第49話「いただきます」
俺は自分のパンを焼いて、待っていてくれたクロネと朝ごはんを食べ始める。
「いただきます」
俺がそう言うと、ミズクが身を乗り出してきた。
「ハヤトにぃ、それは人間の挨拶なの?」
「いや、俺の故郷の挨拶みたいだな」
「へぇ、どんな意味があるの?」
「確か、『譲り受けます』とか『頂戴します』とかそう言う意味だ。『大切にします』っていう想いが込められている」
「へぇ〜、ミズクたちと一緒なの」
「そうだな、食べ物への感謝は大切だもんな」
特に、この世界に来て狩りをするようになってから一層そう思うようになった。
二人でそんな話をしているとクロネがしがみついできた。
「わ、わたしも挨拶欲しいですっ」
焦ったような表情を浮かべるクロネ。
「じゃあ、『いただきます』にするか?『神様を敬愛します』でもいいぞ?」
「じゃあ二つを組み合わせて——」
クロネは、手を合わせて顔の前に持っていく。
「ハヤトお兄ちゃんをいただきますっ!」
俺喰われるのっ⁉︎
結局、クロネは俺と同じ挨拶を選んだ。
◇◇◇
朝ごはんを食べ終わって、動き始める。
「俺たちは冒険者になって日が浅いんだが、こんな時どうすればいいんだ?」
ミズクの元主人達のことだ。
「装備を拾って、いらないものはギルドに売るの」
「まじでか」
「まじなの」
というわけで現場に向かってみる。
「うわ……酷いな」
昨日は見えなかった、たくさんの血痕が残っていた。
土が赤いのだ。
昨日あった死体は消えていた。
おそらく魔物に喰われたのだと思われる。
そして少し離れたところにテントの形跡があった。
二本の木にロープが渡されていて、その上に切り裂かれた布がぶら下がっていた。また、近くには四つの杭が長方形を作るように打たれていている。
おそらく糸の上に布をかぶせ、四つの角を地面に固定したテントだろう。
中には冒険者の荷物が転がっていた。
そこにミズクは躊躇いなく入っていき、荷物の中を漁っていた。
自分の荷物を探しているのかと思いきや、持ってきたのは冒険者たちの金貨や剣、杖、香辛料だった。
「使えるものはこれくらいなの」
遺品は、すべて拾った人の物になるというわけか。
まあ、冒険者なんてそんなものか。
「どうする? 仇を討ちに行くか?」
ミズクの気持ちを考えてそう言ったが、
「必要ないの。長い間一緒にいたけど、あの人たちに思い入れは無いの」
意外となんとも思ってなさそうだった。
何かあるたびに命乞いをしなければいけない相手が死んで、清々することはあっても、仇を討ちたいとは思わないか。
「じゃあ町へ戻るぞ」
俺たちはその場を後にした。
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