第83話「迷子の捜索依頼」
遅れてすみません!
街に着いた翌日の朝。依頼の掲示板を見に行く。
セメカインストは、全方位を魔物の出る山や森に囲まれているから、非常に種類が豊富だ。
掲示板が五つに分かれていて、北東、北西、南東、南西、街中の五つだ。
観光がてら受けられる依頼を探していると、迷子の捜索願いが目に付いた。
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迷子の捜索願い
依頼者:商人の夫婦
内容:子供の捜索
報酬:3000エソ
兵士さんにも依頼しましたが心配でなりません。捜索お願いします。
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「この依頼の詳細を教えて欲しい」
「あ、その依頼受けるんですか? 昨日来たばかりなのに迷いませんか?」
「大丈夫だ、秘策がある」
主にクロネ頼りだが。
「えっと、昨日の夕方から一人の子供が買い物に行ったきり帰ってこないそうです。名前はエルイーズ、九歳の女の子です」
一大事じゃないか。
「この街では大人も子供もよく迷子になるんですよねぇ」
ずっと生活していても、少し知らない道に入ってしまうと迷うらしい。
しかし、あまりにも迷子に慣れているので普通は兵士に捜索を任せているらしく、冒険者まで依頼が来るのは珍しいのだとか。
その後名前や服装を聞き、冒険者ギルドを出た。
「よし、すぐに探しに行くぞ」
「わかったの。でも、見つけられるの?」
「ああ、俺には気配察知があるからな」
誰もいないところを探す羽目にならない分普通より効率がいい。
それに迷う心配がない分、動き回って地理を把握したほうが後のためにもなる。
まずは、いなくなった女の子が買い物をした店に行く。
「すまない、迷子を探してるんだが――」
「あんたもかい、今朝も兵士たちに聞かれてね。その子はうちで買い物をした後、まっすぐ帰って行ったはずだよ」
しばらく周囲で聞き込みをするが役立つ情報は手に入らなかった。
最初から期待はしていなかったが、やはりここには手がかりが無さそうだな。
「ご主人様、どうするんですか?」
「とりあえず人の住んでる区域から離れたところを探そう」
「じゃあ北ですね」
「ああ」
この街は戦争で敵兵を迷わせる目的があったため、広さだけで言えばタゼウロンより広いらしい。
しかし何分入り組んだ複雑な街だから、住んでいる人は少なく、南側の城壁に沿って200世帯くらいが暮らしている程度だそうだ。
綺麗なレリーフがなされたアーチをくぐったり、水路の脇の道を通ったりしながら町並みを楽しんだ。
もちろん気配察知の範囲を広げられるだけ広げてながら人の気配を確認しながらだ。
焦っても見つからないしな。
得体の知れないものを象ったかなりユニークな石像があったりして、たまに笑わされる。
と、ミズクが立ち止まった。
「あれ、この道さっきも通ったの」
「本当だこの光景見たことあるよ~」
二人の言う通り、さっきも見た変な石像があった。周りの町並みも見覚えがある。
しかし、
「大丈夫です。ちゃんと違う道です」
そうクロネが断言した。
クロネの空間把握は方向感覚や距離感がかなり正確だから、言っていることは正しいはずだ。
「だとすると、わざと同じ光景の道を作っているのか」
こりゃ、ここに迷い込んだ人間は気が滅入るだろうな。
その後全く同じ光景を後十回見ることになったが、クロネによると確実に北に向かっているらしい。
「この街は本当に面白いです♪」
「楽しいね~♪」
クロネもククラも楽しそうだ。
「ミズクは、一回来たことあるから退屈だろ? ごめんな」
「そんなことないの。前の人はこんなに北の方には来なかったから楽しいの」
それは良かった。ミズクが退屈していないか心配だったんだ。
「あれ、行き止まりだよ~?」
「大丈夫です。壁際に通路があります」
「本当だー」
離れたところからだと行き止まりに見えるような通路があっても、クロネは騙されない。
本当に頼もしい幼女だ。
「あ!」
「? どうしたクロネ?」
「空間把握がlv.4になりました!」
「おお! おめでとう!」
興奮と感動のまま撫でると、クロネは抱きついてきた。
「そ、それと、とってもいい加護も手に入ったんです」
クロネが耳をピコピコさせて、ものすごく嬉しそうにしている。猫人なのにぶんぶん振る犬の尻尾が見えそうだ。
「どんな加護だ?」
「《コンパス》です!」
一瞬円を描く文房具を思い浮かべたが、すぐに方位磁針の方を思い出した。
「東西南北が分かるのか。クロネには今更じゃ無いか?」
クロネは太陽の位置から方位がわかると言っていた。
地球では季節によって太陽の位置が変わってしまうが、イロエリスではずっと一定だから、感覚を掴んでいるクロネはかなり正確に方角を割り出せるのだ。
「それだけじゃ無いんです! ステータスを見てみてください!」
言われるままにクロネのステータスを確認する。
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《コンパス+α》
東西南北がどこにいても分かる。
さらに印をつけた人(物)のいる(ある)場所がわかる。つけられる印の数はレベルに因る。
印をつけた人(物):
「大好きなハヤトお兄ちゃん」
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すごいと思うが……
「クロネ、最後のは?」
「ごめんなさい、ハヤトお兄ちゃんとは絶対に離れたくなかったから……」
「いや、別にいいんだが、頭についている言葉は? 最初からこうだったのか?」
だとしたらずいぶんなヤラセだぞ。
「印には好きに名前をつけられるみたいです」
おおう、そうか……つまりこれはクロネが設定したのか。
クロネの好意を改めて感じて、心が温かくなる。
そして、頼もしくなったクロネとともに、迷子探しを再開した。
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