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帰還志望の受難生  作者: シロクマスキー
一章 魔王の支持者
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15話 最低な結末


 強盗計画は遅れていた。旧下水道では大きな金属塊がゆっくりと、着実に運ばれてはいたが強奪者にとってこの状況は想定外であった。

 その原因は金庫を乗せた台車の悲鳴が突き付けている。

 銀行側が事件に気付いてしまえば、台車の痕跡を伝ってやって来てしまうので、一刻も早く運ばなければいけないのに。


 「どうすればいい!!」


 一人が叫ぶ。


 「うるせぇ、もっと力めや。」


 ガァンッと、一人は体重を押し付けるように力をかける。

 瞬間、台車の車輪が吹っ飛んだ。

 やってしまった。見る見る内に彼らの顔は白くなり、冷水のような面持ちで対処を考えようとするも上手くはいかない。


 同行していた雇われ魔導士が言った。


 「魔水が残り少ない、このままでは光を失うぞ。」


 そう言って掲げたランプは薄っすら陰ている。


 「どうすればいいんだよ、これ。もう俺は知らねぇぞ...。」


 予定よりも時間がかかった所為で暗闇の中に取り残されてしまう。

 そんな可能性が出て来てしまった。

 これは厄介、この辺りはヘドロ塗れで踏ん張ろうにも足が滑って苦労するのに、明かりもなくなれば作業にかける集中力は激増。

 の前に、外れた車輪はどうするか。


 「全く...何やってんだお前ら?」


 そこに現れ出たるは救いの手、ギガスが小道具を持ってやって来た。

 元々、彼は下水道の出入口付近にいたが暗闇を通って今ここに。

 これを知ってデノム人達は大喜び。何をするかも知らずに頼もしい存在がいる事実だけでも心が救われていった。


 それで彼らの危機にこうも早く駆け付けられたのには訳がある。

 とは、言っても単純な話。旧下水道の出入口付近で台車を引っ張っていた巻上げ機が縄を通じて事態を伝えていたのだ。

 さて、状況を知ったギガスは台車修理に乗り込んだ。

 すると、あっと言う間に片付いた。金庫の乗った台車を片手で持ち上げて車輪を嵌め込む力業、最高位の傭兵だから為せる技、筋肉最高、筋肉万歳。


 とにかく、よし。


 「この金で子供たちに腹一杯食わせてやるんだ。」


 デノム人の一人が安堵からかそんな声、これに反応した他の人。


 「俺らの金でか?」


 馴染みのない声色に振り向いて見てみれば顔すら知らぬ人。


 「うっ、うわぁッー。」


 叫びは強引に止められた。


 「まっ、俺は傭われだがね。」


 皆の先頭にいた魔導士が異変を感じて現場を照らす。

 そこで見たのは仲間が血を噴き出して倒れていく光景。誰がやったかその仕業、魔法の光を浴びながら、犯人は自身をこう語る。


 「仕事ついでに名乗ってやろう。俺はハラン・ピーク! 知っているかい? いつか轟く男の名だよ!!」


 彼が長剣を振るうとその軌跡から炎が舞う。


 最も避けるべきだった緊急事態発生。すぐ逃げ去りたいデノム人達であったが、金庫を置いていく事は出来ない。同胞の死体だってそうだ。

 小手調べとギガスが槌を掴んで投げるとハランは見事に弾き返す。


 「随分な挨拶だな。...ほぅ、ギガスてめぇか! 再開のハグでも良かったんだぞ。そっちの方が刺しやすい。」


 「いつも通りの煩い口だな。潰してやるから掛かって来い。」


 この口上に紛れてデノム人達は死体の回収を試みる。


 「あいつ、人を殺した直後だろ...。」


 「なぁ、あの二人は知り合いなのか?」


 「もうどっちも知りたくねぇし、関わりたくねぇよ。」


 死肉を喰らう鼠を押し退けながら。


 さぁ、本格的にギガスとハランの戦いが始まろうとしていた。

 戦う準備は互いに整っている。刃の無い長剣に炎を纏わせたハランと、ギガスの肉体強化魔法や同系列の技術を使った超肉弾戦スタイル。

 顔見知りとて戦場で会えば殺し合うのが傭兵の定め。


 先手、ハランが斬りかかる。が、これを避けてギガスは強烈な殴打を繰り出すも壁に痕を作るだけ。反撃の反撃、ハランは巨人の腕に剣を振り下ろす。

 響き渡るは金属音。触れ合う瞬間、彼の腕は鋼の様に硬くなって効果無し。

 そのまま鍔迫り合いの要領で拮抗した後にハランは弾き飛ばされた。

 倒れた彼に追い打ちを。背筋から拳の先に、ギガスは全身の筋肉を引き絞って鋼の拳を振りかぶる。


 「なんぼのもんじゃい!!」


 火花が散って鋭い音。


 なんと、この攻撃をハランは剣の腹で逸らしてしまう。

 死神が困惑する男。だが如何せん破壊力の高い拳が故、逸らした先の地面に着弾した余波でまたもや彼は吹っ飛んだ。


 短いながらも激しい熱量、暗所のここで粉塵が目立ち始めてきた。


 「いつ決着が付くか分からんから先に行ってろ。後で追う。」


 「はっ、はい!!」


 デノム人達はギガスの声で急ぎつつ慎重に台車を進ませる。

 その時に魔導士が光球をばら撒いた。この貧弱な光は狭い旧下水道を照らすのに十分だが、術者の得意分野ではない魔法なので効果時間は期待できない。

 そうして光球は二人の戦いを取り囲む。そもそも光の魔法が必要なのかと問われれば、要らないかもしれないが、そこは魔導士の親切心。


 既にズタボロ、ハランが立ち上がった。


 「次はお前らの番だからなっ―――!!」


 「アホウめ。俺を倒してから言ってみろ。」


 それからも彼らの戦闘は続く。これを背景にどれ程か、デノム人達は群れる鼠を蹴散らしながら金庫を終着点にまで押し込んだ。

 文字にすれば軽いものだが、命と背中を任せて進んだ姿と書けば立派だろう。


 旧下水道出入口前にて。


 「よくやった。」


 ここで指導者たる革命王オキュマスが賞賛を送る。

 しかし、彼らが注目したのはお隣さん。これを革命王はずっと離さずに待っていた。近頃は暴れっぷりの増した魔導技師アリスが襟首を掴まれて立っていた。

 そこはかとなく哀愁が漂っているのは何故でしょう。

 革命王はアリスを離すと、次は指差す動作で無言の圧力。


 流石の彼女もしぶしぶと仕事を始める。


 そこで下水道帰りのデノム人達はいつもの空気に息をした。


 魔導式の錠前の開錠。この作業に求められるのは頭の頭痛が痛くなるような知識と技術、どちらもだ。そして、どちらもアリスは持っている。

 むしろ、時代にそぐわない過剰なまでの知見を持つ。

 この事実を。本当に解錠出来るのかと(いぶか)しく見ていた魔導士だけが、アリスの神髄を理解する事になる。

 因みに、普通の錠前に関しては暴力で対応するのでご安心。


 「革命王様、ご報告が...。」


 「分かっている。ギガスの不在と予定の遅れを見るに、差し詰め問題が起き、現れた追っ手をギガスが対処している所だろう?」


 「流石です。」


 ガギィン、誰かが鉄槌を鍵に向かってフルスイング。


 そうした情報交換の行われる最中に巨大金庫は開かれた。

 こんな時にどんな意図か。アリスはオキュマスを見て不敵な笑みを浮かべたが、何かを喋るわけでもなく、そそくさと「仕事は終わり」と行ってしまった。


 「捕まえますか?」


 「後で問い詰めればよい。」


 今気になるのは金庫の中身。


 「これが...。」


 革命王は見た。期待通りの金貨の海、積み上がった宝石の山脈、どこで見つけたのか竜の鱗、もう会うこともないような財宝が太陽に晒され綺麗に輝く。

 銀行強盗の大成功を唱えるのに文句の出ようがないそれら。

 ただ、あの銀行は金の巡りに鼻が利く。依然として、力のあるシルバー・メインを敵に回してまで手を付けたがる愚者はいないだろう。

 つまり今日の成功が結果となるのは当分先。


 それを頭の片隅に置いてオキュマスは運搬の指示をした。


 「しばらくは安泰か。」


 順当に行けば歴史に残る所業をこの言葉で締めくくる。


 この後も金銀財宝に沸き立つデノム人の背後で冷静沈着。

 あんな物は彼にとって途中経過の産物でしかない。だからか、宝石とそこらの石ころを同一視、ただそこに在る物体なんだとの認識。

 必要とあらば銀を矢にして敵を討つ。


 革命王は次の策を模索する為に目を閉じた。

 

 ギガスの方は目を開けた。熱風に煽られて汗が流れた。

 依然として旧下水道の戦いは続いている。


 「もういい加減にしてくれ。お前も傭兵、金額分は働きたくないであろうに!」


 剛腕を振るうも当たらず。


 「いやぁ、雇い先がさ、太っ腹でっ、ね。見掛け上だけでも、ちょ、話しかけたなら喋ってる最中に攻撃するのやめろよ!!?」


 この仕返しに灼熱の剣が辺りを焼く。


 更なる攻撃の応酬だ。拳、剣、拳、偶に魔法、下手なワルツも風通しの悪い場所で踊れば熱がこもってくると言うもの。次第に暑さが溜まってくる。

 その内、辛抱ならんと鼠達が地面の隙間に潜り込む。

 そうした安全地帯を削り取りながら長剣が迸った。

 ギガスとハラン、まだ勝負は付かず。それもその筈、これは馴れ合い合戦。ここまでしておいて実は互いに本気を出してはいなかった。


 しかし、戦いは終わるもの。熱の影響による空気の移動によって、まるで悲鳴のような異音が旧下水道中で唸っている。

 築数百年の老骨には手厳しい症状。

 元よりその運命、二人の戦いによって早まった。


 想像を絶する一瞬の出来事だ。


 訪れたのは崩落。前兆は細かい塵の落下、そこから加速度的に降り始めた石の破片、今や道でもあった天井が雨になって留めなく。

 この最初と最後の間ではギガスもハランも揃って唖然としていた。

 今更、戦いをやめても終わらない土砂崩れ。


 「おいおい、この責任誰が取るんだー? どうなるんだー?」


 二人に割って落ちた瓦礫でお互いに近づけない。

 しかも時間が経つにつれて障害物はより多く。


 「んなもん知らねぇよ。」


 地下に居た鼠は救いを求めて地上に這い上がり。


 「なぁ、これって。」


 こっそり隠れ住んでいた闇の精霊は震え上がる。


 「お前もそう思うか。」


 破壊の鼓動を耳にしながら二人の考えは一致した。崩落地点で見つかって、この事態の犯人だと世に悪名を轟かせれば傭兵としてどうなるか。

 なれば姿を消して老朽化の所為になった方が互いの為か。

 そうと決まれば息ピッタリ、背を向け合って逃げ去った。

 されど壁は焼け焦げ、あるいは拳骨の跡まみれ。物的証拠が多過ぎる。後に誰かがやったと噂されることになるが、それはまた別の話。


 所変わって銀行の一室。そこにいるのは今回の被害者であり遠因、顔真っ赤に怒り狂って机を蹴って殴って八つ当たり。


 「支店長、上層部への報告をどうすれば。」


 「ッ待て!? するな! ...してもいいがその前にクビにするぞ!」


 被害総額はざっと2400ペタル(2億4千万円)、小さい城なら一つ建つ。

 支店長は頭を抱えて机に突っ伏した。大金を盗まれた事が上に知られれば、これまで築き上げたエリート道までもが強盗共に分捕られたようなものだ。

 これら全ては怠業なんぞしてる銀行員。いや、無能共が原因なのに。あぁ、一体どうすれば事態を丸く収められるのか。


 「私財を投じて金庫に金を。いや、そんなのでは足りない。どうすれば...。」


 そんな男に声をかけたのはこの銀行の魔導技師。


 「支店長、怯えすぎですよ。これは事件で貴方は法に罰せられません。まぁ、左遷はさせられるでしょうけど。」


 支店長は血走った目で彼を捉える。


 (そうだ、確かにそうだが話は別。)


 シルバーメインの企業事情。偉大なる大陸で創業されたこの銀行は、大陸各地の大都市に店舗を有しており、従業員も三千人台と今の時代にしては超巨大。

 月の大陸でも北の帝国や南東の大国で活躍中。

 それとオオド商会連合なる連合体に加盟している。

 ここから本題。これほど強大な組織にもなると根拠のない噂が立つもので、その一つにシルバー・メインには子飼いの戦闘部隊が存在していると。


 (それだけは本当だ。)


 部隊の役目は失態を犯した者の処刑など。


 「まさかシルバー・メインの執行部隊に消されるとか思っているんですか? ただの噂ですよあれ。見たことありませんし。」


 なんとも呑気な奴だと支店長は悪態をつく。


 (いいや、実際にある! 私がその一員だったからな!)


 己こそが生き証人。この支店長、実は執行部隊に所属していた事があり、色々あって、ここの前支店長を殺して今の地位に就いたのだ。

 例に違わず私の下にも来るだろう。

 こういった否定することが出来ない確信があった。


 (待てよ。)


 殺されるより先に強盗団から奪い返せれば何とかなるのでは?


 そう考えを改めて立ち上がる。


 「支店長、良い解決法を思いついたんですが。ここでは少し問題が...。」


 と、直後に眼鏡を付けた好青年が話しかけてきた。

 これを支店長は好い機運と捉えて着いて行く。その間、彼の名前は何だっけ、随分と前からいたような、全く覚えるつもりは無かったのでさっぱりだ。

 なんて、思いながら事務所に入る。


 カチャリ、最後に扉を閉めた。


 タァ―――ンッ!!!


 今度は乾いた発砲音。


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