第52話「椅子」
クロネに、ミズクの気持ちを聞くように耳打ちした。
そしてクロネを離すが、クロネはその場に留まった。
「あの、一緒に座ってもいいですか?」
ダメとは言わないが、一人用の椅子だぞ?
「ああ。なんなら膝に座るか? 嫌なら別に構わんが」
「ぜひ座らせてくださいっ!」
俺の膝にクロネの柔らかい重みが加わった。
眼下にある、手触りの良い黒髪と可愛らしい猫耳。
クロネは最高だなぁ……。ついつい頭を撫でてしまう。
富豪が椅子に座って猫を撫でるような気分。
心がリッチになる。
「にゃぁ〜〜〜〜♪」
猫耳が気持ちよさそうにぴこぴこと動く。
「ハヤトにぃ、聞いてもいいの?」
「ん、なんだ?」
「ハヤトにぃとクロネさんはどういう関係なの?」
「ん? 主人と奴隷だぞ?」
一応な。
間違ってもロリコンと幼女とは言わない。
「とてもそうは見えないの。親子か妹兄みたいなの」
「まあ、奴隷として扱う気がないからな。ミズクもそうだぞ。俺たちだけの時は奴隷然に振るまわなくていいからな」
「わ、わかったの」
自分もと言われて驚くミズク。言ったはずなんだけど、やっぱり信じられないんだろうか。
「でも、さすがにご飯を三人前頼むのって不自然だよな……」
俺は、人前では周りに合わせているから、堂々と奴隷の食事を頼むのは控えようと決めている。
「おかしくないの。前のご主人様の仲間は、いつも五人前食べてたの」
「五人前⁉ まじか⁉︎」
「まじなの」
そうか……そんな人がいるなら案外バレないのかもしれない。
俺は少し安心した。
◇◇◇
「少し出かけてくるよ」
「わたしも一緒に……」
「いや、すぐに帰るから、二人で待っていてくれ」
ミズクの分の身体を拭くタオルを買いに行くだけだ。
それと、血の牙獣宮亭では借りていたクロネの分の食器具を、ミズクの分と合わせて買うつもりだ。
量でバレなくても、食器具でバレると気づいてしまったのだ。
血の牙獣宮亭では言わずもがな、レヤンドカでもバレてしまっているだろうが、そこは諦めて、次に備えようと思う。
「クロネ、さっきのこと頼んだぞ」
「は、はいっ」
そして俺は、二人を残して宿を出た。
さて、一人で行動する時に気をつけないといけないことは、
俺は、幼女が近くにいないと弱くなる
と、いうことだ。
ロリコンlv.10というのは、どれくらいの強さなのだろうか。
村人と同等に考えているが、それより強いかもしれないし、弱いかもしれない。
幸い、神殿を中心とした平和な町だから、通りで絡まれたりはしないが、他所だと注意しなければならない。
ミズクのタオルと、三人分のカトラリー三種セットを買い、しばらくぶらぶらする。
「お、これは……」
一つの店先でレモンの蜂蜜漬けを見つけた。
「結構な値段だが、二人へのお土産にいいな」
俺は、けん玉の玉くらいの大きさの瓶に詰まったそれを一つ買い、320エソを支払って宿へと戻った。
◇◇◇
宿に戻ると、宿屋の店主に驚かれた。
「おや、あんた出かけてたのか?」
「ああ、何かあったのか?」
「いや、あんたのとこの奴隷が泣き叫んでいてね。どんな酷いことをしているのかとひやひやしてたんだけど、違ったみたいだね」
泣き叫んでいただと?
俺は、急いで部屋に向かった。
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