あの日のことと出会い
もしもこの世のすべてに愛された人間がいるならば
あの日のことと出会い
彼が親と喧嘩し、山で一晩過ごしたのは去年のこと。
今、彼はもう高校生になっていた。
彼の名前は「空山海斗」。
十四歳までは普通に学校では目立つ方でもなく、どちらかといえば目立たないほうであった。
だが、なぜか目立たない「普通」な海斗はモテていたという。
海斗はいじられることがあった。理由は簡単。結論から言うと、非モテの男子生徒らからのやつあたりだ。
「目立たないくせに、ほとんど喋らないくせに、女子にモテてムカつく」とのこと。
そんな彼が山と心を通わせたのは彼が十五歳の誕生日、の翌日だった。
あれから海斗は山には行ってない。
それは日に日にその日、夢で見たことをゆっくりではあるが思い出し始めているためだ。
そして今日、海斗は学校の帰りに山へ行ってみることにした。
海斗にとって、これは実験、検証を兼ねての行動だ。
授業が終わり、ホームルームを終え、海斗は山へと向かう。
学校から自転車で数分すると山の近くに自転車を止め、山に入った。
不思議なことに、山に足を踏み入れると鳥たちが海斗の周りに集まってきた。
最初は警戒されているのかと思った海斗だが、それとは少し違う気がすると悟った海斗はそのまま山の頂上へと進んでいった。
鳥が周りにいるのを気にしつつ、海斗は足を動かす。
しばらく鳥の声を聞くこと数分。
海斗は頂上にたどり着いた。
「いつもより早く着いた…かな?」
周りに誰もいないのに質問を口にする。
そんな海斗は、頂上に着いてからあることに気づいた。
山の頂上には大きな木があるが、とびきりでかい大木がある。
あの一件から比べ、海斗は明らかに違うものに気がついた。
大木の根本。地が盛上り、根がトンネルを作るように浮いているように見える。
覗いてみると、空洞があり、下へと続いているようだ。
「深いな…」
とつぶやき、海斗は頂上から景色を見まわしていた。
そんな時だった。
唐突に風が吹き、草木が揺れる。
海斗はあたりを見渡し、この強風について知ろうとスマホのロックを解除する。
そして天気の情報がわかるアプリを起動し、確認してみるが…
「あれ?晴れになってる…風の予報もないし…?」
今は曇りで強風が海斗目がけて吹き荒れている。
「う~ん…まぁ、帰るかな?」
海斗は一人で検証ができなくて残念だと思いながら帰ることにした。
が、帰ることは許されなかった。
あたり一帯に草木が海斗を囲み、蔓みたいな植物は海斗の体の自由を奪うように体に巻き付いてくる。
必死に逃れようと抵抗するも解けず、終いに大木の下にできた空洞に運ばれ、落とされた。
「うああああぁぁああぁ!」
叫びながら落ちる海斗は、大声が空洞の中で響いて大音量になり耳を傷めた。
痛めた耳元で風がヒュルヒュルと音を立てながら、ただいま落下中。
数十秒が経過してもなお、落下している。
「深すぎる~~落ちた瞬間死ぬ~~~…」
とわめきながら更に数十秒。
ふと下を見ると、わずかだが光が見えた。
それは次第に大きく。そして明るくなって海斗の暗闇に慣れてしまった目にはまぶしいほどに明るくなってきた。
それと同時に地面も見えてきた。
もちろん、海斗には死の恐怖があった。
が、地面から約2.5メートルのところでありえないほどの減速とともに圧力が体にかかった。
まるで見えない膜が張られてそこに突っ込んできたかのように思えた。
そのおかげで、海斗は着地したときに重症になるはずのところを無傷で。
だが、軽傷で済んだ。(着地に失敗してしまったのだ。)
海斗は体を起こして周りを見るが、見たことない空間に戸惑いを隠せずにいた。
「何処だろう、ここ…」
と立ち上がり、歩き出すとどこか聞き覚えのありそうな声がした。
「また会ったね、海斗。先日の件については解決したのかな?そうだといいけど、今日はどうしたの?珍しく僕のところに来るなんてね、嬉しいな~♪」
と、そこで声がしたことに驚く海斗だが同時に「僕のところに」という意味について考える。
(いや、そもそも見たことない気がするんだけどな~…)
そして一応、大声で向こうにいるであろう人に挨拶を。
「こんにちは~僕誤ってここに落ちてしまったんですけど~って、なんで僕の名前をご存じなんですか?あと、僕のところにってどういう意味ですか?」
と全体に聞こえるよう叫ぶ海斗に返事が来た。
「僕のところには僕のところにさ。もしかしてまだわからないかな?」
「あなたは誰なんですか?」
「僕はこの山そのものさ!あと海斗、叫ばないでもいいよ。聞こえてるから。」
そんな指摘をされる海斗は、
「あ、そうなんだ。ごめんなさい…?」
「どうかした?」
「山?山って言った?」
「うん、それがどうしたの?」
瞬間海斗は固まり、めまいがして床に倒れた。
♢ ♢ ♢
僕は海斗、空山海斗。
普通の人間だったはずの人間。
今日からその肩書が使えるようになる。
僕は山にできた空洞に落とされた後、いろいろあって気を失ってしまった。
でも、何とか今意識を取り戻し手体を起き上がらせたところだ。
と、そこへ声がして振り向くと少女が立っていた。
「君は誰?」
「だから、山だってっば。僕は山なんだ♪」
「いやいや、山はこの場所でしょ?しかも君は…女子なの…かな?」
「性別は人間でいうところの女子なのかな?っていうか女子だよ~で、山は僕だってば!この山は僕の…卵の入った巣?みたいな」
(いろいろと分からなくなってきたぞ…)
「君、女子なのに僕って自分の子と呼ぶんだね、珍しい…あとさ、名前ってあるの?」
(あれ?聞きたいことと違うこと聞いてるぞ、僕…)
「うん…僕って呼ぶの、変、かな…?」
「いやいや、全然!変じゃないよ⁈」
「そっか~良かった!」
自分を山と名乗る女子はそれこそ笑顔百パーセントを見せた。
すると自分の顔が熱くなっているのを感じた。
「あと、名前だっけ?ってなんで顔赤いの?熱?」
やっぱり…赤いのか…
「いや、熱とかじゃないよ?」
「そっか、ならいいけど…で、名前なんだけど、無いよ。だから好きな風に読んでくれて構わないよ」
「名前無いの?」
「うん」
(名前無いのか…何て呼ぶか…せっかくだし、漢字も考えてみるかな…?)
と考えている時にたまたま腕につけていた時計が目に入る。
時刻は午後六時半。
学校を出たのは三時半なので、三時間ほどこの山にいることになる。
さらに言えば、家にはいつも六時には帰っているのだ。
「ごめん、今日はもう帰らないと!」
と言い、後ろを振り返り走り出す。
そして、
「また明日ね!里香」
瞬間、彼女の目が潤ったように見えた。
「それって、僕の名前?」
「そうだよ!気に入らなかったら明日また考えるよ~!」
「嬉しい!ありがと!」
涙を流しているように見えた里香は、急に心配そうな顔を僕の方へ向けて
「ところで、どうやって帰ろうとしてる?」
と聞かれた。
(あれ…そういえば確かにそうだな…急がなきゃいけないと思う一心で走り出しちゃったけど…)
「あ~やっぱり帰り道わからないよね…てか出口と逆方向走ってるよ、海斗」
「え?」
と間抜けな声を出したこと含めて内心すごいことになっていた。
(え、図星突かれただけでも恥ずかしいのに…更に今間抜けな声でなかった?あ~…すごく恥ずかしい!)
という状況の僕の心を見透かしたかのように、
「そこまで恥ずかしい?あと間抜けな声可愛かったよ♪」
「…」
(すっごく恥ずかしいのですが⁈なんでそんな的確に痛いとこ言ってくるの?もう既にメンタル持たないんですけど!)
「あれ?逆効果だったのか…ごめんね、心見えてたのに痛いところついちゃって」
と言ってくる里香にたいした僕は僕は死人が発するであろう声で、
「あぁ…良いよ全然…気にしてないから」
と返した…
(?今さっき里香は心が見えてたとか言わなかったか?)
と僕は生き返った人間のようにはっきりと、
「今さっき何て言った?心が見えるって言わなかったか?」
「うん、言ったけど?」
(なんてことだ…心が見えるとか…いいな~もし俺ならコミュ障の人にその能力分けてあげたいぐらいだよ)
だが、里香はあきれるように言う。
「でもさ~この能力まったく嫌なものだよ?人間の心はみんな汚いよ。悪口とかばかり言っててさ。まぁ、そうは言っても半分ぐらいが汚いってだけなんだけどね~」
(能力を分けるという考えは少し控えておこう…きっと俺の心が痛むだろう…)
「それにしても、海斗の心は綺麗だし自分で自分のツッコミしたりして面白いね♪」
「…もしかして全部見えてた?」
「見えてたよ~♪」
と小悪魔みたいな表情を作る里香を見て海斗はこれから「無心」を心掛けるようになった。
この作品を読んでくれた方、ありがとうございます!
不定期に投稿をするのですが、気長に待ってくれると助かります…
この作品にジャンルで「異世界」とありますが、詐欺的なものではないのでご安心ください。
少ししたら異世界へと旅立つでしょう…
あまりあとがきと言えるものではなく、内容も薄すぎますが…今回はこれで失礼します。