第43話「深夜テンション」
四時間ほど眠り、十一時頃に町を出た。
俺の気配察知で魔物を避けながら、夜営に適した場所を探して移動する。
途中で薪にするための木の枝や落ち葉を拾うのも忘れない。
と言っても、昨日この森を駆け回った際に良さそうな場所を見かけたから、そこを目指している。
クロネの空間把握で大体の距離と方向は分かるから、非常に楽だ。
「ん? ここか? ……多分ここだな」
夜営と言っても、毛布に包まって寝るだけだから、テントを張るような広さは必要ない。
俺が重要視しているのは、焚き火ができる程度の広さがあることと見晴らしがいいこと。
ただでさえ木で見晴らしが悪いのに、窪地なんて論外だ。
「ありがとう、クロネ」
「はいっ!」
案内をしてくれたクロネにお礼をいう。
草の少ない場所を選んで草をむしり、少し掘って薪を置く。
日が沈む前に水球レンズで太陽光を集めて火種を作る。
落ち葉をすり潰して火が着きやすくしたものから徐々に火を大きくしていく。
三十分ほど使って火起こしを終えた。
「ふぅ、結構速くできたな」
朝夜それぞれ三回、計六回も火起こしをすれば、それなりに上達するものだな。
「ハヤトお兄ちゃーん! スライムがー!」
食べ物を探しに行っていたクロネが叫びながら戻ってくる。
しかし、緊迫感はない。逃げていると言うよりは誘導している感じだ。
「ふっ!」
力を込めた一撃でスライムを真っ二つにして倒す。
「クロネ、怪我は無かったか?」
「えっと、ちょっと木で切っちゃいました」
しゃがんで近くで見ると、太ももに引っかいた線が赤く入っていた。
「結構擦ったな……。ヒール」
魔法で怪我を治し、傷を消す。
クロネの白くて綺麗な太ももに戻った。
念のために触って(他意は無い)傷が無いことを確認して、クロネに治療が終わったことを告げ、立ち上がる。
「ありがとうございます」
「おう」
「それと、ハヤトお兄ちゃん」
「ん? なんだ?」
「今日はこれだけ採れました」
クロネは採った木の実などを入れた服の裾を持ち上げ、上目遣いに俺を見る。
うおう、ヘソチラ萌え〜
俺の煩悩はさておき、クロネの求めているのは分かる。
「おおっ、すごいじゃないか。ありがとう、クロネ」
「えへへ〜」
頭をわしわしと撫でてやる。
クロネは、首をぐらぐらさせながら、にへっと笑った。
癒されるなぁ。
採ってきたのは、たくさんの野いちごだった。
動物は狩っていないから、今日の晩ご飯は、干し肉と買っておいたパンとそれになる。
火を起こしたのは、単に夜の明かりのためだ。
◇◇◇
おはようじょのタイマーで仮眠から目を覚ました。
「お兄ちゃん、おはようございます」
これはクロネだ。昼寝したおかげで前のようにふらふらにはなっていない。
「お兄ちゃ〜ん、ぎゅー」
「お、おいっ!」
「ん゛〜〜〜」
顔を埋めてうめき声のようなものを上げるクロネ。
ふらふらにはなっていないが、なんかテンションがおかしかった。
甘えスイッチが入った時に似ているが、少し違う。
まさか深夜テンション?
幼女にも深夜テンションがあるのか?
戸惑っていると、不意にクロネが身を乗り出してきた。
「お兄ちゃん、——ちゅっ」
頬に柔らかいものが触れる。
「——え?」
「えへへ、大好きの印をしちゃいました……」
「え——今のは————」
まさか、いや、そんなはずはない。
いや、でも確かに触れたような。
ええええええええええ⁉︎
「ク、クロネ、いきなりどうした?」
「別にいきなりじゃないですよ? お兄ちゃんは会ったときから好きでした」
この「好き」が恋慕的な意味を持たないことは分かる。
懐く的な意味での「好き」だろう。
そこに勘違いの余地はない。
おそらく頬へのキスも、似たような感じだ。
チンパンジーでも愛情表現でキスをするくらいなのだから、割と単純な好意の証なのだから。
俺が動転しているのは——
(これは、ふ、ふふぁファーストキスになるのだろうか)
ということだった。
疚しいこともないが、何と言っても初めてのことなので、狼狽せずにはいられなかった。
「いや……でしたか?」
クロネが不安そうに聞いてきた。
嫌なわけあるか! クロネみたいな可愛い女の子にされて嫌なはずがない。
「いやその、初めてだったから驚いてしまったんだ。むしろ嬉しい」
正直に言った。
「初めてですか……わたしも、初めてです。」
クロネは嬉しそうに言った。
俺は、クロネのファーストキスを貰ってしまったのか!
あれ? ファーストキスになるのって、した方? された方? それとも唇にした時だけ?
と、とにかくクロネのファーストキス(自発)は、ゲットしてしまったわけだ。
嬉しくないといえば嘘になる。
むしろ絶頂だ。
クロネが好いてくれているという印だしな。
でも、少し罪悪感というか、後ろめたさがある。
いや、俺がさせたわけでもないから感じる必要はないはずなんだけども。
その時脳内に声が響いた。
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