第89話「ルーの案内」
ルーの父親の店は宿のそばの階段を下って行ったところにあった。
他の街で取れた農作物がたくさん並んでいる。
そういえば、迷宮市街は建物ばっかりで畑をまったく見ていない。
農作物はどうしているのだろうか。
もしかしてすべて他の街から仕入れているのだろうか。
「お父さーん!」
父親を見つけたルーが素早く駆けて行った。
「ルー⁉︎ 一人か?」
「ううん、ハヤトさんも一緒! 守ってもらってるの」
「ん? あ、ああ、護衛をしてもらってるのか。ハヤトさん、娘を助けてもらった上に護衛の依頼まで引き受けてくださって、ありがとうございます」
「いや、礼には及ばない。俺も彼女が心配だったからな」
幼女を守ってお金が貰えるなんて、願ったり叶ったりもいいとこな仕事だ。
「どうか娘をよろしくお願いますね。あ、いらっしゃいませ! すみません私は仕事に戻らないと」
「ああ、邪魔して悪かった」
客が来たことで俺たちは店を後にした。
ルーが俺の左側に戻ってくる。
そういえば彼女の父親と話している時、ずっとククラと手を繋ぎっぱなしだったが、変な目で見られていなかっただろうか。
心配だ。
「ハヤトさん! 次はあっちだよ!」
「なんでそんなに急いでるんだ」
「わかんなーい!」
ぐいぐいと腕を引っ張られながら、俺はホークさんに対する言い訳を考えていた。
◇◇◇
数十分後。
「ごめんなさい……」
ルーがしゅん、と項垂れていた。
「まあ、はしゃいでしまったのは仕方ない。次から気を付ければいい」
実は、ホークさんの店から移動したあと、ルーは、慣れた街を歩くように迷うことなく俺を案内してくれたのだが……
「こっちだよ」
「あの道だよ」
「あ、こっち!」
「あっちの道に行こうよ」
「そこの先、絶対何かあるよ!」
何か台詞も怪しいし気配察知から人の気配がどんどん減っていくからおかしいなと思ったら、案の定思いつきで道を選んで歩いていたらしい。
「私、実はこの街に来たばかりで……いろんなところが見てみたくて……」
ルーの両親、ホークさんとパドラさんは共に行商人で、いろんな街を回っているそうだ。
この街に来たのはつい一週間前だという。
普通なら街の兵士にまかせるはずの迷子の捜索依頼がギルドにも出ていたのは、この街の人間ではなかったからか。
結局それでルーが助かったんだから良かった。
ただ、迷子になったのも好奇心の所為なら少し考えものだな。
「いろんなところを見たい気持ちは分かる。だから一人では絶対に行っちゃダメだぞ」
俺は、彼女に目の高さを合わせながらそう言った。
「え?」
怒られると思っていたのだろうか。ルーが意外そうな顔をしながら潤んだ目で俺を見た。
「怒らないの?」
「怒るようなことでもないだろ」
「でも、案内するって言ったの嘘だったんだよ?」
「そんなの大したことじゃない。まあ、一人で何処かに行ったなら怒っただろうけどな」
いや、なんだかんだ言って俺は幼女を怒らないような気がするがそれは置いておこう。
「どうする? このまま探検を続けるか? それとも戻るか? どっちでもいいぞ?」
ルーがまったく予想していなかったことを言ってしまったようで、彼女は「えっ? えっ?」とあたふたしている。
「えーっと、探検していいの?」
「ああ」
「帰り道分かるの?」
「もちろん。と言うかクロネが覚えていてくれる」
クロネは、突然自分の名前を呼ばれて驚いたように俺を見た。
ちょいちょいと手招きするとぎこちない動きで寄ってきた。
身体をルーの方に向かせ、その両肩に手を置く。
「さっきも紹介したこの子だが、実は道を覚えるのが得意でな。この街でも迷わないんだ」
厳密に言えば違うのだが、空間把握は才能によるものだ、あながち嘘でもない。
「え、凄い……じゃあ今までの道も?」
「ああ、覚えている。よな?」
「は、はい。全部覚えています」
さすが、クロネ。うまく話を合わせてくれた。
まあ、本当に覚えているのかもしれないが。
俺も少しは覚えているしな。
「だから迷う心配はせず探検できるぞ」
しかし、やはり信じきれないところがあるのか、それとも罪悪感からか、ルーは帰る方を選んだ。
その後居住区に戻ると、ルーは元気を取り戻し、人通りの多いところから外れないようにして露店を探しながら街をぶらついた。
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