第77話「ループホール」
魔物と出会うことなくエントランスホールまでやってきた。
そして玄関の扉を開け放つ。
「ククラ、どの辺りに障壁があるんだ?」
「ええっと……」
ククラは、両手を前に突き出してゆっくり前進し、
「あ、ここだよ!」
ククラの言った障壁は、ちょうど扉の枠のところにあった。
「え、ここですか?」
クロネも同じようにして進んでいくが、何にもぶつからず通り抜けてしまう。
俺は苦笑しながら、想像しておいた結界をククラの前に張る
「ループホール」
これでククラの前に俺の結界が張れたはずだが、まだ出られないようだ。
もう少し魔力を注いだ結界を重ねて張る。
「あ!」
今度こそ屋敷の結界を打ち消すことができたようで、ククラは屋敷から出ることができた。
「マスター、出られたよ! マスターありがとう!」
ククラは玄関前のステップで小躍りしながら跳ね回った。
暫くして結界が消えるのを待ち、
「ククラ、もう一度戻って通り抜けてくれないか?」
「うんわかった!」
一旦屋敷に入ってもう一度出ると障壁に阻まれることなく通り抜けることができた。
「よし、もうククラは出入り自由みたいだな」
「やったー、これでマスターと一緒に行ける! マスタ~♪」
「おっと、」
俺は、床を蹴って文字通り飛びついて来たククラを受け止め、地面に下ろす。
ククラは驚くほど軽かった。
「ハ、ハヤトにぃに攻撃しちゃダメなの!」
側にいたミズクは慌てて近寄ってきてククラを引き離そうとする。
「落ち着け、これは攻撃じゃないから」
「そう……みたいなの。勘違いしちゃったの」
ミズクは、俺の脚にひっついて頬ずりしているククラをみて、肩の力を緩めた。
「よし、今日は一旦屋敷の探索は終わろうか。ククラもすぐに外を見たいだろうしな」
「はいっ」「分かったの」「やったー!」
屋敷の裏に回ると、薪が積まれた開けた場所があった。
割と最近のものと思われる燃え滓が残っていたからここに来た冒険者はここを使っているのかもしれない。
ちょうどいいから今日はここで一晩を過ごそう。
「よし、じゃあ少し早いが夕ご飯の準備をしようか」
「はーい」「なの」「はじめてのご飯だ!」
「ククラも普通に食べられるよな?」
「うん!」
それから水球レンズで火を起こし、昨日の鹿肉の穢れを払い、薄く切ったものをミニ鉄板で焼く。
「ハヤトお兄ちゃん、それ何ですか?」
「これか? これは菜箸だ」
クロネは俺が手に持っているものに気づいたようだ。
ミズクやククラもこっちを見た。
本当は、菜箸ではなく売っていた丈夫で長い串を二本買っただけなんだがな。
菜箸で肉をひっくり返して見せると、三人は目をパチクリさせて俺を見てきた。
「お兄ちゃん、すごいです!」
「ハヤトにぃ、それどうやってるの?」
「何それ! やりたいやりたい!」
やり方を教えるも、箸の使い方に慣れていない上に、そもそも幼女の小さな手では菜箸をうまく扱えないようだった。
それでも、ぎこちなく肉をつかみ移し、誰一人取り落とすことなく肉を木皿に移すことができた。
ちなみに木皿もタゼウロンで買っておいたものだ。
予備を買っておいたから皿が足りないということはない。
キャーキャーとはしゃぐ幼女たちに和まされながら残っている肉を配っていき、いよいよ食べ始める。
クロネとミズクがフォークで肉を食べる中、ククラの分のフォークがないから、代わりに俺が菜箸で食べさせた。
嫌がるかな、と思ったが、ククラはすんなりと受け入れてくれた。
「お兄ちゃん、わたしもわたしも!」
「ハヤトにぃ……」
感化されて寄ってくるクロネとミズクにも同じように食べさせてやったりと、新しい仲間が増えた晩はとても楽しく過ぎていった。
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