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〔7〕

 濱田の言いたいことが、神崎には理解できなかった。

 おそらく「相方のことぐらい、自分で調べろ」との事だろう。かといって、本人に聞いてみろとは無茶な話である。

 処分を受ける事態は避けられたようだが、厳重注意を受けて書類の作成を命じられた早川が、自分のデスクでパソコンに向かっている。濱田と共に主犯格の少年の取り調べを終えて、神崎は早川の隣に椅子を運んだ。

「コーヒーでも、どうだ?」

 自販機で買ったコーヒーは、甘い物が苦手と言っていたので砂糖が控えめたが、いらないと言われたら仕方ないと思いつつ早川のデスクに置く。

「……有り難うございます」

 キーボードを打つ手を止め、缶の口を切った早川に神崎の緊張が少し解けた。

「らしく、ないじゃないか。まあ、被害者のことを考えればわからないでもないが」

 早川は一口コーヒーを飲んだが、無言のままである。

「女性の立場からみれば、確かにヤツのしたことは……」

「違うんです」

 向き直った早川の、真摯な表情に神崎は戸惑った。

「私、高校生の時に同じような事件で友人を亡くしたものですから……」

 逡巡する表情を見守りながら神崎は、早川が言葉を整理するのを待った。

「高校生の時……仲の良い友人が一人いたんですが、両親の離婚訴訟で家に居場所がなくなって、よく私の家に泊まりに来ていました。今で言う、プチ家出ですね。当時、私は生物部でウサギやモルモットの世話をしていたんですが、彼女も動物が好きだからって一緒に手伝ってくれたんです。ところが……ある朝、飼育小屋に行くと動物たちはみんな切り刻まれて死んでいた」

 早川の顔が、歪む。

「友人は、寂しさから夜の繁華街で援助交際の相手を求めるようになって、その関係から何時しか暴力団に売春を強要させられていたんです。動物たちが殺されたのは、彼女が暴力団を裏切らないようにするための脅しでした」

「酷い、話だな」

 似たような話を、神崎は今まで何度も聞いてきた。

 しかし自らの体験に苦しむ同僚がいるとは、思いも寄らなかったのだ。

 ガラス越しに見ていた犯罪の、ガラスが取り払われたような明確な怒り。

 その怒りの種類の違いに、神崎は初めて気が付いた。

「彼女は私に詫びました……でも私は、彼女を責めてしまった。逃げ場もなく、頼る者もない彼女を。彼女は、動物たちを殺した暴力団に逆らい、そして……」

 言葉に詰まる早川の肩に、神崎は手を置いた。

「何故責めてしまったんだろうと、今でも後悔しています。彼女が埠頭で水死体で見つかったとき、私も死のうと思った。でも、次第に絶望は怒りに変わり、彼女を殺した奴らを絶対、私が殺してやると思ったんです。ただその時、自分はあまりに無力で……」

「だから、警官になったのか?」

 早川は頷く。

「今でも殺してやりたいと、そう思っているのか?」

 いいえ、と、早川は首を傾けた。いつもの癖だ、否定でもない、肯定でもない……。

「今は違います。犯罪を未然に防ぐ、それが自分の勤めだと思っています。そのために、犯罪者は逃さない。日の当たるところに引きずり出して、裁きを受けさせる。少しでもそれが、抑止力になるのだと信じていますから。今回の被害者が友人と境遇が似ていたので、つい冷静さを欠いてしまいました。ご迷惑おかけして申し訳ありません」

 平井和美もまた、両親が別居中で居場所が無くなり荒れていったのだと捜査の段階で知った早川は、心ない容疑者の言葉に自分を抑えられなかった。

 早川は笑わない。笑えないのだ、自分の罪の意識で。

 そうだな、と、神崎は答えるしかなかった。

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