第72話「地下」
気配察知スキルは、屋内のような閉じた空間だと途端に感知範囲が狭くなる。
扉でかなり気配が薄れてしまうのだ。
しかし、それでも魔物に不意をつかれたりすることはなく、探検を始めてから二時間ほど経った。
それまでに出会った魔物は、十体。
いつも倒している数よりは少ないが、家の中にいる魔物の数としては多いのではないだろうか。
まあ、どいつも水魔法の聖水球で一発KOだったが。
最初に倒したケープゴートがいた、一階のエントランスホールを見下ろせる廊下を探索していた時、また悲鳴が聞こえてきた。
「ハヤトお兄ちゃん、この悲鳴何なんでしょうか」
クロネは、俺の腰にしがみつきながら不安そうに言った。
確かにこの悲鳴は、突然響いてびっくりする上に、聞いていて不安になる。
「声の主を探してみるか」
この館にいるのは、冒険者くらいだろうから魔物の可能性が高いが、水をぶつけただけで浄化されてしまうモンスターは、いささか手応えがなさすぎる。
魔物だったなら望むところだ。
俺たちは、悲鳴の聞こえてきた方に歩き出した。
◇◇◇
そして屋敷の地下にやってきた。
ミズクの聞き分けスキルは反響する音も正確に捉えていた。
実は、地下はまだ探索していない場所だ。
壁は赤いレンガでできていて、床には大きめのタイルが敷き詰められている。
そのため、歩みを進めるたびにくぐもった足音がひびく。
「ハヤトにぃ」
「ああ」
暗闇の中からぬぅっ、とケープゴートが姿を見せる。
クロネは、もう悲鳴をあげたりはしないが、俺にしがみつく腕に力が入った。
動きにくいが、俺には関係ない。
水魔法を当てるだけの簡単なお仕事です。
「ギュオオォォ……」
ケープゴートが煙のように消え、赤い石が音を立てて石の床に落ちた。
赤い石を回収しようとした時、気配察知に気になる気配が引っかかった。
(これは……「人」の気配か?)
その気配は、人の気配にも似ているが人間の気配でもクロネやミズクたち獣人のものでもない。
すべての獣人を知っているわけでもないが、今感じる気配は、人間やエルフのそれを挟んで獣人の反対側にあるような気配だ。
おそらくこの気配の主が悲鳴を上げている本人ではないだろうか。
「二人とも、多分この先に悲鳴の主がいるぞ」
「は、はいっ」
「誰か襲われてなければいいの」
ミズクの言う通りだ。
しかし、何回も悲鳴が聞こえるということは、ずっと生き残っているということだ。
今まで会った事のない存在であることは間違いない。
廊下に並ぶ扉を一つ一つ開けて中を確認していき、とうとう突き当たりの部屋までやってきた。
この部屋にいることは気配で分かっていたが、やっぱりホラーと言ったら、最後の最後に主人公の隠れている扉を開けるのが定石だろう。
ん? それだと俺が鬼とか悪霊みたいだな。
まあ、楽しめたらなんでもいいな。
俺は、ドアノブを回し、押した。
キィィ……と、ドアが軋んだ音を立てながら開く。
そして中にいたのは――
「だ、誰?」
金髪の小さな女の子だった。
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