第29話「首輪」
壁の修理が終わった血の牙獣宮にもう一日泊まった、翌日。
森うさぎや採取の依頼を受け、2140エソを稼いだ後、俺たちは奴隷商にやってきていた。
「このように仕上がりました」
小太りのおっさんが合図をすると、綺麗な女の奴隷が注文していた首輪見せた。
「うん、いいだろう」
それは首輪というよりチョーカーと言い表した方がいいものだ。
薄く手触りが良いが頑丈な革でできており、色は、角度によっては黒に見えるような青色だ。
そして首の前に来る部分には銀製のハートがぶら下がっている。
本来奴隷の首輪は、切れないようにとても頑丈に作られていたが、奴隷紋の登場により首輪の軽量化及び低価格化が可能になった。
同じ首輪なら軽くて可愛い方がいいだろう。
そう思って注文したのだ。
「いい技師を持っているようだな」
「いえいえ、それほどでもございませんよ」
「それじゃあ首輪をつけてもらおうか」
「かしこまりました」
小太りのおっさんに指示されて、女の奴隷がクロネの首に首輪をつける。
「それではこちらに血を垂らして契約を結んでください」
俺は首輪に血を押し付け、奴隷契約を結んだ。
「契約」
首輪が一瞬光る。契約が成立した合図だ。
「この首輪は付けた本人が成長して首が締まるなんて事はないよな?」
ふと不安になったので訊く。
「大丈夫ですよ。魔法がかかっていますから、大きさは着用者に合わせて変わります」
なんだと? 奴隷の首輪にトンデモ技術使ってんな。
奴隷の首輪って、実は魔法技術の結晶だったりするんじゃないか?
「そうか、ならいい」
俺たちは奴隷商を後にした。
◇◇◇
「ハヤトお兄ちゃん、なんですかこれは」
俺たちは今、芝生の公園に来ていた。
お昼過ぎなので間食をしている人や昼寝をしている人もちらほらと見かける。
「何って首輪だろ?」
「首輪ですけど首輪じゃないです。こんな奴隷の首輪見たことないです」
まあ、一般的じゃあなさそうだもんな。
「それはチョーカーって言ってな、首飾りの一つだ」
「首飾り?」
「ああ、どうせ付けるならかわいい方がいいだろう?」
チョーカーはクロネによく似合っている。
「なんかどんどん夢な気がしてきました」
クロネが弱々しい顔になる。
「不安そうな顔をするな」
「あうっ!」
俺はクロネにデコピンを食らわせた。
「俺は、もうクロネに暴力を振るのを躊躇わないぞ」
それでクロネが安心するならいくらでも手を上げよう。
もちろん怪我はさせないように。
「ハヤトお兄ちゃんの暴力は全然暴力じゃないです」
「なんだと⁉︎」
「だって、あったかいんですもん。わたしのためにっていうのが見え見えです」
クロネは儚く笑った。
その首元では銀色のハートが小さく揺れている。
「クロネ、かわいいぞ」
今はまだ安全かもしれないが、俺はこの世界を旅して回りたいと思っている。
野宿も近いうちにするだろうし、他の街がこの街のように安全な街とは限らない。
「はうぅ〜」
嫌でも辛い思いをさせることになるときもあるだろうし、甘やかせるうちに甘やかしてやりたい。
「ハヤトお兄ちゃんはいじわるです。わたしの不安を拭ってくれません」
「悪いご主人様だろ?」
俺はできるだけ悪そうな笑みを浮かべてクロネに訊く。
「ううん」
「ご主人様はいいご主人様です」
「かっこよくて優しい最高のお兄ちゃんです」
「ふつつかものですが、これからもよろしくお願いします」
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