第80話「セメカインスト」
18歳、選挙権あるけど……
ホーンデッドマンションを出てから二日が経ち、とうとうセメカインストにやってきた。
「ここが迷宮市街か……」
関所を通った俺たちは、街に入ってすぐ、思っていた以上の光景に息を飲んだ。
その街は四方八方どこを見ても白っぽいレンガで覆われていて、時々隙間から蔦や低木が顔を出している光景が広がっていた。
豆腐小屋と呼ばれそうな直方体の家が立ち並び、家の上に続く階段があったり、家の上と上を繋ぐ石のアーチ橋があったりした。
あるいは四つの柱の上に同じような家が建っていて、そこの入り口へと続く階段が別の二階建ての家から降りてきていたりしている。
一目見ただけで、迷いそうだと思った。
「ははは、驚いたろう? 中にはもっとやばいところもあるぞ」
おそらくここに来る人の驚く反応を楽しんでいるのだろう、人の良さそうな関所のおっさんがにっと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「どうしてこんな造りなんだ?」
「ここは、昔戦争をしていた頃の城塞なんだ」
「ほう」
やはりあったのか、戦争は。
「ここに来るまでずっと東に高い山が見えていただろう?」
「ああ、カクなんとか山脈だったよな」
「カクワニルガ山脈だ。国境の山くらい覚えておけよ。それで、山があったら兵団は普通迂回するが、カクワニルガ山脈のちょうどこの街のある場所は、他と比べてかなり標高が低いんだ」
「つまり、そこを抜けて兵団が来るのか」
「そういうことだ。だからこの街は敵兵を足止めするための街なんだよ。堅牢な砦にしなかったのは、あえて相手を誘い込んで迎え撃つためだ」
「相手を迷わせてそこを撃つのか」
面白いことを考えるもんだ。
「ま、今は観光名所だがな。楽しんで行ってくれよ」
「ああ、もうすでにワクワクしてる」
「ははは、ウロウロして迷子になるなよ、そこの子たちのことも見失わないようにな。まっすぐ行ったところに赤い旗掲げたギルドがあるから、一旦そこへ行くといい。そこらへんはあまり入り組んでないからな」
「分かった。親切に感謝する」
「おじちゃんありがとー!」
「ありがとうございます」
「ありがとうなの」
関所を離れ、おっさんに言われた通りまっすぐ進む。
しかしクロネが途中で立ち止まった。
「クロネちゃん、どうしたの~?」
「そっち、まっすぐじゃないです」
「え? 正面の道を選んだはずだが……」
よく周りを見てみると、レンガが微妙に歪んでいて、正面だと思っていた方向がずれていた。
「うわ~すごーい。歪んで見えるよー!」
「おお、すごいなこの街」
「だまされたの」
目の錯覚を利用したトリックもあるのか。
ますます滞在するのが楽しみになってきた。
そして超方向感覚とも言うべき空間把握持ちのクロネがいて本当に良かった。
「この街、不思議な感じがして面白いです♪」
「だな」
俺たちは無事にギルドに着くことができた。
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