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帰還志望の受難生  作者: シロクマスキー
三章 珍獣街パラ=ティクウ
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24話 窮鼠


 あの日の翌朝、昨日起きた戦いが今日にも噂、自警団隊長トップドッグと修道院長ブライアン・アッシュがその後始末を行っている。

 襲撃の首謀者とされるドン・ロックフィンガーの足取りは依然掴めていないものの、「発光する不審者を見た」といった目撃情報が多数寄せられている。

 今回の件がパラ=ティクウに与えた影響は少ないと言えるだろう。

 町は普段通りに。元より、刃傷沙汰(にんじょうざた)ままある下層では、まだ元気な連中が暴れ散らかしていった以上の感想は持たれなかった。蚊帳(かや)の外に置かれた中層においても、下層で行われた無謀な挑戦として語られるのみだ。


 一方で、日常に戻れない人もいた。


 「先生、ラティの顔は治らないんですかっ?」


 「治療は可能です。が、町から出る必要があります。お子さんの症状は見た目こそ派手ですが、魂に火傷が転写された事による腫れでして、これを取り除くには国際魔術連盟の拝弧殿という霊魂専門の医療機関に預けるのが最良かと。」


 「そこまで行くにはどうすれば...。」


 「大きな都市であれば連盟の支部がありますので、支部にある窓口から案内を受けて頂ければ、支障ありません。では、紹介状を用意しますね。」


 「...いや、あの、先生が、先生が治すことは出来ないんでしょうか。都市まで行くには、その、時間がかかりますし、大変じゃないですか。」


 「......ご期待に添えず申し訳ございません。」


 ラティは自分の部屋の暗がりで母親の涙を聞いた。


 その頃、自警団本拠地の中庭で。


 「昨日の事件、ラティが一枚噛んでるって本当なのか?」


 座られた椅子と揺れる机。


 「死霊術師に悪魔の召喚の仕方を教えてもらっていたとか、なんとか。」


 「何処情報なんだ?」


 「ルーチェ班の人から聞いた。」


 レオンとナルドが噂話をしている。近くにはレオン班の他三人とロスト・ララ、少し離れて猫獣人ニーニャと黒縁猫ダイフクの姿もある。

 中庭はお日様の光が斜めに差し込み、まだ暗く、やや寒い。


 「...ニャニャ!」


 ニーニャがララに呼び掛けた。


 「ロスト。ジョンの奴が今日中であれば、パラ=ティクウから帝国領内に出発する馬車が用意出来るって言っていたニャ。どうするニャ?」


 何故か、彼女の肩で黒縁猫が大人しくマフラーになっている。


 「...あっ、よろしくお願いします!」


 「そう伝えておくニャッ!」


 ロスト・ララはそれから二~三歩進んで動きを止めた。

 ルーチェ・ヴェルデがいた。中庭の出入口で突っ立っている。ララよりも先に気付いたレオンが眉を(ひそ)めて彼を見ていた。


 「なんだよ。」


 ルーチェはレオン以外を一(べつ)して喋った。


 「......私はね、ラティ・ハイドが昔から嫌いだったんだ。」


 「なにかしらの用事の度に、ちょこまかと背中にくっ付いてくる。道端のゴミを踏んだら同じく踏む。非常に鬱陶しかった。」


 「それでいて、責任まで背負わされそうになるんだからな。」


 「レオン、父から聞いた、君とは同じ大学の寮で暮らすことになる。今日はその挨拶だ。今まではお互いに誤解があったかもしれないが、仲良くしよう。」


 レオン・ティクウスは椅子から立ち上がって言葉を返す。


 「いつもながらにお前は(むご)いぞ。」


 「忌憚(きたん)なき意見をありがとう。とても残念だ。」


 その後、ルーチェは何気無しに自警団本拠地から立ち去っていった。


 「気にしないでくれ。」


 レオンはそう言って椅子に座り直す。


 「ガリさんから見たラティさんとかルーチェさんって、どんな人ですか?」


 ガリはララからの質問に顔面をしわくちゃにして縮こまる。


 「なにゆえワタクシに?」


 「...なるべく正しく評価しようとしているように思ったからです?」


 それを聞いて形状が元に戻った。


 「え~、あー、念の為に聞くけど、友達だったり...?」


 「ではない、ですね。」


 ガリはしぶしぶ喋り出す。


 「......ラティは、だいぶ前に、無理やり同じギャグを何度もやらせた挙句に〝うわっ、つまらない〟とか言いやがったで、個人的には好きくない。」


 「ルーチェとは自分も関わった事ない。あっちの眼中にも入ってないと思う。」


 ガリ・レコンは少し考えて。


 「そうだ、よく分からない話をしよう!」


 「よく分からない話ですか...?」


 「そうそう。」


 ガリは深呼吸をする。


 「俺には秘密の趣味があってね。その筋で、あの人に出会っちまったからにはね。やっぱり、勝ちたいなってどうしようもなく思った。」


 「勝手に巻き込んだ分際だけど、尊厳の底がついた軽い頭を下げる意味は薄いだろうから、代わりに腹を割って話すことにした。きっと、(しか)るべき手順で同じ土俵に立つのが一番正しかったんだろうけど。」


 「自分は弱いから。」


 「それに近付けば手に入るものなんだと思っていた。でも、実際はかなり違っていた。だとしても、貫くよ。それゆけ、アンポンタンだ。」


 超変人は囁いた。


 「他人を知っても、どうにもならないよ。」


 しばらくして、ロスト・ララは自警団本拠地の自分に割り当てられた部屋にいた。家具と飾りが影も形もない殺風景な部屋で一人だ。

 そこで旅立つ為の荷造りを黙々と進めている。

 けれども、そうである筈なのに、軽すぎる荷物がなんとも不安になって、中身を取り出し、鞄の整理が未だ終わらせられないでいた。

 いつぞやの金貨が財布から転がり落ちた。


 金貨の輪郭が歪み始める。


 そして、ロスト・ララの足取りは自然と修道院に向かっていた。


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