第64話「ろりろり」
クロネのレベルが15に、ミズクのレベルが12に上がり、ちょうどいい時間になったから町へ戻った。
一先ずは俺が納品して今日受けたクエストの半分を終えてギルドを出て、少し時間が経ってからクロネとミズクを送り出した。
……しばらく待つが二人がなかなか帰ってこない。
いや、そんなに時間は経っていないはずだ。
不安になっているから長く感じているだけなんだ。
……それにしても長いような気がする。
もしかして何かあったのだろうか。
二人とも獣人だし、主人が近くにいないところを狙って――ということもあるかもしれない。
そう思うと不安が一層強くなった。
ああ、こんなことなら目立ちたくないとか言わずに自分でクエストを受ければよかった。
『加護 《ろりろり》を会得したのです』
不安でそわそわしていると頭に幼女の声が響いた。
幼女の声に含まれる鎮静成分が、恐慌状態にあった俺を落ち着かせた。
(とりあえず十秒数えて帰って来なかったら見に行こう)
そう決めてカウントダウンを始めた。
カウントダウンの途中で二人がギルドから出てくるのが見え、俺は安堵の息を吐いた。
「二人とも、何か言われたりされたりとかしなかったか?」
「大丈夫でした」
「お金の受け渡しもスムーズだったの」
普通に納品して、普通に報酬を受け取って、まっすぐ戻ってきただけだという。
俺の心配しすぎだったようだ。
さて、また名前のよくわからない加護を会得していたな。今度はなんだろうか。
加護の内容を確認する。
――――――――――――――――
《ろりろり》
幼女のことを呆れるほどひどく心配した証。
世の中そんなに悪い人ばかりじゃないよ。
庇護下の幼女の運気が上がる。
――――――――――――――――
はい、すいません。
もうちょっと世間の人を信用します。
ギルドの建物の中でギルドの方針に背くような真似をするやつなんてそうそういないよな。
しかし、二人が無事だったのは運が上がったからだという考えはどうしても残る。
加護を会得したのはほとんど出てくる直前だったわけだが、物理法則がめちゃくちゃなこの世界のことだ、観測者がふたを開けるまでは結果が決定しない、シュレーディンガーの猫が実在しても不思議ではない。
どちらにせよ、神のご加護なのだから感謝しておいてもバチは当たらないだろう。
神と幼女にあふれんばかりの称賛を!
◇◇◇
その後五日に渡って毎日二百に届かないくらいの魔物を狩った結果、全員のレベルが19になった。
18になったあたりからレベルが一日で上がらなくなり、そのあたりからミズクにとどめを刺させるようになった。
その間、コボルトとスライムの気配の区別がつくようになり、気配察知のレベルが3に上がった。
スライム相手だと、槍や弓などの刺突系の攻撃は受け流されてしまい、クロネたちには倒せないからコボルトばかりを狙うようになり、その頃から冒険者の間でスライムばかりに出会うという文句の声が聞こえてくるようになった。
スライム大量発生か? と噂されるようになり、ネウスに「やっぱり前にハヤトが言ってたのはこの大量発生の前兆だったんだな」と言われ、俺はただ苦笑いを返した。
また、この五日間で武術系スキルのレベルも上がった。
俺の《短剣術》とミズクの《槍術》はレベル2に、クロネの《弓術》はレベル3に上がった。
兄性のおかげで幼女二人のスキルの成長が早い。
クロネの上がり方が大きいのは、よほど適性があったということだろう。
弓術レベル3から使えるようになるという鉄の矢を与えたところ、すぐに使いこなしていたくらいだしな。
鉄の矢の威力は凄まじく、遠方にいるコボルトを曲射であっさり倒せるようになった。
「レベルも上がりにくくなってきたし、そろそろ次の街に行こうか」
街に戻る途中二人にそう尋ねる。
「迷宮市街ですか?」
「ああ」
「いよいよなの」
「楽しみです!」
よし二人とも乗り気なようだ。
明日の昼までに準備を済ませて、それから出発するとしよう。
◇◇◇
「ヨォハヤト。随分腕のいい奴隷を持っているみたいじゃねぇか」
「誰だお前」
ギルドで魔物を納品していると、いかにもチンピラと言わんばかりのガラの悪い男が声をかけてきた。
「オレはロブだ」
「エロ豚?」
「ロ、ブ、だっ! テメェ死にテェのか?」
「いや、すまない。聞き間違いだ」
「とりあえずハヤト、面ァ貸せ」
「分かった」
うん、めんどくさいことになりそうだ。
ここで断ったところで引かないだろうしとりあえずついて行くか。
「ご主人様、どうしたんですか?」
男とともにギルドを出ると待機していたクロネが声を掛けてきた。
「ああ、この男が俺に用事があるらしい。そうだ、ロブだっけか。こいつらも一緒じゃダメか?」
「あア? ……いいぜ」
男は少し悩んだ後、ニタっと笑みを浮かべた。
俺もニヤリと笑う。
断られなくて良かったぁ~。幼女が近くにいないと、もしもの事態が起きそうな今、すぐにやられてしまうだろうからな。
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