第84話「謎の気配」
※汚い描写があります。ご注意ください。
俺たちは迷宮市街を北上していた。
この街の兵士たちによると、迷子は大抵人々の生活圏からさほど離れていないところにいるものだそうで、距離のある北側を捜索する意味があまり無いらしい。
この手の事件に慣れている兵士が言うのだからそうなのだろう。
そもそも、迷ったら下手に動かないようにと言われているそうだ。
歩き回って北側にいるかもしれないと思ってしまうのは、俺が部外者だからだろう。
まあ、大切なのは迷子が見つかることで、無駄足だったとしても幼女が無事なら気にならない。
ただ、クロネたちはそういう訳にもいかないから半ば観光も兼ねてゆっくり歩いている。
迷宮市街の中央部に来た時だ。
気配察知の端の端に、何かの気配が入った。
「あっちの方に何かいるみたいだ」
「迷子の子かなぁ」
「いや、二人いて動いていないから違いそうだ。でも、こんなところにいるんだから迷っているのかもしれない」
「きっと迷子の子を探しに来て迷子になったの」
「はっきりした気配だから命に別条は無いだろうが、とりあえず急ぐぞ」
「「「はーい(なの)」」」
そして気配にある程度近づいたとき、ようやく気配が何者か分かった。
「魔物と人間の女の子だ」
未だ気配で年齢や性別を感じ分けることができないハヤトだが、なぜか幼女だけは分かるのだった。
しかし職業柄か?と突っ込んでいる余裕はなかった。
魔物と幼女が一緒にいる時点でいい想像は出来ないが、それよりも、単純に幼女の気配が絶望と恐怖の色に染まっていたからだ。
もう一つの気配からはそれらが感じられない。
俺は急ぐことにした。
「嫌な予感がするからショートカットするぞ」
どこに繋がっているか分からない道を歩き回っている暇はなかった。
「マスター、どうするの~?」
「こうするんだ」
俺は階段状に結界を張った。
張った直後一瞬だけ結界が光るがすぐに収まる。
それで段の位置を把握し、見えない足場に足をかけて登り始める。
「う、浮いてるの」
ミズクたちが驚いている間に階段にもう一工夫する。中に水を入れ、段を見やすくした。
「行くぞ」
俺たちは透明な足場の上を走った。
◇◇◇
二人の気配がある一軒の家にこっそりと侵入する。
不法侵入ではない。もとより街の中央部は誰も住んでいない場所だからだ。
二つの気配は――入り口がある場所を一階と呼ぶとするなら――一階の奥の部屋と地下に分かれていた。
俺は迷わず幼女の気配のする地下に向かった。
家の壁と同じ材質で作られた階段を下り、その先にあった粗末な木のドアを押し開ける。
「く、臭いです」
不快な臭いが鼻を突き、一同は顔をしかめた。
しかし中の有様を目にして一層顔をしかめることになった。
そこには酷い光景が広がっていた。
おそらく依頼の子であろう女の子が、服を剥がれ手足を縛られた状態で柱にもたれかかっていた。
「……だ……れ……?」
俺に気づいた少女が顔を上げた。
その瞳は暗い。
なんて答えるべきか……、これはもう迷子の域を超えている。
「君を助けに来た」
それが一番状況に合い、目の前の女の子を安心させる言葉だろう。
「ほんとに?」
「ああ」
力強く頷いてみせ、女の子のそばに寄る。
すると一層不快な臭いが強くなった。
その原因は少女の前にある嘔吐物のものだろう。
いや、それだけじゃないな。この臭いは……アンモニア臭か。
臭いの元はすぐに分かった。女の子の足元が水たまりになっていたからだ。
そして臭いにはもう一つの別のものも混ざっている。
その原因も彼女の足元、特にお尻の方にあった。
なんでこんな状況になってるんだ。
いや、それは犯人に直接聞いたほうがいいか。
俺は、こっちに向かってきている気配の主を待ち構えた。
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