第30話「旅立ち」
首輪を買い、今度こそ街を出る準備をする。
俺とクロネは防具屋に赴き、装備を一式揃えた。
俺が買った装備は、籠手とハード・ビートルの胸当て、ブーツ、青いレギンスだ。
ハード・ビートルは南の密林に出る魔物で、その名の通り硬い殻に覆われているらしい。
クロネの装備は、エナメル・キャタピラーのベストと脚絆だ。
エナメル・キャタピラーというのは、やはり南の密林に棲むイモムシで、光沢があり普通の刃程度なら軽く弾いてしまうような皮を持っているらしい。
二人分合わせて8160エソした。
そしてクロネも戦いたい、と言うから、武器屋で鉄のダガーナイフを二本買った。
二本合わせて860エソというのは破格だった。
できるだけたくさん戦ってレベルを上げたいから、クロネも戦うのには賛成だ。
クロネもいつまでも荷物持ちという役は嫌だろうからな。
後の出費はこんな感じだ。
干し肉六日分……270エソ
ラスク……240エソ
毛皮のマント(防寒用)……840エソ
タオル二枚……380エソ
火種の魔道具(使い捨て)十枚……80エソ
合計……1810エソ
現在の所持金は、1211エソ。内容としては11銀11銅1色だ。
干し肉を買ったのは、森うさぎを買ってもらっていた肉屋で、少し割り増しして貰った上に干し肉を入れる袋までもらった。
そして買う物を買った後は、今までお世話になった血の牙獣宮に挨拶をしに行く。
「え⁉︎ ハヤトさんこの街を出てっちゃうんですか⁉︎」
マインが悲痛な声をあげる。
「ああ。一週間と少しの間だが世話になった」
「う、うん。そうですよね! 冒険者なんだからいつまでもこの街にはいないですよね!」
マインは誰に向かってでもなく、妙に明るくそう言った。
しかしすぐにその明るさは消えた。
「でも、行って欲しくないって思うのは仕方ないですよね……?」
マインが寂しそうに言う。
「え? そんな風に思ってくれるのか?」
「うん。だってハヤトさんは私を始めて森に連れて行ってくれた人だし、それに……」
マインはちらっとクロネを見た。
「私にこんな優しいお兄ちゃんがいたらなぁって思っちゃったんだもん」
その言葉にクロネがぎゅっと俺の服を掴んだかと思うと、
「ご主人様の兄性は、すごいです」
おいおい、なんだ「兄性」って。
「あはっ、そうですね」
マインも同意するのか……
マインに対して何か特別なことをした覚えはないんだが。
せいぜいおしゃべりをした程度だ。
あ、そうか。歳が離れているから友達ではなく兄なのか。
それなら頷ける。
『加護《エルダーフラトリスネス》を会得しまちた』
なんだ? どうしてこんなタイミングで……
内容を素早く確認する。
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《エルダーフラトリスネス》
兄性を認められた証。庇護下の妹的存在のスキルの成長を促す。
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だからなんだよ兄性って!
名前へのツッコミはさておき、妹的存在の存在のルビだよ! 読まねえから!
スキルの、って限定してるあたりもさすがだな!
身体の成長は促さないのだから。
そこはGJだ。
俺は、溜息をついた。
「俺でよかったら兄とでも何とでも好きに思ってくれ」
口では遠慮してそういうが、本心は、
(少女のお兄ちゃん呼びって最高だよな。ぜひ呼んで欲しい)
なんて思ってたりする。
そういえば歳で思い出したが、マインにはまだ聞いてなかったな。
「そういえばマインは何歳なんだ?」
「九歳ですよ?」
九か。キュートの九だな。
なかなかいい数字だ。
ギリギリ一桁というのがなんとも素晴らしい。
まあ俺の言うロリの範囲は、十二歳までだが。
そこは人に依りけりだろう。
「それじゃあそろそろ行くよ」
「行ってらっしゃい。この街に帰ってきた時は、血の牙獣宮に来てくださいね」
「ああ、そうさせてもらう」
そうしてマインに見送られながら、俺とクロネは街の門に向った。
今回で二章は終了となります。三章に入る前に小話を挟みます。
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