしなければ、あとどのくらいか、一日の一割も生きていられるかどうかの瀬戸際。


 「あぁ、俺はな、俺達はゴーレムに、ゴーレムに襲われたんだ。」


 か細い声、まるで今朝見た夢の内容を語るような。

 でもやはり違う、だって次第に涙を溢れさせ、声を濁らせて、彼の命が死に歩み始めているのだから。


 「自分以外どうなったのかさえ分からねぇや。あのゴーレム、生半可な魔法は効かないし、もちろん矢は弾かれて、何も出来なかった...。」


 「...俺はもう、ダメだろうがな。」


 (おびただ)しい血の小川。

 彼は弱々しく手を震わせて掴み取る。


 「安心してくれ、この傷程度なら私が治せる。」


 一応、ダンカンは止血などの応急処置は出来るよう訓練されていた。

 これを聞いて兵士は笑顔を出し、でもそれは助かる事を期待した笑顔ではない。


 「ありがとな。でも、駄目なんだ。」


 川の源流、傷口を見せる。


 「見てみろよ、木片が内臓を貫いてるだろう。」


 彼の脇腹の、赤白い骨の合間、確かに木片が突き刺さっていた。

 これを自分がどうこう出来る領域でないのは明らかで、そして並の医者でも、ここから助け得る術を持ち合わせてない程の致命傷。


 「なぁ、俺だって死にたくねぇよ、こんなとこで死にたくねぇんだよ。」


 兵士は、喋っている最中に涙が流れ落とす。


 「やだよ、死にたくない、死にたくねぇ、怖い、死にたくない。生きてて何も出来なかったのに、仲間も殺されて死ぬとかもうやだ。」


 声を出す度に目に見えて衰弱していく。


 「...でも最期が、孤独じゃ、なくて良かった。」


 こうして呼吸が途絶えた、彼の、彼らの最期は物静か。

 ダンカンは彼の名前さえ知らなかったが悲しかった。

 冷えていく体に僅かな祈りを捧げ、ダンカンはこの場を離れた、死んだ仲間を見たのは初めてではないが、こうも身近に迫る事は数少ない。


 「ロスト、もう出てきてくれ。なにか変わった事が起きたか。」


 そう呼びかけられて、ララは瓦礫の合間から顔を出す。

 ちゃんと言った通りの場所に隠れ潜んでいた。


 「いいえ、こっちは何も起きませんでした。」


 「そうか。」


 ロストは立ち上がってダンカンの近くまでやって来た。

 これがとても珍妙な光景、彼が五匹の野犬を足元に従えていたから。


 「落ち込んでいるようですが。何かあったんですか。」


 「あぁ、負傷者が一人いたんだ。だがもう避難したから大丈夫だ。」


 ダンカンは嘘をついた。

 ララにはまだ早い話だと思ったから。


 「なるほど、分かりました。」


 それだけを聞くと、ララは膝を折り曲げてしゃがみ込む。

 気分が悪そうと言えばそうだが、その為ではなかった、犬達を撫でる為だった。

 汚れの詰まった茶色の犬や、灰色の(むく)毛の犬も、全てを平等に、一(しき)り撫できると満面の笑みを浮かべるロスト・ララ。

 そこから、どうやったのか犬達を解散させ、口惜しそうに去っていく犬の群れ。


 「気になりますか?」


 それでダンカンが頷くと。


 「実は僕の新しい友達なんです。変ですかね。」


 とても恥ずかしそうに言っていた。

 これを少しだけ笑いながら。


 「大切にすると良いよ。どんな存在でも友達がいてくれたら、きっと、死に際でも安心出来るだろうから。」


 「達観してるんですね。」


 「まだまだ青いよ、私は。これでも未熟なんだ。」


 そこでダンカンは一度空を見て、気持ちの切り替えを試みた。

 そろそろ、立ち止まっているこの状況を打破すべく。


 「それはそうと、ここら辺でゴーレムが暴れまわっているらしい。」


 もし出会ったら打つ手なしだと考えるダンカン。

 何故ならば、己の魔力が枯渇しかけており、ロストを抱え、肉体強化魔法を使って逃げる事が出来ないからだ。

 魔導銃に含まれる聖石も手伝って、魔力の自然回復が覚束(おぼつか)ない所為でもある。

 だとしても、対魔王用兵器、魔導銃を捨てる訳にもいかない。


 「あっ、それなら僕、ゴーレムについて知ってることがありますよ。」


 こう、普段よりも元気良く返事を出した。

 ちょっとした恩返しになると、ララは内心喜んでいる。


 「ぜひ聞かせてくれ。」


 そこでロストは全てを話そうとした。

 とは言っても話せる事なんて盗み聞きした内容と、実際に会った感想だけ。

 けれど、ダンカンさんならば、これだけの情報で何か答えを導き出す気が、この妙な革命を終わらせる糸口を発見してくれると思った。

 これが無理だった。


 「えぇー、やだなー。」


 耳元で彼女の声がした。


 「なっっ、どこだ!」


 視界を振り回せど映らない。

 でもロストの空耳とか、何かの聞き間違え何かではない。

 寒気が背筋を喰らうこの感じ、間違いなく近場にいて、アリスの性格からして、僕らを高見の見物をしながら嘲笑っているのだろう。


 「何か聞こえるのか。」


 どうやら、ダンカンさんには聞こえないようだった。


 「はい、そうです。革命軍でも恐れられる人が近くにいるんです。」


 どこだと、ララはシラミ潰しに辺りを見渡す。

 そもそもどうなってる、姿を見せず、声だけを届けるとは。


 「ねぇ、人って呼ばないで。」


 また声がし...。


 「危ない! ロスト、下がれッ!」


 声が聞こえたと思ったその瞬間、ダンカンに襟首を掴まれた。

 何が起きたか分からずに、ただ目の前に巨大な鉄が落ちたと見つめるばかり。

 否、それは鉄の塊ではない。


 そのあまりの勢いでダンカンもろとも地面を転がり、でこぼこの地面がやすりの用に肌を削る。

 これが、骨から湧いてくるように痛む、特にロストの場合は。

 その影響か、彼にはこんな言葉が聞こえてきた。


 「地獄はお好きかな? 私は大好き。」


 これが幻聴だったのか、本当に声だったのか、区別はつかない、でも、あれだけは確かに本物であろう。

 あの特徴的なモノアイがダンカン達を見下ろしていた。


  魔導ゴーレムが現れたのだ。


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