第70話「カタストロフ」
雨のザーッって音を聞いて寝ると翌朝の目覚めがいいのだけど、何か関係あるのだろうか?
北に向かって進むこと一時間。森を抜けて高原に出た。
「ここがカオーカスト高地か」
「すっごく広いですね」
ぱったりと森が途絶えていて、草以外はほとんど生えてないから、とても見晴らしがいい。
緩やかな斜面を少し登って見渡してみると、高原のなだらかな起伏が波のように広がる光景が見られた。
「すぅーーーー……はぁーーーー……」
俺は思わず深呼吸した。ものすごく新鮮な気分だ。
「すぅー……はぁー……」
クロネも俺の真似をして深呼吸していた。
うん、真似してくる幼女って可愛いよな。
クロネの可愛さにしみじみしていると、遠くに建物があるのが見えた。
おそらくあれがホーンデットマンションだ。
カオーカスト高地に他の建物はないと聞いたから間違いない。
「よし、二人とも、向こうに見える建物まで競争だ!」
「は、はい!」
「え? ちょ、ちょっと待ってなの!」
もちろん本気で走ったりはしない。
とててと走るクロネと並走する。
うん、走っている幼女の横顔もいいものだな。
ミズクを振り返るともう五メートルほど差が開いていた。
しかしこれは、ミズクが遅いのではなくクロネが速いのだ。
すぐさまミズクの隣まで行き、
「ハヤトにぃ⁉︎」
走っているミズクを抱き上げてクロネに並んだ。
「あーっ! ミズクずるいです!」
クロネは楽しそうに笑いながらミズクを責めた。
ミズクは最初こそ戸惑っていたものの、
「(ずるくないの)」
小声でそう言うと、俺の首に手をまわした。
クロネが途中で息を切らし始めたから走るのをやめ、それからは息を落ち着けながらゆっくりと歩いた。
え? 競争なんてなかったよ?
ちょっと走りたい気分だっただけだ。
◇◇◇
「すごいな……」
「大きいです……」
「なの……」
ホーンデットマンションは豪邸というだけあってとても大きかった。
俺たちはまだ門のところにいるのだが、玄関まで三十メートルは優にある。
「すごく綺麗な洋館だったんだろうな」
鉄製の細かい細工が施された門や庭の跡からそう推測できるが、今はイバラが繁茂していて荒れ放題な状態だ。
人影は無いけど、冒険者の狩場の一つであるからか門が開け放たれていて、イバラも館の入り口までは刈られている。
「何でこんなことになってるの?」
「ああ、それはな——」
このイロエリスという世界には様々な厄災がある。地震や土砂崩れもそうだが、この世界ならではと言えるものに大変動という厄災がある。
カタストロフとは、魔物の湧き方が変わってしまうことで、一般的には今まで魔物が湧かなかった場所に魔物が湧くようになることを指すことが多い。
太古の国でカタストロフによって滅びた国もあったという。
森や平原だけでなく、遺跡の中や建物の内部という狭い範囲でもカタストロフは起きることが珍しくなく、ホーンデットマンションもそうやってできたものだ。
もともとはとある貴族の秘書のための別荘だったらしい。
因みにこれらはすべてネウスからの情報だ。
「ここがホーンデットマンションと呼ばれているのは、ゴースト系の魔物が出るからだ」
「ゴースト系ですか?」
「ああ、簡単に言えばお化けだな」
「お、お化けですか……」
「どうした、お化けが怖いか?」
「は、はい……」
「大丈夫だ。俺が付いているから」
「お、お兄ちゃん……!」
クロネの頭をよしよしして安心させつつミズクを見ると、こちらはどうとも無いようだった。
まあ、お化けを怖がっていたら夜の見張りなんて出来ないもんな。
なんて思いながらミズクを見ていると、足が震えていることに気がついた。
「ミズク?」
「ひゃ⁉︎ ひゃに⁉︎」
「ミズクもお化けが怖いのか?」
「す、少しだけ、少しだけなの!」
俺は思わず微笑んだ。
やばい強がるミズク、超可愛い。
ミズクによると夜や闇が怖いわけではないがとにかくお化けが怖いらしい。
「俺が付いてるから大丈夫だぞ」
「う、うん」
俺は安心させるように強く言い切りながら、洋館の入り口に向かい始めた。
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