第73話「ククラ」☆
化学やべえ(テストの話)
魔物の跋扈する洋館に、時折響く悲鳴の出所を突き止めようとしてやってきた地下。
その一番奥の部屋にいたのは、暗い赤色の服を着た五歳くらいの女の子だった。
「だ、誰?」
女の子は、腰まである長い金髪を揺らしながら勢いよく振り向いた。
その瞳は青っぽい銀色をしている。
そして、俺たちが人と見るや安心したように胸を撫で下ろした。
「女の子なの」
「怖い魔物じゃなくてよかったです」
こちらの幼女も安堵の息を吐いていた。
と、女の子が首を傾げているので自己紹介をしておこうか。
「いきなり押しかけてすまない。俺は、ハヤトだ。この黒髪の子がクロネで、この亜麻色の髪の子がミズクだ」
「ク、クロネです」
「ミズクなの」
「ミズク、クロネ、ハヤト……」
彼女は、俺たちの名前を繰り返していた。
「名前を教えてくれないか?」
知らない人に名前を教えたらダメだと教えられた、なんて言われたらどうしようと思ったがそんなことはなかった。
「うーんとね、どうしよっかなー。ククロ――は言いにくいからククラ! ククラって呼んで!」
むしろ緊張感のない人懐っこい様子で返事を返してきた。
「まさか、今決めた?」
「うん! ハヤトたちの名前から取ったよ!」
元気な返事は素晴らしいが、何というか……この幼女何者だ?
気配もそうだが、どうも普通の人とは違う気がする。
というか、俺の要素は母音くらいしかないじゃないか。
「そうだ、ハヤト! 手出してー」
ククラは、唐突に手をパーにして突き出した。
よくわからないが、同じように手を差し出した。
「繰糸契約」
彼女が何か唱えた次の瞬間、俺の右手の人差し指の根元が光に包まれた。
そして光が収まった後、そこには古めかしい指輪がはまっていた。
お、魔法か? 魔法なのか?
俺が好奇の目で指輪を眺めていると、彼女は俺の手に指を絡めながら握った。
「ハヤト、いや、マスター! これからよろしくね!」
「え? 何がよろしくなんだ?」
おい、ちょっと、いい加減よくわからないことが多過ぎるんだが。
マスターってなんだ?
いくら幼女でかわいくて正義だからって、唐突だとさすがに困るぞ。
「えっとねー、ククラのステータス見てみてー」
「普通は見られないはずだろ?」
奴隷の主人は、自分の奴隷のステータスを見ることができるが、それ以外は普通見ることができないはずだ。
「大丈夫だよ! マスターのステータスから確認してみて」
いろいろ腑に落ちないが。言われるがままステータスを確認すると、俺、クロネ、ミズクの他にもう一つステータスがあった。
「あれ、本当に見られるな」
「でしょ?」
――――――――――――――――
ククラ
偶人 女
職業:《村人lv.14》
スキル:
《魔力吸収lv.2》
《傀儡操作lv.2》
――――――――――――――――
名前は……まあククラだよな。
そして種族なんだが、
「偶人?」
人形ってことか?
目線をククラに向けると、彼女はスカートの裾を摘んで、その腕をさっと上にあげた。
この行動が読めない幼女は、たくし上げまでするのかと思いながら目を逸らさないでいると、あることに気がついた。
「膝が……」
彼女の膝は普通の人の膝ではなく、球体関節だった。
「見ての通りククラはドールなの〜。ドールって種族は、操者を探してるんだ~」
「マスター? それはどうしてだ?」
「わかんなーい」
「それじゃあ、この指輪は?」
「それはマスターの証だよ」
「へぇー」
なんか出会い頭に幼女のマスターにされてしまったんだが。
指輪をよく見るために抜こうとして、
「あれ? 抜けない?」
どうしよう、指輪はピクリとも指の根元から動かない。
「あ、シリングリングは絶対抜けないんだって~」
「まじかでか」
「まじだよ~」
こうして俺は、謎の幼女ククラのマスターになったのだった。
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