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職業(ジョブ)がロリコンでした。  作者: とおか
三章「タゼウロンの町」
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第48話「にぃ」

そして翌朝。


火と幼女二人を起こし、朝ご飯の準備を始める。


「あの、ご主人様、ミズクも手伝うの」


「いや、いい。主人を失ったばかりだしまだ休んでいてくれ。それと俺たちだけの時はハヤトでいい」


「さすがに呼び捨てはダメなの」


「ハヤトお兄ちゃんはどうでしょう?」


「ハヤトお兄ちゃん……」


俺は興奮、もとい高揚した。


ミズクの声は若干ハスキーで、クロネの活気のある明るい声とはまた違った魅力がある。


是非もう一度お兄ちゃんと呼んでほしいと、邪な気持ちが起こる。


しかし幼女に向かって「お兄ちゃんと呼んで」と言うのはどうだろうか。


犯罪者の仲間入り(お巡りさんさんこっちです)である。


「長いから、『ハヤトにぃ』って呼ぶの。いい?」


おおぅ、ヤバイヤバイ。


何がヤバイって、俺の鼻がヤバイ。


ヒールヒールっと。


「ああ、好きに呼んでくれていい」


「んっ、ハヤトにぃ。これからよろしくお願いします」


ミズクは、ぺこりとお辞儀をした。


「そうだミズク。喉を痛めていたりはしないか?」


声が掠れているだけかもしれないから、聞いてみる。


「? 大丈夫なの。でも喉は渇いてるの」


そういえば昨日から何も飲ませてないな。


俺は水魔法で水球をつくり出して、ミズクの前に浮かべた。


「! ハヤトにぃは魔法使いなの?」


「いや、魔法使いではないぞ」


「そうなの? なんの職業(ジョブ)なの?」


「ひ、秘密だ」


と、思ったがクロネはもう知ってるんだよな。


「――と思ったけど、クロネに聞いてくれ」


だが、自分で宣言するのは避けさせてもらおう。


「実はですね! ハヤトお兄ちゃんの職業は神殿の人も知らないような職業なんですよ!」


クロネが水を得た魚のようなテンションでミズクに説明し始めた。


まるで自分のことのように嬉しそうだ。


「ハヤトお兄ちゃんはロリコンなんです!」


その言い方は止めてくれ、クロネ。これなら自分で言った方が良かったかもしれない。


「ロリコン……聞いたことのない職業なの」


ミズクからは尊敬の眼差しが向けられるが、素直に誇れない。


もちろんロリコンであることに誇りを持ってはいるが、それとこれとは話が違う。


「俺自身この職業についてはよく知らないから、聞かれても答えることはできない」


「分かったの。でも、凄いの。………………(この人は、当たりなの)」


何かボソボソ言っていたが、特に何かを言い出す感じでもなかったから、俺は水を飲むよう促した。



「さて、そろそろ朝ご飯にしよう」


今日はパンを加熱してみようと思う。


食パンもトーストした方が美味しいしな。


前世のパンは焼かずとも美味しいが、この世界のパンは小麦くさいから、うまく焼くとかなり美味しくなるはずだ。


焚き火の上の、立ち上る熱気の中でパンを加熱する。


はじめにできたものをクロネに渡し、次をミズクに渡した。


「えっと……、これはどうしたらいいの?」


ミズクは、熱々のパンを手の中で跳ねさせながら困惑の表情を浮かべた。


「ああ、それはミズクの分の朝ごはんだ。ご飯の時には、ミズクの分を用意するから、それを食べてくれ」


「い、いいの?」


「ああ、そういう方針なんだ」


すると、ミズクはパンを眼前に掲げ、


「ハヤトにぃ様をけいあいします」


祈るようにそう言った。


そして何事もなかったようにパンを齧った。


「どうした、突然?」


「これは、食べる前の挨拶なの」


ふむ、マインやその家族は別に何も言っていなかったが……


「それは種族の決まりか?」


そう言うと、ミズクは怯えた目になった。


「ダメ、なの?」


「いや、ダメじゃない。ただ、興味があっただけだ」


ミズクがホッとしたように肩の力を抜いた。


「本当は『神様をけいあいします』なの。前のご主人様が、主人のことを敬愛しろと命令したの」


「その命令はまだ残っているのか?」


「ううん、残ってないの」


「それなら神様の方を言えばいい。俺は自分を敬うように、なんて言わないから」


ミズクは目を丸くした。


「梟人の神様なの。嫌じゃないの?」


「ああ、好きにしていい」


にこりと微笑むミズク。


そこにクロネが割り込んできた。


「ハヤトお兄ちゃん、ミズクさんに言いたいことがあるんですけど、いいですか?」


「ん? 何だ? 言っていいぞ」


クロネは、くるりとミズクの方を向く。


「ミズクさん。お兄ちゃんが優しいからって、お兄ちゃんが食べ始めてもいないのに先に手をつけるのは良くないです」


怒った様子でミズクに言った。


そういえば、俺はまだ自分のパンすら焼いていない。


「ああ、確かに。せめて一旦全員が揃うまで待っていてほしいな」


ミズクの顔がはっ、となった。


「ご、ごめんなさい! 罰なら何でも受けるのっ、だから命だけはっ」


「いやいや、そんなことで罰しはしないぞ。ただ、種族の慣わしであっても、食べるのは待っていてくれ」


「違うの。梟人もみんなで食べるの。ただお腹が空いてたの……」


しゅんとうなだれるミズク。


お腹が空いていた、か。


ならちゃんと食べさせてやらないとな。


「まあ、次から気をつければいい」


「ごめんなさい……」


それから俺は、自分のパンを焼き始めた。

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