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帰還志望の受難生  作者: シロクマスキー
一章 魔王の支持者
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21話 眠らない夜に


 時刻は深夜、ガルフの邸宅では依然として大事業による活気が納まりを見せずに続いていた。それどころかチィンと懲りずに鈴が鳴る。

 またもや来訪者が現れたようだ。

 館の主人は一体何処の誰なのかと扉を開ければ。


 「ガルフ殿、どうか突然の訪問を許してくれないか。」


 ダンカン・ライトがそこにいた。


 彼と出会った瞬間にガルフは気付いた。

 いつもとは様子が違うこと。よく見れば腰の横で剣がぶら下がり、服の下で鎧の突起が自己主張、とんでもない重武装であった。

 この時代、服装とは身分あるいは立場の証明。

 つまりは仕事として来たのだろう。


 「いやいや、よく来てくれたダンカン。どうだろう我が屋敷の賑わいは。」


 ガルフは手を広げて強調する。


 「正直に言えば、貴方の邸宅にこれほどの人影が出来るなんて、祭り以外では見られない光景だと思っていた。それは間違いだったようだ。」


 ダンカンは今までを振り返ってそう評した。

 門から玄関まで騒がしかった。


 「実際に祭りだ。この工事が終われば皆家に帰って笑顔になるんだからな。さぁ、ここで話をするのも何だから入って来てくれ。」


 館の東の突き当り、そこから右には談話室がある。

 本棚、暖炉、玩具など(くつろ)ぐ為の物品が勢揃い。

 現代に負けず劣らずの娯楽設備。ダンカンが子供の頃によく訪れた場所であり、ここに来る吟遊詩人や哲学者を教師にして勉学に励んでいた時期もあった。

 とても懐かしい気持ちに彼は包まれる。


 「変わらないなここは。」


 外に比べれば時間の流れが無いような。


 (意外にそうでもないのか。)


 窓際には枯れた花とその花瓶。


 「...要件ですが、ここに来たのはお伝えしたい事があったからです。」


 ガルフは軽く頷いた。


 「最近、私はとある監獄で不思議な出来事に出会いました。」


 「幽霊が出たとかか?」


 「いいえ、獄死した囚人の遺体が唐突に消えたのです。」


 ハッとしてガルフはダンカンを見た。これを聞いて真っ先に思い浮かぶのは、宗教地区ポポネオテで起きた大規模遺体喪失事件。


 「どうなってんだこの国は...。」


 耐え切れずに乾いた笑いが出てしまう。

 最近の出来事を思い返せば。先程も出て来た墓荒らしと魔王問題、腐った革命ごっこのテロリストに、聖国の暗躍に加えて自分自身さえも。

 これ程の不可解が一度にして巻き起こるとは何事か。

 特に魔王に関しては得体の知れなさがある。


 (流石に、これは王へ相談すべきか―――。)


 そこで彼は眩暈と頭痛に襲われた。


 「体調が優れないのでしたら、この話はまたの機会にしましょうか。」


 「いや、いい。是非とも聞かせてくれ。」


 体勢を立て直して耳を傾ける。


 それでダンカンは喋ることにした。魔王とエルフが関係深い事を。しかし、エルフ自体も世間では存在を疑われている種族なので慎重に。

 彼らの起源に関しても受肉した精霊とか海から来たとか諸説あり。

 とにかく、正体不明と真偽不明が協力関係にあると。

 これは彼の完全な予想ではあるが収穫祭当日に何かしら動きを見せそうだと。


 ―――これらの話の中で最も彼の気を引いたのは。


 「どうやら、魔王は死体を生きてるかのように操れるようです。」


 わなわなと手を震わせて聞き返す。


 「今ッ、何と!?」


 それが事実だとしたら墓荒らしの一件と魔王問題は繋がるかもしれない。

 その可能性は多いにあり得た。でなかったら偶然が過ぎる。


 「どうやら彼らは死霊術だと思われる技術で死体に細工を...。」


 詳しく事情を聴いた後、ガルフはパイプに魔法で火を付けて口に咥えた。

 しばらくの後、白い煙をまとめて吐き出す。


 「どうして世界は面倒な作りをしているのか。1+1で終わらない。まるで紙を埋め尽くす大きな方程式を解いてるみたいだ。」


 「その上、我らには数学者が不在ときた。」


 ガルフは「お手上げだ」と聞こえてきそうな仕草で言った。

 情報を集めても真実は未だ遠かった。

 底の見えなさに嫌気が差したからこその言葉。


 「そんな我らでも、やりようがあるのです。」


 ダンカンは持って来た革鞄から細長い物体を取り出した。


 「なんだそれは。」


 目の肥えた貴族であっても見抜けない。物資不足が故の産物、貴族の対義語、貧困層によって編み出された護身具なので当然かもしれない。

 しかも、市場に流通しておらず自作が基本。

 製作難易度は地球でのポテトキャノン相応。

 この道具の名前はこれを知る者達からこう呼ばれていました。


 「スピットライフル、偉大なる(グランティア)大陸の魔導具です。」


 「一体何処にあったんだ?」


 ガルフの指が銃の表面をなぞる。


 「ラフ・ランクという店の近辺で見つかりました。その、私と、ダットンが、そこで魔王に襲われた事があり、部下に調べさせたら...。」


 ガルフはこれを直接手に取ってみるも説明以上の事は分からない。

 ただ、これはどうすると。必然だとは思わずにはいられない考えが出てきた。


 (いや待て、偶然なのかもしれない。)


 この自問自答は意味を為さず。否定の言葉が思い浮かぶばかり。


 「すまない、少し休ませてくれ。」


 ダンカンは頷き静かに待った。彼の疲れた主人がもぞもぞと、よろめきながらもソファに腰掛けて、呼吸で体を膨らませること数回。

 それから言いにくそうに口にした。


 「僅かな可能性なのだが言って良いだろうか?」


 「可能性を言うだけならば被害は及びません。」


 ガルフは何回も頭を小さく縦に振りながら。


 「...ならば、前置きから話そうか。」


 ソファの感触に顔を緩ませながら淡々と言葉を紡ぐ。


 昔からな、聖ユーマ王国ではデノム人の迫害が盛んだった。

 理由はあれだ。歴史と教え、人種と恐れ。

 だが、当時のアーマレント王は逃れてきたデノム人達を受け入れた。聖国との同盟関係があるにも関わらずにだ。

 それがどんな結果を産むのか。

 王は同盟関係以上の問題を知らなかった。


 雇用問題だよ。デノム人のクソ共が安い賃金で仕事を引き受けちまうから、仕事にあぶれたアーマレント市民で国中は溢れかえった。

 その時からもう、どうしようもない程の確執が彼らと我らの間に生まれた。


 夜が終わる度に、民達の際限が無くなるのは見ていて恐ろしかったよ。

 国外追放を主張するだけならまだ良い方で、中にはデノム人を何処かに攫ったり、物を盗んだりする連中が出る始末。

 理由を聞けば「人じゃないから」と言われたな。

 とにかく大変な時代だった。聖ユーマ教なんて胡散臭い物に陶酔するアホが出て来た上に、人種迫害を嗅ぎ付けて暗躍する屑な守銭奴(奴隷商人)も現れた。

 今思うと全部、聖国が手引きしていたかもしれない。


 「覚えているか? これがお前を憲兵に取り立てる前の話だ。」


 ダンカンは頷く。


 覚えているとも、酷い時代の始まりだった。

 けれど、自分は両親を殺され復讐を誓い。チャールズを追い詰めようとする中で周囲を顧みずに見捨てていった。憲兵の務めも義務も放棄していったんだ。

 親父は憲兵の誇りを守って死んだのにな...。


 (あれから、私は変われただろうか。)


 ガルフはピンッと人差し指を上に差し。


 「本題に移るぞ。」


 私は貴族として生まれた。それは異邦人であるデノム人とアーマレント市民を二者択一するなら、迷わずに市民を取るしかない生物なんだ。

 それを理解して貰った上で言おう。


 「私はデノム人を国民だと一切認めない。だから、とことん迫害して地の底に追いやった。それが国にとって一番だからこそ。」


 「どうだ、私を見損なったかね。」


 ガルフは両手を広げて問いただす。

 だから、憲兵は口に出す。 


 「...ガルフ殿、貴方はそれを黙秘することも出来た筈だ。しかし、それをしないのは後悔する気持ちがあるからですか?」


 「さぁ、どうだろうか。」


 ここからが本題だと言わんばかりに彼は続けた。


 皆が知っての通り、私は無魔(デノム)人共に大変恨まれている。

 だからか、奴隷根性の無魔(デノム)人は愚かにも自ら突き進んで他民族の革命王とか言う自惚れ屋に率いられ、何やら目論んでいるようだ。

 ダンカンも見たことがあったろう。

 だが、問題はそこじゃない。その革命王って奴が偉大なる(グランティア)大陸出身なのだよ。


 なぁ、スピットライフルと同じ出身地である事に何か思わないか?


 それとダンカン、魔王は死体を操れると言ったな。

 奇妙なことに死体を盗む輩が近年現れているそうだが、それは私の仕事だから気にせず己の業務に専念してくれ。


 話は以上だ。


 「これだけの事にだらだらと説明が長引いて済まないな。」


 「ガルフ...。」


 ダンカンは彼に何か言わなければいけない気がした。

 だが、気の利いた言葉を練ろうとするも手間取り、それよりも先にガルフはソファから立ち上がって扉を開いてしまう。


 「そこの召使い、客人がお帰りのようだ。案内してやりなさい。」


 ダンカンは彼の目を見て。


 「また来ます。」


 これを聞いてガルフは微笑むだけだ。


 色々と思うことはあれど収穫祭はあと、六日。

 長いようで短くもある。

 館から出た彼は今晩の寝床に向かって歩いて行く。


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