第55話「暗くなるにつれて」
右側の欠けた弓なりの月が西の空に浮かんでいた。
前世でいう「有明の月」の欠け方だが、出る時間は有明どころか三日月のそれである。
ここが地球でないことの天文的な証であるが、生活の上ではまったく問題にならない。
太陽のある側が欠けていても、高さに関係なくずっと同じ角度でも、気にするのは一部の人間だけだろう。
「さて、そろそろ寝る時間だな」
夕ご飯を食べ終わって、二時間ほど経ち、寝るのにちょうどいい時間だ。
「わーい。ハヤトお兄ちゃん、早く寝ましょう」
「悪い、クロネ。今日はミズクと二人で寝てもらう」
「え、どうしてですか?」
「三人だと狭いだろ?」
「ハヤトにぃ、ミズクは床で寝るの」
「それはダメだ。かわいい女の子を床で寝かせる訳にはいかない」
「かっ、かわいいの……?」
昨日は気づかなかったが、夜になって空が暗くなるに従って、眠たそうだったミズクの目が、ぱっちりと開いていくのだ。
このギャップがたまらん。
「クロネは、ハヤトお兄ちゃん一緒ならチェストの中でもいいですっ」
いや、それは俺が入れないから。
「でもミズクは、嫌だろ?」
「嫌じゃないの」
「まじ?」
「まじなの」
結局三人で寝ることになった。
俺の左隣にクロネ、その左にミズクだ。
川の字というよりは、鏡文字の「ツ」である。もちろん俺は、字の如く反ってはいないが。
ミズクが壁際だが、これは俺が先に起きた場合、二人を跨ぐことになるのを避けるためだ。
二人に跨がれるのは、避ける理由もないしな。
むしろ嬉々として受け入れる所存であり——ゲフンゲフン
奴隷と主人であるのが、唯一の問題ではあるのだが。
「お兄ちゃ〜ん」
「はいはい」
抱きついてくるクロネの頭を撫でる。
最近は、クロネは俺の上にうつ伏せになって抱きつくことが多くなってきた。
寝苦しいこともない。むしろ温かくて落ち着く。
「二人ともお休み」
「おやすみです」
「おやすみなの」
月が沈む頃には、三人とも夢路についていた。
◇◇◇
夜明け前、自然に目が覚めた。
最近、日が暮れてからしばらくしたら寝る上、早起きが習慣化しているから、自然に目が覚めることが多くなってきた。
手を動かそうとして何かが触れていることに気がついた。
「ん? クロネじゃないよな……」
クロネは俺の上で、よだれを垂らして眠っている。がっちりと俺をホールドしていて簡単には離してくれない。
手に触れたものを確認すると、それはミズクの手だった。
左右の小さな手が俺の左手を掴んでいた。
「……やっぱり寂しかったんだな」
起きるのはもう少し後でもいいかと思い、安心した顔で眠るミズクをしばらく眺めた。
◇◇◇
起きてから三十分ほど経ち、おはようじょによるモーニングコールが鳴ったから、クロネとミズクを起こす。
ミズクは、起こすとすぐに目を覚ました。
「おはようなの」
「ああ、おはよう」
次にクロネを起こしにかかる。
「クロネ〜朝だぞー」
「ん、……んぅ……」
クロネは普通に声を掛けただけでは起きない。
今度は、声を掛けながらやわらかいほっぺをつんつんとつつく。
「にゃ……ハヤトお兄ちゃん、おはようございます」
「おう、おはよう」
最近気づいたが、クロネは、ほっぺをつついたときとつつかないときで、目覚め方が全然違う。
そして、日に日にその差が大きくなっているように思える。
起こしてもらうことに慣れると、自力で起きられなくなると言うが、そういう話でもない気がするのだ。
まあ、特に手がかかるわけでもないし、何よりかわいいから気にしていないが。
ミズクにラジオ体操を教え、食前の軽い運動をする。
目の前で慣れた動きでラジオ体操を体操をするネコミミ幼女。
その隣で少し戸惑いながら動きを真似しているミミズクミミ(?)幼女、略してミミミミ幼女。
いやぁ、萌えるねぇ。
さて、本日の予定はどうしようか。
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