第39話「精霊の話」
神官は、長椅子に座る俺たちをしばらく無言で見つめた。
静寂が部屋を満たす。
「まず、あなたの善行をお褒めしましょう」
神官が唐突に口を開いた。
「善行?」
俺、教えの機会を利用しようとしてる奴なんだけども。
「そちらの娘は、奴隷ですね? あなたがどのような人かは、彼女を見ればわかります」
俺はクロネを見る。
なるほどわからん。
「その子の肌や体つきを見れば食べ物をしっかり食べていることが分かりますし、髪や服を見れば綺麗な環境で生活していることが分かります。また、あなたの隣に腰を下ろす動きを見るに、その子は、あなたをとても信頼している。
そしてあなたも真ん中に座るわけではなく、その子が腰を下ろす場所を空けて座りました。彼女を酷く扱ってはいないということです」
この神官すごいな。
「しかしあなたにも悪行があります」
なんぞ⁉︎
思わず背筋が伸びる。
神官がくすりと笑う。
「一つはものの取り扱い方です。あなたが武器を預ける際、箱の上の少し高い所から落としましたね。また、剣を見てみましたが手入れを全然していませんね? あなたは物の扱い方がなっていません」
おーう、よく見られているな、本当に。
俺は、スマホとかでもよく投げていたからな。
あ、もちろんぶん投げていたわけじゃ無いぞ? 部屋の入り口からベットの上にとか、二十センチほど離れた机の上にとかだ。
剣の手入れは……正直念頭になかった。
壊れるまで使うって考えてたな。
「精霊様は優しい方を好みますが、物を大切に扱わない方は好まれません。ですからどうか人も物もどちらも大切になさってください」
神官の言葉にふと疑問を覚えた。
精霊様? 女神じゃないのか? てっきり女神フレイを信仰しているものとばかり思っていた。
「その、精霊様っていうのはどんなやつなんだ?」
「精霊様は、普段は水や火や風や土としてイロエリスに漂っておられますが、時折人の姿を伴って人前に姿を見せるのです」
その後、神話を聞いた。
大地は初めからあり、大地から植物が生まれた。植物は精霊を生み、実を与えて育てた。精霊は自らの子が欲しくなり人を生み出した。そして、人が飢えるのを防ぐため食糧として動物が作り出された。
そして人は死ぬと精霊様に連れられて精霊の世界に行くらしい。精霊の世界は精霊の数、つまり星の数だけあり、しかしそのどれもが同じ場所にあるという。
少しイメージが難しいが、善行を積んだ人も悪行を重ねた人も死後に精霊の世界で会うことができるが、一方は気持ちの良いそよ風に吹かれているのに対し、もう一方は業火に焼かれている、ということになるそうだ。
しかし、精霊は決して高次の存在ではなく、その証拠に、遊びに明け暮れて精霊界を追放されたのが妖精なのだとか。
精霊界を追い出されたため、一部の力を失い絶えず実体化しているらしい。
追放されて改善したのがフェアリーで、悪化したのがトリック・フェアリーであり、前者は人という括りの一種族であるのに対し、後者は魔物扱いになっている。
人も悪行を改善しないと魔物になる。だから清く正しく生きるべしという教訓で締められ、話は終わった。
「精霊や妖精は会えばわかるのか?」
「聖霊様は金色の髪に緑の服を纏っていらっしゃいます。ですから精霊を信仰するこの国の国旗は緑を基調としていますし、緑は貴い色とされ、私がた神官や、貴族にのみ着用が許されているのです。
また、妖精も金髪であることは変わりませんが精霊界から逃げ出した妖精もいるため緑の服を身に付けていないことがあります」
「どれくらいの大きさなんだ?」
「姿は大きくなったり小さくなったりいろいろと変わります」
「トリック・フェアリーだが、魔物なら倒さなければならないということか? いいのか?」
「ああ、やっぱりそう思いますよね。かつて精霊様が神殿に現れて、トリック・フェアリーはもう手に負えないから退治してしまって構わないと言われたんです」
精霊直々に許しが出たのか、それはまた、とんでもない話だ。
「なかなか熱心に聞いてくださってありがとうございます」
「いや、こちらこそ。教えが聞けてよかった」
それから俺たちは名乗りあった。
感想・ご意見・誤字脱字などなど随時受け付け中!
気軽に書き込んで行ってください!
できる限りコメント返します
ブックマークもお願いします!